騒がしく森の中へ
大分お待たせしたところへしれっと投稿。
ストーリー憶えてる方が何人いるか……
「ひ……ぁ……」
声にならない、吐息のようなかすれた声が聞こえる。
仰向けに倒れた状態から頭だけを起こし、
赤毛の少女は返り血に赤く濡れた頬も気にならない様子で、
こちらをただただ見上げる。
青髪の彼女は地面にぺたんとへたり込み、
両の手は彼女の相棒である両刃の槍を持っているものの、
力は入っておらず、膝の上に降ろされている。
目には、無力感が満ちていた。
緑の頭の少年は、半ばで折れた剣と傷だらけの
バックラーを手に立ち尽くしていた。
「……僕は無力だ」
頼りなくも優しげで、慈愛と勇気を併せ持つようだった瞳には苦渋と、
自分の手には遠く届かないものに対する憧憬のような感情があり、
彼は悔しさに、歯軋りがするほどに己の不足を噛み締める。
「……」
俺、ザンは、ただただ何も言えず、立ち尽くす。
両手には、それぞれ苦痛に満ちたように見える鬼と
醜い豚のような顔を持った魔物の首が一個ずつ。
瞬間、残っていた生命力が完全に尽きたのか、
それらは光の粒子に分解され、手中には
一本の角と、大きな牙、親指ほどの宝石のような石が残された。
少し離れたところでは、ユッグが汚物を掃除しているような表情で、
痙攣する子鬼と狼を【処理】している。
奥には顔面がズタズタになった、大きな亜人の骸が転がっており、
今まさに光となって消えた。
その光景に余りにも似つかわしくない少女がテクテクと
近づき、亜人が倒れて平らに潰れた草むらから
ひょいひょいと何かを拾い集める。
「……あ、レアドロップ。」
そのつぶやきと同時に、俺の脳内でファンファーレが響き渡った。
「……なんだこれ」
まったくもって、どうしてこうなった。
さて、順を追って考えてみようか。
それは、大体一時間ほど前のこと。
眼前には見渡す限り広がる大草原。
ローヤルウッドの東門を出て十数分ほど東南方向に歩いたところ。
それなりに舗装工事がされているのか、それとも
馬車の轍や冒険者の行き交いで踏みしめられ
道ができたのかは知らないが、それなりに歩きやすい土肌の見えた道。
普段どおりの歩幅でてくてくと歩く俺たち異世界人二人を、
その数歩先を早足でぎくしゃくと進む中学生くらいの少年少女三人
パーティ名【ワイルドキャット】が先導していた。
……先導というよりは、どうにかして距離をとりつつ
さっさと仕事を済ませたがっているようにも見えるが。
あからさまに顔色悪く、こわばった表情で早歩きを続ける三人に
いい加減申し訳なくなり、当初のコワモテキャラは一旦無かった事にして
俺、ザンは重い空気の中、愛想笑いを浮かべつつ出来るだけ
威圧感を与えないように心がけつつ話しかけてみることにした。
「えっと、アニーちゃん、だったかな?」
「っ!?……は、はっ、ワタクシはアニー・リテアードで間違いありません!」
「いや、そこまで緊張しなくてもいいんだけど」
「もっ、申し訳ありません!!」
「別にとって喰やしないよ……」
ワイルドキャットのまとめ役らしい槍使いの青髪少女、
アニーちゃんにまずはコミュニケーションを図ってみる。
彼女はまじめそうに引き結んだ口元と、冷静そうな涼やかな目元から
なんとなく学校のクラス委員長、といった雰囲気が感じられる。
身長も女の子にしては高く、幼さの残る顔立ちのわりに体も
日頃から鍛錬を行っているのか引き締まっており、
背負った槍は使い込まれているのか、少なくとも
真新しい印象は受けない。
「それに、テリアン君にミトナちゃんだよね?
