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19/21

騒がしく森の中へ 3

7/19 言葉に違和感のある部分などを修正

大筋に変化はありません。

俺は両の脚で地を確りと踏みしめ、守るべき者を背に立っていた。



……決まった……!!



まさか出来るとはな、竜巻旋○脚。

いや、逆さだったからスピニング○ードキックか?

……しまった!キャラ的にダブルなラリアットしとけばよかった!!



ゴブリンと狼の群れに囲まれていたテリアンくんとミトナちゃんが視界に入った瞬間、つい思わず飛び込んでしまったが、テリアンくんに集っていたゴブリンをそのまま飛び込みざまに頭突きで吹き飛ばし、ミトナちゃんの手前にいた狼に勢いのついたまま手を突き、捻りを加えつつ潰す形でうまいこと着地できた。

いや、着狼できた、か?


そしてそのままカポエラの要領で脚をぶん回し、文字通りに一蹴した。

どうにか上手いこと邪魔な敵を纏めて潰せたようだ。

やったことの無いやたらとスタイリッシュな見よう見まねの動きでもどうにかなる辺りはステータスのおかげか。


実際にちゃんとスタイリッシュだったかは傍から見ないとわからんが。

……これで不恰好だったらすげぇ恥ずかしいんだけど。



しかしまあ……。



(テンション上がるわぁこれ……!!)



飛び込む寸前に注意を引ければと、思いつきでアピールタイムを使用してみたらお気に入りの熱血系アニメの、ネットでは処刑用BGMと評される曲が大音量で流れ出し、いい具合の照明が何故か光源も無いのに上方から当てられた。


娯楽神(の眷属)俺の趣味分かり過ぎだろう。


いかにもヒーロー見参なシチュエーションと、一気に敵を倒したことによる

経験値の大量吸収に酔ってしまったのかついついいい気分で啖呵を切ってしまったが、ゴブリンって人の言葉判るんだろうか。


まあそんなことは今考えんでもいい。



「こねぇならこっちから行くぞ!でりゃぁああ!!」



こっそり起き上がってミトナちゃんを引っ張って敵の少ない方へと誘導するテリアンくんを横目に、自分でも


(これヒーローっていうよりヤカラとかチンピラの類だよなぁ)


という雄叫びを上げながら、突然のことに対応を取れなかった狼の群れに、

近くで中途半端に巻き添えを食らって動けないでいる狼の胴を引っつかんで、スキル無しで思い切り投げつけてみる。



「ギャウッ!?」


「行って来ぉおおおおぉおおおおいい!!」



振りかぶって投げた狼手裏剣第一球は見事5,6匹で固まっていた狼の群れに着弾。


すとらーいく。


不幸にも真ん中付近にいて直撃した二匹と投げつけた一匹がそれが致命傷になったか、光と共に消滅し、残りはダメージを受けて悲鳴を上げたが、どうやらそれだけで倒すには至らなかったようだ。



「グルルルル……アオォン!!」



正面から攻撃を受けたことで明確に敵と認識し、ようやく他の狼たちも四方八方から襲い掛かってくるが……!!



「ドラァ!」


「ギャンッ!?」



左から飛び掛ってくる狼3匹を裏拳一発で纏めて薙ぎ払い、



「ふんっぬっ!」


「グギャゥ、ギャッ」


右前から脚を狙って駆けて来た狼は頭を掴んでそのまま地面へと叩きつけミンチに。



「アオォオオオーーーン!!」


「ウォウゥッ!」「ガゥッ!」


「ぬぅぅぅ……」



正面から首筋、脇下、太腿へと牙を向いて噛み付こうとした狼たちは



「ぅうぬぅううううりゃああああああ!!!」



その場で両手を硬く握り締めての今度こそのダブルなラリアットで悲鳴も上げさせずに顎部どころか体全体を打ち付けて吹き飛ばした。


よし……!キャラ的にノルマ達成……!!


