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彼らは戦後処理を行った

遅くなりました……

そのうえやたら長いという。


文章量的に分割しようと思いましたが、切るのに丁度いいところがなかったので

そのまま投稿します、読みづらかったらご勘弁を。


あ!あと、ちゃんと残酷な描写ありって先に言ったかんね!?

「いやー、お二方とも、実にお強い!ザン殿の無双の怪力にユッグ殿のあの睨み倒し、

まさかアレが噂に名高い魔眼というやつですかな?!」



助けた商人、トルイヌは非常に多弁かつ図太い性格を持っていたようだ



初クエストお約束をクリアした二時間後、俺たちはトルイヌの操る馬車に乗っていた


良い馬車の基準など普段乗る乗り物が電車or原付という現代人ナイズな俺には分かるはずもないが、

乗った感想としては後ろに積荷を除けてある事を考えても中々に広くて乗り心地も良く、

レベルアップの影響で体格が1,5倍くらいにはなった俺や、

スキルの問題で迂闊に人に触れるような距離には居られないユッグにはありがたかった。



あの山賊どもの処理だが、クエストクリアのウィンドウをチェックしようとすると、

ユッグが「ああ、そうだ先に済ませておくか」と、小さく呟き



「失敬、少々お待ちを」



と、近づく途中の馬車を駆る商人風の男に片手を向けて断りを入れる。

男が不思議そうな顔をして離れた所で止まるのを確認すると



「さて、ザンよ、生け捕りご苦労。そろそろ始末をつけておこうか」



常の半笑いに表情を変え、ユッグは振り替える。



「始末?ああ、こいつらが賞金首とかだったりしないか確認するとかか?それともバックの貴族の情報を聞き出したりか?」



なんにしても始末とは人聞きの悪い。

それじゃあまるで



「ふむ、二.三人程度は残してそんな扱いをしてやってもいいな。」


「は?」



ついいましがた縛って纏めて転がして置いた山賊たちに、

まるで散歩の途中とでもいわんとばかりに気軽に近寄り。



「他はとりあえず刎ねておこう」



近くに彼等が取り落としていたものか、転がっていた刃の反った剣-蛮刀とかいうものだったかな?-を拾い上げ、

手近に寝転がる一番貧相な身なりの山賊の髪を掴んで無造作に持ち上げると

邪魔な雑草でも鉈で払うが如く、躊躇無しに喉元を掻っ切った。



「…え?」



幸運だったのは二つ。

自分の体がレベルアップの恩恵で大きくなっていたこと。

そして丁度たち位置がユッグと馬車を繋ぐ直線上を遮っていたこと。



おかげで商人達と致命的な溝を作らずに済んだ。



溝を作ると考えた理由は簡単だ。

あっさりと捕らえた山賊の首を掻き切ったことが原因



ではない。



首を裂いた瞬間、ユッグの形相が悪魔的なまでに歪んだ笑みを浮かべたからだ。



「……ッふ、くく、クハッかフっ、クッ……」



浮かぶ感情は狂喜と狂気。



一応自制しようとはしているのか、一瞬の後に蛮刀を持っていない方の手で顔を覆い、

歯を口の端から血が一筋垂れる程に噛みしめ、沸き上がりそうになる哄笑を押し殺している。



なぜ分かるかも簡単。

俺も森でトレント-敵対者を破砕し、殺害したときに

この強烈な快感を何度も味わっていたからだ。



「ク、くは、ああ、ザンよ、貴様が森でああまでも大暴れしていた理由、

たった今理解したぞ……!ああ、これは、堪らない……ッ!!」



狂喜と共にジワジワと漏れ出る瘴気を感じとったのか、近くで気絶していた山賊たちが次々目を醒ますと、

自分たちの状態と、血達磨で転がる下っ端の惨状を見てパニックを起こし、あっという間に狂乱の渦に落ちた。



(……予定としては大分狂った感はあるが、まあこいつの性格だ。

【これくらいは】想定しておいて然るべきだったかな?)