今回協力してもらう立場でこちらから言うのもなんだけど、
どうかそんなに緊張しないで、気軽に接してほしい、かな?」
緑色の髪の片手剣使い少年、テリアン・トニー君と、
鮮やかな赤毛の弓使い少女、ミトナ・ミニスちゃんにも
話を振ってみる。
テリアン君はなんというか……いかにもショタい感じの少年だ。
タレ目で女顔で小柄、クラスにいたら確実に
気の強い女の子連中に弄られるポジのキャラで、
文化祭とかあったら絶対無理矢理女装とかさせられるタイプに見える。
どうにも庇護欲をそそられるオーラを放っていて、
今も歩きながらアニーちゃんの影に隠れて、小型犬のように潤んだ瞳で
こちらをちらちらと伺っている。
視線を返すと、ちいさく「ひぅっ」とか声を漏らして
小さな体をさらに縮こまらせた。
そういう趣味のおねえさん方や一部のおにいさんなら大歓喜しそうな
見た目だが、存外クエストの達成率は高いらしい。
線は細いが、スピードや立ち回りで優位をとるスタイルなのだろうか。
ミトナちゃんはわかりやすいツンデレキャラっぽい印象。
ツリ目にいろんなとこが華奢な体型で、先ほどから鈴を転がすような声で、
テリアン君にもっとしっかりしなさい!
とか男の癖に情けない!とか喝を入れていた。
しかし今は明らかに虚勢を張っているのが透けて見える。
緊張とかのメンタル部分が隠せない性質のようで、
最初の挨拶のときも、胡散臭い笑みで話しかけたユッグの対応に、
「ワイルドキャットのミトナ・ミニスよ!よろしくしてやってもいいわ!」
と一番先に威勢の良い言葉を返していたものの、
足は一目でわかるほどに震え、勝気な笑顔は明らかにひくついていた。
仲間のために自ら貧乏くじを引きにいくタイプだろうか。
過剰にこちらに気を張った態度でいるが、多分根は良い子なのだろう。
むしろ良い子だからこそこんな怪しい二人組に対して、
パーティメンバーをかばうように矢面に立って対話したのだろうが。
そんな性格の彼女だからか、今のこちらからの言葉に対しては
少々過敏とも言えるほどに反応を示した。
「き、緊張なんかしていないわ!私たちはもうこの町で3年も
パーティを組んで冒険者稼業をやっているのよ、他の
パーティと一緒にクエストをこなす事ぐらいなれっこなんだがら!」
「だ、大丈夫です……デリーの兄貴やドズルさんだって強面だけど
良い人だったし、慣れれば大丈夫、平気、平気……」
腕を組んで気丈にその乏しい胸を張って応えるミトナ嬢と、
明らかに大丈夫じゃないだろうという様子で、
後半は半ば自分に言い聞かせるように返事するテリアン君。
……やはりこの旅の一番の問題は人間関係の構築じゃなかろうか。
信頼関係とも言う。
「ほらほら、貴様が恐ろしい顔面を近付けるから
童らが怖がっているじゃあないか」
「てめぇも人のこと言える顔面じゃないことを
忘れんなよ香港マフィアが……」
「洋画の巨人系クリーチャーに寄っていってる貴様よりは
まだ人類に近しい顔だと自負しているぞ?」
「はっはっはパニックホラーの大御所のドラキュラ伯爵が
何か仰っておいでのようだぜ?
誰か下に日本語の字幕か吹き替えを入れてくれや」
ナチュラルに少年少女の怯えの原因を俺のみに
なすりつけようとしてくるユッグに
ついついいつもの調子で罵倒を返し、
終わりの見えないなじり合いがスタートしかける。
あっけにとられた様子のワイルドキャットの面々が
こちらを見ているのにも気付かずに、
少々ハードな掛け合い漫才がヒートアップしかけたところを、
抑揚のないぼんやりとした声が止めに入る。
「落ち着い、て?ふたりのいってること、は、よくわから、ないけど、
たぶん……どっち、も、どっち、だよ?」
「うをぁどっからわいたぼろきれ幼女!?」
「私の目が正しいなら貴様の背中からに見えたな。
あと服は着替えたようだし今は魔女ローブ幼女と評するべきだろう」
「言い辛いしそんなことどっちでもいいわ!?