これであとはあの印象的な投げ技かなーとほんの少しでも意識が逸れたのが原因か



「……ぁぁああああああってあ!?げひょぉっ!?」



足元から姿勢を低くしたまま両腕を掻い潜って

回避してきた狼に足を噛まれてバランスを崩し、

咄嗟に狼を蹴り払うも回転が完全に止まってしまう。


そこを背後から突進を再開していたイノシシに真正面から派手にはねられ、狼とゴブリンを巻き添えにしながらも木を砕き、圧し折り、縦回転しながら三本の木を突き抜けたところで大岩に叩きつけられて止まった。


あ、頭がくらくらする。


そうだ、完全にテンションがハイになって忘れていたが、あいつもいたんだった。


背中が激しく痛むものの、ふらつく程度ですぐ立ち上がれた

自分の頑丈と言う言葉では収まらないほどの強度の体に呆れつつ、

自分を弾き飛ばしてくれやがった張本人を睨みつける。



「ブゴォ……ブルルルルッ!!」



まず思ったのはデカイ、でか過ぎる。

見上げた目測は4,5メートルくらいか?高速道路で見かける運送トラックと同じくらいか、それよりも大きいんじゃないか?


立派に過ぎる天を衝くような二本の逆立つ牙に、主な攻撃方法が体当たりなのだろう、古傷だらけながらも頑強なことが伺える大きなハンマーの打撃面のような鼻先。


そんなのがまたいつでも吹き飛ばしてやるとばかりに地面を蹴り、鼻息荒く突撃体勢を整えている。



俺今ほんとによく生きてたな。



「何でも来いってくらいにやる気は満々だったんだが……」



腰を落とし、獰猛に哂うように歯をむき出しに食いしばりながら、胸中でごちる。



(こりゃ無理じゃねぇかなぁ……)



またも突撃してきたイノシシに、どうやって倒したものかと頭を悩ませた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「無茶苦茶だよ……」




巨大な破城槌の直撃にも等しい一撃を喰らったというのに、その直後に頭を振りながらも跳ね起きの要領で立ち上がった大男-本来は僕たちが教導役として助けなければならない相手、ザンさん-を、意識を失っているミトナを安全圏にひっぱり、互いの壊された皮鎧の応急処置をしながら遠目に見つめる。


先ほどから鳴り止まない大音量の演奏が魔物たちの気をひいているのか、狼もゴブリンも不思議なほどにこちらに関心を向けない。



「ふむ、回転中に丁度体の前面が猪の方を向いていたからスキルとの相乗効果で

ダメージを大幅にカットできたのかな?

流石にそうでもなくてはあのタフさはおかしいだろう」



「うひゃあっ!?」



余りの恐怖に気絶してしまったミトナに膝を貸しながら、半ば呆然として座り込みながら修繕作業をしていたところに、突如ぬっと生気の無い顔を背後から突き出されたために、思わず魂が口から飛び出そうなほどに驚いてしまう。



「ふくくっ、良い反応を有難う少年、奴なら肉弾戦に限れば余程の事でも無くば心配は無用だよ、安心したまえ」



「は、はぁ……」



屈んで視線を合わせ、細く鋭い眼を蛇のようにぎょろりと動かしてこちらを見て笑うユッグさんに、身を硬くしたまま生返事を返す。

言われなくてもあんな人に心配なんて出来る筈が無い。


以前あのイノシシ-ストレンジボアに僕が遭遇したときは、あんなに大きくない幼生体にも関わらず(そういっても体高だけで、僕の身長を軽々超える程度にはでかかったんだけど)、それ相手でも防戦一方どころか情けなくもなけなしのバフ(強化)アイテムをなりふり構わず使ってでさえ逃げ回ることしかできなかったと言うのに、今のザンさんは体当たりの直撃を受けた後にも関わらず、イノシシの突進に合わせて左右に飛び込み前転の要領で回避しながら背後に回って的確に、音だけでもものすごい威力だとわかる拳や蹴り等の打撃や、投石による攻撃を加えている。



「すごい……最初の一撃以外全部きれいにかわして反撃してる、まるで何度もあんなのと戦ったことのある熟練の剣闘士みたい」



「ん、まぁ……ある意味仮想世界では何度もというか、シリーズの度にアップデートされた動きに学習しているというか……」



「?」



なんだかユッグさんが両手を小さな器でも持つような形にして指をぴょこぴょこと動かして何かボソボソと呟いてたのが気になったけど、もしかしてあの黒いもやを使うための魔術儀式か何かなのかな?

余計なことをいって邪魔しないようにしないと。


……ん?そういえばユッグさんの最初に感じた怖い感じがそこまでしなくなったような。

顔はまだ怖いと思うままだけど、雰囲気っていうか……慣れてきたのかな?