それを俺は、単純に驚いたという感情以外の反応もなしに、ただ見ていた。



(おっと、軽くフォローとお子様への配慮はしておかないとな)



この世界の山賊をどう対処するのが正解なのかはまださっぱりだが、

襲われた以上中世風の世界観だというのなら正当防衛どころか過剰防衛気味に動いても文句は出ないだろう。


努めてフラットな表情で-だってこんな時どんな顔したら良いかわからないし-商人の方へと向き直り



「あー……失礼、今は事後処理の途中、子供に見せるものではないでしょう、暫しお待ちを。」



というと



「む、それもそうですな」



緩んでいた頬を引き締め、「では、今のうちに馬車の整理でも…」と馬車を若干離れた位置まで走らせ、

懐から水色の小さな正方形のブロックのようなものを取り出すと、そのまま指でパリン、と音をたてて砕いた。

すると馬車の周りに半透明の白っぽい正方形のドームのようなものが出現する。

……あれは、こういう世界にお約束のマジックアイテムとか結界みたいなものだろうか?

男はそれを見ると、隣に座っていた少女の背を押して馬車の中へと引っ込んでいった。



(よし、これで一先ずは……)

安心、と思う間も無く



「や、やめ、ぁあああああああああああああぁ!!!」


ポーン


[ユッグ の レベルが 6 に なった]

[ザン  の レベルが 7 に なった]



野太い断末魔と、合成音声じみたアナウンスが連続した。


振り返ると14人もいた(縛るときに数えた)山賊達が、もう残り4人にまで減っている。

自分のレベルまで上がったのは、パーティを組んでいたが為だろうか?

クエストクリアの時と今、快感を感じなかったということは、

直接止めをさした場合のみあの快感を覚えるということだろうか。



(無法者10人ころころしてやって5レベル分の経験値か……トレントが強かったのか、こいつらが弱かったのか……)



自分はトレント何体を倒したんだったかなー5,6体だったかなーでも

パーティで経験地分配とかあるんだったらこいつらもそんなに経験値少ないってこともないのかなー等と

割とどうでもいいことを考えながら辺りを眺める。


ゴロゴロと転がる生気を失った男達に、夥しい量の血が大地を紅く染めあげ、

生き残りの山賊達も既に顔を蒼褪めさせ言葉を失っている。



屍山血河がそこには広がっていた。



ユッグは最初に持っていた蛮刀よりも長い120cm程の刃渡りの直剣を持ち、

大きく弧を描いた口の端をほんの少し不満げに歪めつつ、呟くように言う。


「クハッ、これは少々長すぎたかなァ?それにこう的が動かないというのに、

狙いがこんなにもずれては有事の際に使い物にならないだろう。

やはり私には短剣の類いが性にあっているようだ……なあそこの。

そう、バンダナを巻いたやせっぽち、貴様だよ。

……貴様もそうは思わないか?」



「あ……あ……!?」



「そうだろうそうだろう、貴様はどうやら他のものよりも分かっているようだな?」



「……ぁ?」



絶望の表情に僅かな希望の感情が浮かんだバンダナの男に、

ユッグは狂気にまみれた笑みを動かすことなく、極当然の様に

彼の腰に結わい付けてあった細い帯と鞘ごと短剣を丁寧に回収し



そのまま逆手で引き抜いた短剣を、無造作に彼の肩に突き立てた。



「が、あ、あぎゃあああぁあぁあああ!!?」



「うむ、やはりこちらの方が扱い易いな。

サイズも重量もなかなか手頃で……うむ、宜しい、これは貰っておいてやろう」



逆側の手に持っていた直剣をインベントリに適当に放り込み、

短剣を刺したまま更にグリグリと奥まで捩じ込み簡単には抜けないようにすると、

手を放して自分の腰に奪い取った帯と鞘をくくりつけていく。



(……なんか違和感が?……ああ、山賊が全然動いていないと思ったら、スキル使ってんのか)



多分俺が馬車へ対応している間にでも適当に触れて回ったのだろう。

意識を山賊に集中して見てみると、視界の下部にウィンドウが浮かぶ。



【名前 未鑑定 軽装盗賊 バッドステータス空転】



恐らく悪夢の種類を、金縛りのように脳から体への指示を文字通り空転するものの様にイメージしたのだろう。


他の者達も



【名前 未鑑定 野伏   バッドステータス空転】


【名前 未鑑定 ごろつき バッドステータス空転】



などと同じように体の自由を奪われている。



(えーとこいつらの頭は…こいつか)



そして一番こちらからみて奥の方に転がされている男にはこうあった。



【名前 未鑑定 山賊団※※※の頭 バッドステータス空転】



(ん、こいつで間違い無さそうだ)