いつから張り付いてやがったんだこの謎幼女!」
「ぼーけんしゃギルド、に、入ったあたりで、こう、入り口の上の
出っ張りのとこからぴょん、って……あとは話にまざる
たいみんぐを、まって、た」
「ちなみにそれは私も気付いていた。
面白そうなのであえて指摘はしなかったが」
「いや言えよ!?その場で!!」
訂正、止めに入ったというよりは更なる混乱にぶち込むことで
それまでの流れをうやむやにしたというべきか。
俺の知らぬ間に背中に張り付いていたアリスが
ひょっこりと俺の右肩から顔を出して、無表情のままにぐっと親指を
ユッグに向けて立て、ユッグもニヤニヤと笑いながらそれに
同じく親指を立てて応える。
いつのまにこんな仲良くなりやがったこいつら。
そんな具合に俺が二人に翻弄されていると、
それを見ていたワイルドキャットの面々から
こらえきれず、といった具合にクスリ、と笑みがこぼれた。
思わずなんともいえない情けない表情でそちらを俺が見やると、
更にそれがダメ押しになったようで、もはやこらえる様子もなく
少年少女らから笑い声が上がった。
「む、ぐぅ……」
結果的に俺一人がピエロになったのは頂けないが、
どうやら当初の目的通り緊張をほぐすことは出来たようだ。
頭をぼりぼりと掻きつつ、きまり悪く懐から羊皮紙を取り出し、
書かれた今回のクエストの内容を確認する。
探索・討伐クエスト:【近隣森林地帯の偵察】
開拓中の森へと続く道にゴブリン発生の報せあり。
どうやら最低4体以上のメジャーゴブリンが
その周辺を徘徊しているとの情報を得た。
現地に赴き、処理できる範囲で魔物を駆除すること。
巣の発見および破壊、魔核の回収に成功した場合、追加報酬を与える。
/注意点/
メジャーゴブリンは力による支配を受けるモンスターで、
オークなどの中位級モンスターが背後にいる可能性がある。
オークは知能が低く俊敏さもないが、
その分非常に腕力の強いモンスターなので、
遭遇時の交戦は推奨できない。
その場合は、撤退しギルドに報告してもクエスト達成とする。
依頼人 冒険者ギルドローヤルウッド支部
報酬 一人につき500G
なんというか、いかにもファンタジーな内容のクエストだ。
非常にゲーム的で、正直なところ
少しわくわくしているという気持ちは否定できない。
出る前に挿絵付きの資料を見せて貰った所、ゴブリンの見た目は
我々日本人がイメージするようなゲームに出てくるような
背筋の曲がった子供ほどの背丈の醜い亜人のような姿で、
これなら見間違えたり見逃したりすることはないだろう。
オークもお約束に違わず、豚頭に2m以上の巨体を誇る亜人型のようだ。
ゴブリン1体を安定して倒すのに必要な推奨レベルは
3~4レベルほどで、オークは8~10レベル程度の
冒険者が3、4人パーティを組んでいればいいらしい。
平均レベルが8というワイルドキャットの面々では、
ゴブリンの群れくらいなら余裕だが、
それを指揮するオークがいるとなると少々手に余る、といった辺りか。
ちなみに最初の森ことバスエットに出てきたトレント討伐の
推奨レベルは、擬態して潜んでいることの
危険度も含め12レベル前後だとか。
やっぱりゲームバランス狂ってやがるわ。
まあレベル1でもスキルの相性次第では格上の
モンスター相手でも打倒し得るという情報を
得たと考えることで自分を納得させておこう。
そして新しく出てきた魔核という言葉だが、
モンスターを発生させる根源だそうで、
人通りがなかったり、生物の死骸があったりで
空気の澱んでいる場所に自然発生する物質らしく、
決まって地面から祭壇の様にせり出した石柱の上に
黒々とした光を放って存在しているそうだ。
これが周囲の生物やら無機物やらに影響を与え、
モンスターへと変化させているらしい。
石柱から取り外すことで影響が収まること、
再度地面から伸びた柱状の台座に載せる事で
再び影響を与えだすことが確認されているが、
いまだに詳細は不明。
なんらかのエネルギーに転用することを期待し
各国が競って研究しているが、なかなか原理が解明できておらず、
サンプルは多ければ多いほどいいとのことで、
国家がギルドを通して高価で買い取っているとのこと。