味方だとはわかってたはずだけど、さっきザンさんに助けられたときに緊張してた体が二人は味方なんだって安心してくれたのかな?



そんなことを考えていると、イノシシに集中しているザンさんの背後に、大きな錆だらけのナイフを構えたゴブリン達がじわじわと包囲しながら草の陰に隠れつつ近づいているのに気がついた。



「あっ!」



愛用の剣を掴み、腰を浮かせて援護に行こうとしたところをユッグさんに手で制される。



「え……?」



「私が行こう、まだその赤毛の子は目覚めるまで時間が掛かるようだし、

こちらに敵を掃討しながら向かっている青毛と共に、君が傍について守ってあげたまえ」



思いがけず優しい言葉に思考に空白が生まれ、さっさと気負いもせずゴブリンの背に近づいていくユッグさんに、見た目で人格を疑っていたことと、それでお礼も言えずに見送ってしまった自分に心底恥ずかしくなってしまう。



後方を見ると、彼の言葉通りにアニーが縦横無尽に槍を振り回し、ザンさんに気を取られて注意が散漫になった魔物を次々と倒しながらこちらに向かっているのが見える。


これなら確かにそう掛からない間に合流できるだろう。



「……!」



なら今自分ができることは、携帯薬草によるミトナの回復と防具の応急処置、そして体勢が整い次第二人の援護に駆けつけられるように準備することだ。


仮にもギルドに二人を任されているんだ、こんな僕にも冒険者としてのプライドがある。


一度強く愛剣の柄を握り締め腰に戻すと、急いで携帯薬草の調合作業に入った。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






ゴブリンの普段から濁り、茫洋とした思考は今、赤く沸騰していた。


視界に映るあの大きなヒト……ヒト?種族は定かではないが、

とにかくやつを倒さねばならない、倒さなければ自分たちにこれからの命は無い。


急に辺りに鳴り響いた謎の大音がそう我々の本能に叫び続ける。



同胞が組み伏せていたヒトの女への獣欲も、女かどうかよくわからないがやけにそそる小柄なヒトのことも今はどうでもいい。


殺した冒険者の持っていた武器を、流派も何も無い乱雑な手つきで掴む。

これをあの男の背に突き立てねばならない。



黄色く尖った乱杭歯を食いしばり、低い唸り声と共に飛び掛ろうとした。



まさにそのとき。






ずぐり。







赤熱した思考の熱は消え、代わりとばかりに体の中心に灼けるような熱を感じた。



「ギッ……!?」



そしてその熱を中心に力がかかり、地から足が離れ持ち上げられる。



手足をもがくようにばたつかせ、白濁し、血走った眼を走らせ、右を見るがそこには何も無く、次に左を見ると。






「やあ。」






そこには【死】がいた。




人間の言語など判らないが、それに籠められた感情ぐらいは普通感じる。



しかし、その、それから感じた声の温度は、無 だった。






血の通いを感じさせない青白い肌。



映るモノの価値を底まで見通す冷徹な邪眼。



後背からは新月の闇夜よりも尚濃き瘴気が溢れ出し。



三日月の様に半円に裂けた口からは鮮血のような紅が覗く。






「面倒だが任されてしまったのでナ?」





(くる)り、と、こちらの顔を覗き込むように哂う。



他の同胞はまだ、この【死】の存在に気がついていない。




しらせ なければ  しらせ なけ  れ  ば




震える口を開いて同胞へと叫びと共に知らせようとしたが直後、首の真後ろから口内を貫いて剣が生えた。



あっという間に暗くなっていく視界に、死への恐怖と、もうこの【死】を見ずに済むという安堵が混ざり合う。



そんな温もりさえ感じるまどろみに落ちようとした意識を






「貴様らハ、皆殺しにしてあげヨウ」






囁く様に耳に入れられた声が魂の温度を奪い去り、永久に氷漬けにした。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









「パターン入りましたワー!コレぇぶごぎゅるぅっ!?」等と、調子に乗ったザンが猪の後ろ足に天高く蹴り上げられているのを横目に。



手に持った曲刀と直剣を左右へと振り抜き、ゴブリンの体を等分した私は、光になって消え行くゴブリンの経験値を味わいながら、次の獲物を見定め、背後へと悠々と近寄る。



(ふむ、チンピラよりはジャンクな味わいだが、悪くは無い)