小さく頷き、最高にハイになっているユッグがうっかり皆殺しにする前に静かに近付いて、

そいつだけは先に確保しておくとする。



「あんたがこの集団のトップだな?」



体を起き上がらせ頭を強めに小突いてみると、一瞬ハッとしたような顔をしたあと、

後ろ手に両手を拘束されたままながら身体全体で飛び退くようにして、僅かながら距離をとった。



(ん、やはりか)



オートスキルが発動しない辺り、どうやら俺よりもレベルの低い相手らしい。


レベルが強さとイコールでつながる世界かどうかはわからないが、脅威に対する判断材料にはなるだろう。



「返事はどうした?質問に答えるのなら、あいつに掛け合うぐらいはしてやろう」


「……っは!聞かれたからってなんでもホイホイ答えてたら、こっちも商売上がったりなんだよ!」


「そうかい」



(威勢がいいな、あるいは虚勢か?)



などと思いながら、特に何も意識せずに空いた間合いに踏み込み。



「…ッ!?」



踏み込んだ右足首に、焼けるような激痛が走った。



「ざまぁみやがれ!8万Gもする【ミドル・ファイア・ワーム】のスクロールだ!!」



足元を見ると、人の腕ほどもある胴をした長い長い炎を纏った蛇のような何かが

右足に巻きついている。


その周りに、あっという間に燃え尽きてしまったが、一瞬紙のようなものが見えた。



(今のが、スクロール?いや、そんなことより!!)



あまりの激痛に、反射的に踏み込んだ足を慌てて滅茶苦茶に振り回す。

確かにこちらに対し有効なダメージを与えたと見て、山賊の男は

いつの間にかツタを解いていたのか、素早く立ち上がり森の方向へと駆け出していく。



「ははっ!この化け物野郎が!!そいつは一度巻きついたら容易には離れず、

巻きついた対象をグズグズに焼き尽くすまで消滅しない特別製だ!!

黒焦げになって死んじまいやがれってんだ!!!」



既に自身の逃走を確信しているのか、随分と余裕そうな声で捨て台詞を吐きながら

逃げようとしている暫定カシラの男に、俺は対応を変える事にした。



「ぎ、ぐ、は、ハハハ、そうかそうか……こっちが穏当に済ませてやろうかと

情けを掛けてやったってのに、舐め腐ったことしてくれてんじゃねぇの?」



焔を巻く右足に、ギシリと音が鳴りそうな程に力を込め、ゆっくりと振り上げる。



流石小さいとはいえ武装集団を率いて戦うだけあって中々の健脚だ。

山賊の後姿はもう大分遠退き、あと30秒もしない間に森の中へと消えるだろう。

目測にして、もう3,40mは離れてるかな?



だが、奴を逃がす気も、ここで死ぬ気も無い。



レベルアップは身体のバランスや柔軟性も補正するのか、

ほぼ真上を、炎が巻いたままの右足の裏が指した時。



「どぉ……ラァッ!!」



スキルを使用したたたき潰しを、自分のやや後方の地面に向けて発射。

渾身どころか全力を遥かに上回る力で右足を地面に叩き付けることで、

それを爆発のような推力を与える踏み込みに変える。



……ギチリ……



ズッダァン!!!!!



体内で何かが軋む様な音が聞こえた後、

地面が大砲の砲撃でも受けたかのように尋常じゃない音と共に抉れ飛び、

周囲の風景を置き去りにしてカシラの男の背に肉薄する。


後方から響く爆音に驚いたのか、男の



……ぇ?



という微かに漏れ出た声と、振り向いてその音を発した顔に向けて。



「もういっちょだ、潰れろゴラァ!!!」



構えも何も無い大振りで、乱雑な振り下ろしによる右の叩き潰しの一撃を、

たとえ現代のプロボクシング選手でも反応すら出来ないであろう速度で叩き込んだ。



圧倒的な爆砕音。



次いで何か湿り気をおびた物を勢いよく撒き散らすような音が響き、

一拍の間の後、重量物が地面に叩き付けられたような音と、電子音に似た何かが聞こえた。



ポーン


[ザン  の レベルが 8 に なった]

[ユッグ の レベルが 7 に なった]



流れ込む快感に、どうしようもなく顔が歪む。

身震いしそうなほどに、全身を電流が駆け巡るような感覚に歓喜する自分と、



(ああ、やっちまったなぁー……)