うむ、いろいろ聞いた話を思い出していたらなんだか楽しくなってきた。
これから命のやり取りを含む鉄火場に赴くというのに、
なんだか新作ゲームを購入して説明書を読んでいるような
そんな気分になってきた。
木の化け物やら、賊とはいえ人間までこの手で下してきたというのに、
それでもなお変わらぬ気分に業の深さを感じる。
(まあ感じるだけで特に何も変わりゃしないんだがな)
そんな自分に軽く呆れるようにため息をつき、
羊皮紙を懐にしまいなおすと、アニーちゃんが
振り向いてこちらに声をかけてくる。
「つきました、クエストにある森です……と、言っても手前は
さして見通しも悪くない林ぐらいの密度ではありますが。
ミトナ、敵性感知をお願い」
「はいはーい、了解っ……うん、森の中から手前の方に
走ってくるのが2……いや、3体はっきり判るのがいるわね。
1体反応のおぼろげなのがあるのは、潜伏してるのかしら。
とりあえずあと1分もしないうちに接敵する距離よ、
戦闘中にもう1体の奇襲に備えるわ、テリア、アニー、壁役よろしく」
「うん、任せて」
「いつでも大丈夫よ」
手近な木を遮蔽にするようにテキパキと布陣する三人。
連携もこなれたものなのだろう、一番前に小型の盾と片手剣を構えた
テリアことテリアン君、中衛として長物の槍を抱え持つアニーちゃん、
後衛に弓に矢をつがえるミトナちゃんと、
それぞれよどみなく配置についた。
「ザンさんとユッグさんは、一応連携戦闘の見学が今回の
主目的となっておりますので、最初の戦闘は下がって私達の
戦い方を見ていてください。
2回目は他パーティーとの連携の仕方ということで参加してもらいます。
……と、いってもまあトルイヌ組合長の件は伺っております。
既に我々以上の腕はお持ちかと思いますが、慣例ということで
ご容赦をいただけると幸いです」
「いやいや、私たちも普段から他のパーティの戦い方を
拝見する機会が少ないのでね、ぜひとも勉強させて頂きますよ。
という訳だザン、私のための丁度いい遮蔽がないから貴様が肉壁になれ」
「ステータス的には納得なんだがお前の言い方が気に食わない。
投石とか矢が飛んできたらソッコで避けてやるからな……
ってかいい加減アリス、お前は降りろ、
いつまでしがみついていやがる気だ」
「え?だって、たぶんここが一番、安全、だし?」
「揃いも揃って人を当然の如くシールド扱いしやがって……
顔面カースド野郎は人格的にもう手遅れだから何も言わんが、
お前は俺が不規則に避けたり走ったりの機動することを忘れんなよ?
あとで乗り物酔いしたとか言われても面倒見切れんからな」
半目になって睨み付ける俺の視線などどこ吹く風とばかりに、
アリスはどうやってしがみついているのか、両手離しで
乗り心地と余裕をアピールするかのように俺の首の左右に顔を出しつつ
「だい、じょぶ、ザン、跨ってると、とても、いいし」
「語弊を招く言い方を今すぐやめなさい」
「ご歓談中遮って恐縮ですが、来ますよ!」
警戒しろと言われた直後に雑談ムードに入りかけた
不気味凶相無表情のチーム顔面友好度0に、
アニーちゃんが声を張り上げる。
そちらに目線を向けると、森の中から走ってくる影が三つ。
30cmほどある丈の長い下草のなかを、足をとられることなく
野生じみた動きで素早く突っ込んでくる醜悪な顔。
身には腰蓑のような物を纏っただけの無手ではあるが、
君の悪い色の無数の疣が浮き上がった顔には、黄色く汚れた乱杭歯が光っている。
十分な武装をした前衛ならまだしも、ミトナちゃんのような後衛や、
アリスのようななんちゃって魔女っ子のような装備の人間が
噛みつかれでもしたらと考えると、充分に警戒すべき対象だと言える。
ユッグ?ゴブリンでもあんなやつに噛みつきたくはないだろう。
ゴブリンは一番近くにいたテリアン君を標的に飛び掛る。
「せいっ!」
が、気合一閃。
バックラーで飛んできたゴブリンの顔面を殴りつけるようにして
勢いを殺し、そのまま落下途中のゴブリンの胴を薙ぐように斬りつける。
地にドサリと音を立てて落ち、斬られた腹を反射的に抱えるように
庇ったゴブリンの頭に冷静にショートソードを叩き込む。
一瞬の間の後、ゴブリンは光の塊となって空気中に霧散した。