そして無造作に、背後から心臓と思しき位置と喉に剣を突き立てる。



「……!?……ッ!?」



もがき苦しむゴブリンを吊り上げ、そして両の手を左右に開く。


ブチブチと汚い音をたてながらその体は引き裂かれ、一瞬後に光に消えた。


本来だったら森の中で非常に目立つ現象だが、今はザンのアピールタイムの影響で光と音が乱舞し、敵のヘイトが全て管理されている為にこちらに気付く敵個体は居ない。



「……」



口の端があがる。



歩く 突き刺す 抉る 掻き混ぜる 縫い付ける 切り裂く 刎ねる 叩き割る 



手を替え 品を替え 武器を替え。



自分に合った【処分法】を模索しながら、処分を続ける。


敵が全て背中を見せてくれているお陰で非常に殲滅はイージーだ。


そうして3本目の大き目の鉈の様な形の剣を使い潰した所で丁度目に付くゴブリンが尽き



ポーン ユッグ の レベル が 9 に なった !

ポーン ザン の レベル が 9 に なった !



システム音とメッセージが脳裏に浮かんだ。



背筋を駆け上がる快感に全身を震わせつつ、丁度猪から前転で逃れて目の前に飛び込んできたザンに声をかける。



「雑魚の始末は終わったぞ」


「ぅぎゃあ!?」



距離の感覚を誤ったか、私の足元で顔を上げたザンが全力で仰天したような声を出す。


背後の猪に振り向いて攻撃を加えることも忘れて慌てて飛び退いたザンは、心臓に手を当て、バクバクと心音がこちらに聞こえてきそうなほど驚いた顔でぜーはーと肩で息をする。