拳に生温い液体と肉がこびりついた感触に、酷く冷めた思いを抱く自分を自覚する。



山賊を頭からカチ割った勢いのままに一回転し、一撃に乗せ切れなかった踏み込みによる勢いは

着弾するように着地して地面を削り、土砂を巻き上げながら転がることで収まっていく。



「あだだだだっ!?」



流石に草原でも土砂ごとガリガリと削る勢いで転がるのは痛い。



更に十数m転がって、ようやく止まる頃には涙で視界がぼやけていた。

土埃が巻き起こり、潤む目を擦りつつその中から立ち上がり出ようとする時、

右足に高熱を感じなくなっていることに気付く。


すわ右足完全にやっちまったかと一瞬思ったものの、

ちゃんと力が入ることには入るのでそんなはずは無いと思い直す。


恐る恐る土煙を片手で払いながら這いずる様に出ると、

右足首どころか右半身全体から土煙とは違う蒸気のようなものが出ていることに気付く。


よくよくその中を覗いてみると、爛れた皮膚が段々と元の形に治っていくのと、

赤熱したように火照る肌が、徐々に元の色に戻っていく様子が見えた。

肌の赤みは、おそらく筋繊維が酷使によって多大なダメージを受けた結果だろう。



(こりゃ……?ああ、新しく得た肉体再生の効果か?……ぅわ、きめぇ)



ストレートに気色悪かった。

なんか肌の下がウジュウジュ蠢いてるし。


効果が強力なのは有難いが、ビジュアル的に完全に悪役なのはどうにかならないものか。



(まあ、今はそんなことを考えていても意味は無し、と。)



炎は振り下ろした時の衝撃と風で消火されたのだろうか、

すでに跡形もないことだし、そう思っておく。



(あー……せっかくの情報源が……)



飛び散った肉片と血液を見て、次々と予定が狂っていくことにため息をつきながら、

足の修復を草原に倒れこむようにして待っていると



「ぅ、おおおおおああああっ!?」



ユッグの珍しく切羽詰ったような悲鳴が聞こえてきた。

一拍の後、背筋のぞわっとするような感覚が走る。


何事かと思って目線を向けると、ユッグが先ほど倒したはずの山賊の下っ端に掴み掛かられ、

地面に背後から圧し掛かられるように押し倒されていた。

ぞわっとした感覚の正体は、ユッグの感情が乱れて制御が出来なくなった波動のモノのようだ。



「っだぁ!なにやってんっ……がっ!?」



再度地面に叩き潰しを与えることで高速の突撃移動を行おうとした所、

ズグン、と右半身全体に無視し難い筋肉痛を数十倍に増したような痛みが走る。



(さっきの踏み込みと打撃で負荷がかかり過ぎたか!?そうそう連発はできないってか……なら!)



だらん、と右側の力を意識して脱力し、負荷の比較的軽い左腕と左脚を駆動させるようにイメージ。

地面に左手の五指を引っ掛けるように接地し、左足のつま先を浅く立て



「こっから……オラッ!!!」



地面を対象にして、放り投げスキルを発動することで、左半身を全て連動させるように駆使し、

地面を投げようとする動きを生み出して反作用をもって身体を、

ユッグの若干上方に飛ばすようように発射する。


またも地面をズガァッ!と派手に爆破するように抉りながら俺の巨体は宙を飛び、

そして2秒後、何故か近くの武器も取らずに今にもユッグの首筋に噛みつこうとする、

痩身のバンダナ男の横っ腹に、運動エネルギーを発生させる3要素-速度・重量・硬度全て-を

十分過ぎるほど兼ね備えた頭突きがぶちかまされた。



「グァ……ァッ…!?」



肺の中の空気を全部絞り出すような吐息混じりの声を一瞬あげたあとバンダナ男の体は、

くの字に曲がって勢いよく撥ね飛ばされた。


運動エネルギーの大半を失った自身の体が、飛び込みの余力でゴロゴロと

街道のしっかり固められた土の上を転がるのを自覚する。


横目で飛んでいったバンダナ男を見ると、2.3回バウンドした後頭から着地し、

その首は曲がっちゃいけない方向に曲がる所か、嫌な音をたててもぎ取れていた。

一瞬間を置き、体に先ほどよりは薄いような感じがする快感が流れ込んできた。


ポーン


[ユッグ の レベルが 8 に なった]