もう2体もゴブリンもそんなことに頓着せずに襲い掛かってくるが、
そこをアニーちゃんが槍でインターセプト、文字通り横槍を入れる。
剣を振り下ろして一瞬無防備になったテリアン君に襲い掛かった
2体だが、槍の穂先と石突をコンパクトに振り回すようにして
それぞれ胴体に叩き込まれ、勢いを失って撃墜される。
そこを間髪入れず復帰したテリアン君の剣が2体纏めて
丁度並んだ首を薙ぐようにして止めを刺す。
これで3体のゴブリンが光とともに消滅した。
ほー、と、あっという間に倒し終えた手際に感心していると、
じっと弓をつがえたまま森の中を睨み付けていたミトナちゃんが、
ゴブリンの散った少し先の木々の枝の生い茂ったところへと
構えていた矢を射掛ける。
「そこっ!」
頭上の枝の中へと矢が消えていった数瞬後に、小さく呻く様な
声が聞こえると同時に一瞬その辺りが明るくなり、
ポトポトと何か小さいものが落ちてきた。
「……ん、付近に怪しい反応も……後方のユッグさん以外なし。
このグループはこれでいっちょうあがりってとこね!」
地面に落ちた何かを拾い集めるテリアン君、周囲の警戒を続けるアニーちゃん、
そしていい笑顔でさらりと失礼なことを言うミトナちゃん。
なるほど、役割分担の出来たバランスのいいパーティのようだ。
あっという間に終わった戦闘に俺は小さく拍手を送り、
アリスは特に何のリアクションもなく俺の肩口から顔を覗かせ眺め、
ユッグは怪しい扱いに常の薄ら笑いを引きつらせている。
……こっちも戦闘技能では役割分担的にわりとバランスいいはずなんだがなぁ……。
ひょいひょいと地面から何かを集め終わったのか、テリアン君が
いまいちまだこちらに腰が引けた様子で話しかける。
「あ、あの、これがゴブリンのドロップです、主に爪や牙が
ドロップすることが多く、次に骨、内臓、一番貴重なのがカードです」
そういって手のひらに載せた幾つかの白っぽい欠片をこちらに見せる。
内訳は爪が4本、牙が6本、良くわからない緑色の石が3個?
この石は冒険者なら知っていて当然なものなんだろうか?
そしてカード?
「ここらのゴブリンだと魔石は緑色でランクも低いので、
買い取り価格はせいぜい5~10Gってとこでしょうか。
まあ回収するのに手間もかかりませんし、小さな回収用の袋があれば
それ一つで済むので便利ですよ、ギルドにも50Gで丈夫なのが置いてますし」
まあ、ギルドの人に宣伝するようにって言われてたんですけど。
そういってごまかし笑いを浮かべるテリアン君にユッグが
「なあ……ええと、テリアン君、で良かったかな?」
「?は、はい、そうですけど……」
「さっき言ってたカードとやらは「うっしろー」?」
話しかけようとしたところを、アリスの抑揚のない声が遮った。
「GYYY!?」
続いて聞こえる金属を擦り合せた様な悲鳴に咄嗟に首だけで振り向くと、
アリスが両足と右手だけを支えに俺の体にしがみついたまま体を倒し、
ユッグのすぐ後ろで燃え盛る何かに左手を向けていた。
「ゆだん、たいて、き」
「……おいザン、優秀だなその幼女。
ただ撃つ時は近くの人間に注意を呼びかけるように
躾けておいてくれないかね」
妙な体勢に仰け反ったユッグの後ろで、謎の火達磨が光と消えた。
どうやらアリスが近付いて来ていたモンスターを排除したらしい。
「おー、謎幼女もといアリス、ちゃんと魔法使えたのか
……お前ただのマスコットポジじゃなかったんだな」
「……!」
無表情ながらも微妙に鼻息荒く目を輝かしている。
これがこいつなりのドヤ顔なんだろうか。
「え?うそ、こんな近くで私が気付けないなんて、そんな」
微妙にショックを受けたような顔で、信じられないと
アリスの顔を見つめるミトナちゃんに、
アリスはふと俺からそちらに目線を動かし、
「……!」
「……!?」
ふんす、と、微妙にさっきよりも勢い強めのドヤ顔。
あった当初から直情径行な気質があったミトナちゃんはそれに
顔を真っ赤にしてわなわなと震えだす。
「ええと……ミトナ?」
「……よ」
「へ?」
おろおろした顔で近付いて来たテリアン君にも構わず、
キッと顔を上げて俺の方―正確には俺の背中のアリスに
ミトナちゃんは指を突きつけ、
「ここで舐められちゃ冒険者暦3年!