「い、いきなり声かけんじゃねぇよバンパイアにでもエンカウントしたかと思ったじゃねぇかこの死人顔!!」


「人の顔見て唐突に失礼だなこの筋肉ダルマが鉈でドタマカチ割るぞ腐れオーガ!!」



元々大して鋭くも無い刃がゴブリンの頭蓋を叩き割ったことで完全に潰れた鉈を投げつけるが、屈んで回避されて後ろの猪の尻に突き刺さる。


戦闘の最中でもネタを挟まなければ気が済まないのだろうかこの馬鹿は。



ずっと打撃を受けていた所に突然斬撃のダメージが加わった事に悲鳴を上げながら驚いた猪は、足元の土を大きく蹴り上げながら血走った眼でこちらを振り向き睨み付けてくる。



対して、平静を持ち直し、首を回しながら手を鳴らすザンと、和装の懐に手を突っ込み、アイテムボックスから新しい獲物を取り出した私。




「俺の顔面にナタをブン投げてくれやがったことは置いといてやる……とりあえずこのでけぇ牙付き豚をさっさと始末すんぞ」


「はぁん?何のことだ?あの鉈は最初から猪目掛けて投擲したものだぞ?はははまったく変な言い掛かりは止めて欲しいものだな」


「はっはっはんな屁理屈通ると思うなよこの腐れ外道が、これ捌いたら憶えてやがれ?」


「ふふふ貴様は昔から思い込みが激しくて困る……、そうだ、ちなみに私は焼肉はウェルダンが好みだ、良く叩いて下拵えご苦労」


「あってめっ、こいつの調理まで俺に任せる気じゃねぇだろうな!?」


「だいじょう、ぶ、火加減、は、任せて」


「どぅわぁああてめぇもどっから沸きやがった!?」




言い合いする私達の間に平然と体の前面に火炎弾を構えて立つアリス。



「向こう側、のおおか、みは、もう、おわらせといた、よ?」


「ほう、姿が見えないと思えばそれはご苦労だな幼女。後でそこのデカブツが一番美味しい部位の肉を用意してくれるからな?」


「たの、しみ」


「だっ、てめぇ子供を味方につけんのはずりぃぞ!!?」


「一々煩い奴だな……」



どうやら猪は馬鹿なかけあいに付き合うつもりは無いようで、会話の最中にもこちらに向けて駆け出してきた。


それに合わせてザンが前に進み、全身の筋肉を隆起させながら腰を落とす。



「そうらそんなことを言っている間に時間切れだぞ?唯一の前衛なのだからほらほら、さっさと行け」


「他人事だからっててっめぇあれの突進めちゃくちゃこえぇんだからなぁ!!」



情けないことを言いながらも、ザンはまるで相撲の立会いのように

屈んだ姿勢から渾身の力を込めて真正面から助走をつけて立ち向かう。




「ブゴッ!!ゴルァアアアアアアア!!!」


「がぁああああああああ゛あ゛あ゛!!!」



互いに咆哮を上げながら、圧倒的な質量同士がぶつかり合う。



「「あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛ア゛あ゛!!!!」」



猪は巨大な双牙を、ザンは筋肉の盛り上がった豪腕を。



轟音と共に叩きつけ合った。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







「ぐっう、うぅううう!!?」



やっぱり、当然のように力負けしている。


そりゃそうだ、レベルアップで悠々と2m越えするほどに大きくなったとはいえ、所詮元の素体は自然界の獣には到底素手では及ばない貧弱な人間なのだ。


相手は野生動物(いや、野生魔物?)、しかも俺の倍近くデカイ相手だ。

質量から筋肉量からパッと見て判るくらいに負けている。


それを覆す可能性があるとしたらスキルとレベルだが、オートスロウは相手のレベル自体は低いのか、それとも相手が重すぎるのか触れても発動せず、任意で発動するスキルのたたき潰すもほうりなげるも、取っ組み合うには不向き。



「ブゴォオオオオオオ!!」



辛くもぶつかり合った地点で押し止める事には成功したが、鼻息荒く猪が力を込めるたびに踏ん張る足が地面にめり込み、後方へと押され下がる事を余儀なくされる。



だが。



「鼻息荒ぇ!ケモノくせぇんだよごのやろ゛ぉおおっ!!」



動きを止めさえすれば上等。


頭を一瞬だけ引いて、その硬そうな鼻面に思い切り額を叩きつける。



「ブゴォッ!?」



予期しなかった反撃なのか、一瞬だけ怯んだ猪に



「えん、ごっ!」



アリスの手から人の頭大の火炎弾が射出され、両目の丁度中間辺りに着弾する。



「ゴォオオオッ!?!?」



たまらず身をよじり、力を緩めて下がろうとする猪を、牙をがっちりと掴んだまま力ずくで押さえつける。



「ユゥッグゥウウウウ!!」


「煩い、そんな大声を出さずとも……」



暴れ続けていた猪が完全に静止したほんの数拍の間を、こいつなら



「逃しはしない」



逃すことは無いだろう。




「【オートカーシング】、貴様には悪夢がお似合いだ」



ぬるりと近寄り、剣を握ったままの左手で猪の大きな瞼をこじ開け、躊躇無く貫手をその眼に突きこんだ。




「ゴ、ギャアッ……!!」



短く悲鳴を上げ、真上を向いて硬直する猪に、右手を引き抜いたユッグはがら空きになった軟らかい喉元に剣を深々と突き立てる。



「そら、全力でぶちかませ」



痙攣する猪に、俺はユッグが来た時点で離し、振りかぶっていた右手の力を。





開放する。




「喰らいやがれぁああああああ!!!!」



【たたき潰すよ! LV1】



本来、人間の体にはリミッターがかかっている、というのは有名な話だろう。


普段使うには必要外な程の力を、己の体を壊さないようにセーブしているのだ。


火事場の馬鹿力というように、文字通り命の危機にでも瀕しなければ発揮されないその力。


20%から30%しか使われない、使うことのできない力を、このスキルは十全以上に発揮させる。




《全力の2倍の力で叩き潰すよ!》




普段の最大の5倍の、更に倍。


ザンの普段の10倍の一撃が、剣を通して猪の頭蓋へと叩き込まれた。



ギュゴッ!!!



水っぽい何かが、ものすごい力で貫かれた音が響いた。



力は剣を通して頭部全体へ伝わり、頭蓋骨の内部は衝撃で丸ごと破壊された。

かつて剣の形をとっていた鉄塊は猪の体内を背骨を滑る様にして貫通し、短い尾を破壊しながら飛び出し、向かいの大木へとその身を減り込ませた。



一拍の後、猪はその場に崩れ落ち、俺は腹の底からの勝利の雄叫びを上げた。






ポーン ユッグ の レベル が 10 に なった !

ポーン ザン の レベル が 10 に なった !




レベルが10になりましたので、インベントリにプレゼントがあります。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「困りマスねえ……こういうノハ」


「……」




その姿を、二対の紅い瞳が見つめていた。











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