(お、レベルもう並んだか……あー、それよりこの服もう本格的にズタボロかね、こりゃ)



肌の方は自滅ダメージ以外無傷で済んでいるようだが、流石に一着2万もしない

吊しの安物スーツでは度重なる酷使に耐えきれなかったようで、

体のあちこちから砂利や乾いた土の感触が伝わってくる。



さっきのクエスト報酬で服貰えて良かったー……。



しみじみと考えつつも、視界の端に映る荒れ狂う瘴気を見て

無事だとは思うが一応ユッグに声をかけておく。



「おい、あー……なんだ、無事か?」


「あ、ああ、大事無い……今のはナイスだった。

流石の私も感謝しよう、うむ、ありがとう」


「お前から感謝の声……だと……?お前この程度で礼を告げるような人格じゃないだろう!

まだ錯乱しているのか、相当の恐怖を覚えたようだな……大丈夫か?しっかりしろ!!」


「貴様が私のことをどう思っているのかよく分かった。

それならば後で私なりのお礼を確りとさせて貰おうじゃないか」



どうやら無事だったようだ。

砂利のザラザラとした感触と、筋肉痛を数段酷くしたような両手両足の

痛みに辟易としながら、安堵と疲労のブレンドされた吐息をつく。



それにしても



「さっきのはなんだ?止めを指し損ねてたのか?」


「いやいや、そんなはずはないぞ?奴はしっかり肩口からナイフを抉り込んだ後に、

肺や心臓の位置を確かめるために何度か胸部を刺し喉を掻っ切っておいたからな。」


「尋常じゃなく念入りに止め刺してんな?!」


「止めとは失礼な、ちょっとした実験に付き合ってもらっただけだ」


「なおエグイわ!!」



軽くユッグの何かを握る腕を前に突き出してひねるような

ジェスチャーつきの猟奇的言動に引きながら、首を傾げる。



「しっかし、じゃあなんでだ?こいつやたらパワフルになってた気がするんだが」


「ああ……恐らくは、こいつのせいだろう」



そういってユッグは右手の方を見て、否、右手を見ていった。



「オートカーシングと闇の波動、軽く生死確認に瞼をこじ開けようとしたら

急に判定に成功し、ゾンビの生成をしたとかアナウンスが流れてきてな

……どうやら対象は生き物に限らないらしい」


「お前目ぇ見ただけで生死確認するとか良くそんな知識あるな……」


「はっはっは、そんなもの有る訳ないだろうバカめ」


「この野郎ゾンビ無駄に生成したくせになんでドヤ顔してんだよ……!!」



嘆息し、映画のゾンビみたいに血液感染しないだけましかね……などとぼやきつつ、

体の調子を確認する。


全身からしゅうしゅうと出ていた蒸気はあらかた収まり、筋肉痛のような感覚に変わりは無いが、

スキルで限界を突破するような無茶をしなければ動くには支障無さそうだ。


倒れ込んだ状態からゆっくりと起き上がり、軽く両手をぐっぱっとにぎにぎしたり、

片方ずつ足をぷらぷらと揺らして動きを確認すると



「んじゃ、こいつら森の方にでも投げときゃいいか?そうすりゃトレントどもが勝手に吸収するだろ」


「随分悪趣味な栄養剤だな……って、いやいや、流石に日本人の心を捨てるんじゃないよ、死ねば皆仏。

さっきお前が跳んでいく時に軽く抉れたクレーターが有るだろう、そこにでも埋めてやれ」


「今更お前に日本人的な常識やモラルを説かれるとは思わんかったわ

……まあどちらにしろ手間は大して変わらんし分かったよ。

向こうの森まで棄てに行ってまたケンタウロスどもにケンカ売るのもなんだしな」


「不穏分子を追い出したと思ったら小一時間たたぬうちに玄関に死体の山とか

目の敵にされる程度で済めば御の字のレベルの所業だな……

そういうことは私が奴らを圧倒できるような魔法ダメージ系のスキルを覚えてからにしろ」


「覚えたらやるのかよ」



無言で爽やかな笑顔を返してくるユッグに軽く頬を引きつらせながらも、