狩人暦8年の経歴に傷がつくってのよ!!
テリアン行くわよ!もっと大物仕留めてあのお子様の
鼻を明かしてやるってのよ!!!」
「ぅわっ!ちょっとミトナちゃん!?」
「ちょっ、ミー、テリー、どこに行く気!?」
大気炎をあげたあとに近くにいたテリアン君の腕を引っつかんで
森へと早足でズンズン進んでいくミトナちゃんに、
テリアン君はなすがままにひきづられていく。
アニーちゃんが制止の声をかけるも効果は薄く
「ちょっと奥にいってきてデカイの殺るってだけよ!
まってなさいぃ今晩の夕飯はストレンジボアの猪鍋よ!!」
「え、っちょやだよあれぼくすごい勢いで以前吹っ飛ばされてから
ずっとトラウマなんだよぉ!!?」
「大丈夫よ去年に比べでレベルも2つ上がったでしょう!
男の娘……もとい男の子なんだからしゃんとしなさい!!」
「いまなんかイントネーションおかしくなかった!?」
「うっさい!さっさといく!!」
「うわぁぁあんやだぁあああああ!!!」
そして森の中へ消えていく二人に、呆れた様な表情で
所在無さ気に立ち尽くすアニーちゃん。
「賑やかなお仲間だな」
「お褒めに預かり光栄ですよ……」
愉快なものを見たと言わんばかりのユッグの表情に、
余計に疲れたとばかりに盛大なため息をつく。
「にしてもおかしいですねぇ、ミトナの敵性感知の
レベルは6、この辺のモンスターなら
大概発見できるはずなんですが……」
納得いかないような声を出しつつ、
ハの字眉に首を傾げてちょっと唇を突き出すような表情のアニーちゃん。
普段冷静っぽい表情の子がこういうことするとすごくかわいいです。
「まあ、ストレンジボアも今の私たちのレベルなら
倒しきれずとも逃げ切ることは容易でしょう。
予定が変わって恐縮ですが、あの二人が戻ってくるまで
少々休憩を挟んで……」
そしてこちらに向き直り、愛想笑いを浮かべようとしたところで
その表情が凍りつく。
その目線の先は、ユッグがなんとなしに拾い上げた先ほどの
火達磨の元となったモンスターが残したドロップ品だ。
それは刃のようにも骨のようにも見える白っぽい何かに、
【紫色】の石のようなもの。
「まさか……!ちょっ、ちょっとそれみせてください!!」
「ん、うん!?」
泡を食って駆け寄るアニーちゃんに、ユッグも
触られては拙いからか慌てて下がりつつ手のものを
パスするように放って渡す。
そんなともすれば失礼にも思われるだろう動作に
気にした様子もなく、アニーちゃんはそれを器用に
落とすことなくキャッチして何かぶつぶつと呟く。
「これは、間違いない、でも、だとしたら背後には……!」
そんな言葉が聞き取れたところで、先程二人が消えていった
森の中からかすかに、しかし確かに甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「「!?」」「!?」
俺とアニーちゃんが驚いて反射的に悲鳴の方向へ振り向き、
アリスはその振り向きに驚き。
[クエストが発生しました]
・救助・討伐クエスト:【蠢く爪と牙】
・少年少女に致死の牙と爪が迫っています
・クリア条件は【周囲の敵性モンスターを討伐】
【恐慌状態の彼らの救出】です
・クエストを受諾しますか?
クエストの受諾に手を叩きつけ、
俺は声の聞こえた森の中へとその身をぶち込んだ。
もしかしたら次もザン視点で、この話のサブタイに前編とかつくかも