こいつならまあやりかねんなと思い直す。



「とりあえずは埋めてる間にクエスト報酬の確認を頼まぁ、

あとはそのラスボス臭漂う瘴気を少しでもコントロールしておいてくれや」



頭を左右に振って踵を返し、瘴気を撒き散らしながらワンタッチで動く死体を生み出せる

お手軽ゾンビメイカーになったユッグにひらひらと適当に後ろ手を振ると、

転がる死体の腕やら頭やらを両手に引っ掴んで、草原にできた穴と街道とを往復することにする。


背後から返される了承の言葉を聞きながら、さっきのいかにもイベントキャラって感じの二人に悪印象与えてないかなぁとか

微妙にブルーな気分になりつつも、とぼとぼと足を進めた俺であった。



そして時間にして20分ほど。

山賊どもが着けていた鉄製の胸当てやヘルムをスコップ代わりに使って、

筋肉痛に痛む体に鞭打ちどうにか穴の中に全ての亡骸を埋め終わった。


ついでにいろんなもので汚れた体をボロボロになったスーツで拭って

インベントリの服に着替え、ユッグも鞄の中に入れていたハンドタオルで身を拭い

闇の波動の制御がどうにか落ち着いた後のこと。



丁度馬車を覆っていた正方形がパリーンという擬音がつきそうな勢いで砕け散り、

中から商人風の男が「やーやっと整理が終わった」などと汗をふきながら

降りてきて、こっちのほうに顔を向けると



「おや、こちらもおわりましたかな?」



そこからはもうあっという間だった。


出来る限り愛想の良い顔を取り繕ったユッグが向き直り話をしようとする前に、

ユッグの肩を両手でガッチリ掴んで


「やあやあ助かりました本当に助かりましたよありがとう御座いますわたくしこの近くの街の商工組合の代表を務めさせて頂いておりますトルイヌと申します主に食料品や生活必需品に少々お高いものですと一部マジックアイテムなども取り扱っております以後お見知りおきをさあさあこんなところで立ち話もなんですどうぞこちらの馬車へお乗りくださいませ是非是非当家にて報酬とおもてなしをさせてくださいませ!!」


と、句読点無しのマシンガントークでそのまま馬車の中へと押し込んだ。


呆気にとられつつも、おーあいつの狼狽え顔とか珍しいなーとか

スキルの接触判定は服は範囲に入らないんかなーとかろくに反応も出来ずに見ていると



「おおー……?」


「ん?」



不思議そうなモノを見る視線を向けるぼろきれを纏った少女が、いつの間にやら隣で突っ立っていた。


目は琥珀色とでもいうのだろうか、ハチミツのような濃い金色をしていて

光の加減によってなにやらうっすらと紋様が浮かんでいるようにも見える、

とても澄んだ、人を惹き込むような大きな目をしている。


顔は小さく、髪は土でうっすら汚れているものの、

ちゃんと洗えば陽光に煌めくような銀色だと言うことがわかる。


ぼろきれの端から覗く一見発育不良気味に見える華奢な腕や脚もとてもきれいな肌をしていて、

顔の血色も悪いようには見えず、むしろほんのりと桜色に色づいた頬は、健康的な

美しさを感じさせる。



ストレートに言うと、なにこの美少女。



同好会で見た目だけは完璧な先輩後輩がいるおかげで、美人耐性はついていたと思ったが、それらを上回る衝撃を受けた。


…まあ惜しむらくは、少女の見た目から察するに、年齢が10歳そこそこ程度だと言うことだろう。


普通に可愛いものや美しいものに見とれるような感性はあるが、ロのつく趣味も性癖も無いのだ。

本当に。

ユッグとは違うのだよ、ユッグとは!


結婚を申し込まれたりしたらきっぱりと断るだろう。

大人になっても気持ちが変わらなかったら是非!と。

あと5年から10年ぐらいしたらまたお会いしたい。



などと思考が脇道にそれている間も、俺とこの少女は無言で見つめあっていたらしく。



「おお、人族嫌いの気があるアリスが初対面の人族の方になつくとは珍しい!

戦士殿の顔がよほど気に入ったのですかな?」



「おい俺の顔に何か言いたいことがあるなら聞こうか?うん?」



軽く俺を人間と見なさない言動をかまして来た中年にガンを飛ばすが、全く気にした様子はない。

異様な風体の二人組みをあっさりと馬車に連れ込んだり、本当にメンタルつえぇなこの中年。


中年にはどうやら俺たちのあいだで何かが通じあっているように思われたらしい。

いや、少なくとも俺の方に伝わってきたものは何も無いんだが。


まあ確かに身内以外で初対面時に1秒以上俺と目を合わせていられたやつは今までの人生で片手でおさまるくらいには稀少だ。

こいつの感性は分からんが、その点だけを見れば相性は奇跡的に良いのかも知れないが。



「アリスも!いつまでも恩人をそんな所に立たせていないで馬車へご案内なさいな!」



何が嬉しいのかやたらニコニコとした表情を崩さないトルイヌに急かされ、

アリスなる少女はコクリと可愛らしく頷くと俺の手を…というか指を小さな手のひらで握って



「……こっち、だよ」



と、無表情のまま引っ張り先導しようとしたので、とりあえずは抵抗せずについていく。

うわぁ手のひらやわっけぇ。


この時は気にしていなかったのだが、彼女が先導しながらも俺をチラチラと振り返って見ていた理由、

今となってはもうちょっと考えた方が良かったんじゃないかと思えてしまう……



「そして今の状況にいたる、と。」


「……?」


「いや、君は気にしなくていいよ、ただの独り言で大したことじゃないんだ。

……というか、そんなに見られると中々に対応に困るんだが。」


「あなたも、気にしなくて、いい。見てるだけ、大したことじゃ、ないから。」


「はは、は、見事な返しだな、うん、そうだな……」


「うん」



端的に言って、至近距離からアリスに見上げるようにガン見され続けている。


馬車に乗ってからずっと。


馬車の形は所謂大きな荷馬車に屋根と幌をつけた感じというか、ファンタジー創作などで良く見かける、

牛や馬などが檻などに入れて運べるほど大きく、頑丈そうな作りのものだった。

聞くと、冒険者ギルドの冒険者たちが依頼で長距離移動するときなどに貸し出されるもので、

本来はこれにオプション料金を払い座席などを取り付けて使用するのだが、

今回はアリスを助ける為にギルド貸し付けてあった自家所有の馬車を急遽そのまま使用したらしい。


トルイヌは、それゆえ乗り心地の悪さはご勘弁を等といっていたが、

レベルアップの恩恵か自分の体の方が馬車の防御力よりも高いようで、座り心地は悪く感じない。

まあふかふかなソファーの方が良いのは確かだが、怪しさ満点な俺たちを

信用してくれた上に楽して最寄りの街まで行けるのだ、贅沢は言えん。


俺は馬車の御者台の裏に浅く腰掛けたユッグの隣を通り過ぎて

奥の方の壁へと寄りかかって胡座をかくと、

トルイヌが馬の尻を軽く鞭で叩き、それを合図に馬車が進み始めた。


さて街につくまでユッグに投げてたクリア報酬でもMMORPGやらでよくある

パーティチャットとかを使って確認するかと考えた所で、

軽い衝撃と共に視界がアリスで埋め尽くされた。


何を言ってるかわからないと思うが、俺もよくわからない。

という訳で状況を確認する為に若干身を引くと



「こっちのほうが、乗り心地、いい」



などといってアリスが俺の膝を占領していた。

しかも向かい合うようにして、だ。


正直、この状況は非常にまずい。


まずいと言ってもどこぞの都条例に引っ掛かるとかそんな理由じゃあない、

証拠に俺のマイサンはピクリとも反応していないからな。


繰り返すがロの趣味は無いのだ。



では何がまずいのかというと、ストレートに気まずいのだ。



想像してみて欲しい。

見たこともないような銀髪金眼の洋ロリ系美少女が無表情のまま、こちらをその大きく

幻想的なまでに作り物めいた美しい目で瞬きもせずに、至近距離から凝視し続けているのだ。



ご褒美どころか軽くホラーだ。



華奢な尻の感触?麻製のようにごわごわとした報酬の服と、

少女の謎のズタボロマントに遮られてまったくわからんですたい。

でも仄かに伝わる体温は暖かい。


ぐっど。


ちなみに報酬の服のサイズは恐ろしいくらいに丁度よかった。

自動でサイズ補正のかかるアイテムだったのか、これをどこかで見ている神とやらが

成長まで予測済みで生成したのか。


後者だとしたら有り難いような恐ろしいような……精神衛生上よろしくなさそうなので

前者だと思い込んでおく。



話が逸れた。


まあとにかくこんな経緯で、たった今俺は如何ともし難い緊張状態に陥っている。

俺はユッグみたいに腹芸は得意じゃないんだがなぁ……などと、

この状況を打破してくれないかと期待を視線に乗せて入り口近くのユッグに視線を向けるが



「お二方はどちらの方から旅をなさっているのですかなみたところ変わったお召し物を着てらっしゃるしなかなか遠いところから旅をなさってるものかと推測できますがこの服装の形はここからさらに東の海を渡った先の島国に住む者たちが着るキモノという服装に酷似していますなもしやそちらからの旅ですかなしかし向こうの人種の特徴とはいろいろ違う気もしますなぁ確かその国の者たちは皆肌は黄色いと聞きますううむしかしお二方の肌の色はどうにもその範囲には収まらない気がしますなぁザン殿の浅黒い肌は外で戦う戦士特有のものと考えても特にフードのようなものを被っている訳でもないユッグどのの青白い肌に目の下の濃い隈はむしろ北西部の大洞穴を抜けた先にあるというヘラリアス冥国の不死族の方々の特徴に似ている気がしますなぁ」


「はっはっは、私はれっきとした人間だがこの人相に何か文句があるなら聞かせて貰おうか」



入り口より1m弱ほど張り出した御者台に座るトルイヌの

マシンガントークの銃口をもろに向けられているようで援護は期待できない。


あれよりはだいぶましだなーだってこの子なんか良いにおいするしーとか

若干の優越感と奥に陣取ったことの成功を噛み締めていると、



ぴこん



ユッグ『これでチャットは届いているな?』



……お?



目の前に、半透明のどこかで見たことがあるようなフォントのメッセージが浮かんだ。

よくよくユッグの手元を見てみると、トルイヌの視線が体で遮られる位置に

左手をさりげなく回し、なにやらタイピングするように肩を僅かに動かしているのがわかる。



こうかな……っと。



みようみまねで、ガン見してくるアリスを意図して気にしないようにしつつ

彼女の頭越しに、丁度アリスの腰の辺りにタイピングボードを出現させるように

手を回して集中すると、自身の名前を入力するときと同じような形の半透明のキーボードが出てくる。


……なんだかアリスの体を抱くような姿勢になってしまったが他意はない。

アリスに怪しまれないように文字が打てるのはこの場所ぐらいしかなかったのだ。


俺まだブラインドタッチは出来るか怪しいし。



ザン『おう、こっちもちゃんと届いてっか?』



返答を送ると、即座に向こうからも返事が来る。



ユッグ『問題は無いようだな、とりあえずさっき得たクリア報酬のお前の分を送る』

ユッグ『どうやらこれはPCのチャットソフトと同じように、コピーや切り取りでリンクを繋げることも出来るようだしな』

ユッグ『初メインクエの報酬は中々期待できそうな報酬だ、受け取ったらとりあえずインベントリにでも入れてみろ 【□報酬ザン分まとめ】 』

ザン 『お、さんきゅ』



チャットの□部分をタップすると、【開く・インベントリへ・内容確認】という選択肢が浮かんできた。


インベントリへの部分をタップすると、チャットのウィンドウが小さなアイコンのようになって

視界の下端に移動し、代わりにインベントリのウィンドウが開いた。


見ると、先ほどズタボロになってタオル代わりにした後適当に突っ込んだスーツと思われる

薄汚れた服のアイコンや、山賊どもから剥ぎ取った大量の防具やらのアイコンの隣に、

真ん中にGと書かれた袋のようなアイコンと、見たことないはずなのに

ある意味非常に見覚えのあるボタンのようなアイコンがならんでいた。



迷わずそれをタップすると



【ランダムスキル取得ルーレットスイッチ☆柔術家?用】

【使用しますか?Y/N】



思わず顔を上げ、ユッグの方を見ると、奴もニヤリとこちらにだけ見えるように

笑みとボタンが直ぐ押せる位置に指を置いているのが見えた。


目を凝視して来なくなった代わりに、腹筋を両手の指でなぞり始めたアリスの指を努めて無視しつつ、

分かってるじゃないかという意味を込めてこちらもニヤリと笑みを返す。



そして同時にスイッチの使用ボタンを、押した。



とぅるるるるるるるるるるる……てぃん!


【スキル ○†闇の時間† を 習得しました!!】

【スキル ○アピールタイム を 習得しました!!】



両者微妙に感じるネタスキル臭に、同時に笑みを引き攣らせた。

これもキレやすい若者……?なのでしょうか。

二人とも妙に人の生死にドライな理由は、後々。


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