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彼らは状況説明を受けた 後編

これにて説明回終了

次の話で本格的戦闘へ。

「おお!お探ししておりましたユッグ様、ザン様!!」




紆余曲折あったが、ようやくこの世界-プレイヤーとか口走っていたし、

まさか本当にVR系のゲーム?-のチュートリアルという

説明らしい説明を受けられるようだ。


岩のアルマジロがこちらに妙にコミカルな動きで振り向き話しかけてくるのを見て

安心感とも脱力感ともいいがたい感覚を受ける。

どこかで聞いたような無駄に可愛らしいアニメ声なのが余計に腹立たしい。


……どうでもいいがアルマジロの石像が人のように話しかけてくるのは

中々にシュールな光景だな、幸いなことにマスコットチックにデフォルメされている

為に正気度が減る様な光景にはならなかったが。



「先ほどのクエストの説明内容を見るに、貴方がこの状況についての説明をしてくださる、

という認識でよろしいのですかね?いや、まずクエスト関係のことについて貴方は

関知していらっしゃるのかな?」



目元をごく僅かにひくつかせた以外に、特にそれに対しリアクションもなく

微笑んだまま話を続けるあたりユッグは随分と高性能な面の皮を持っている。



「はい!おっと自己紹介が遅れましたね、私運命神アルカナ様の

配下神・縁と旅の加護を司る神ドウソの使いのフミと申します!

故あってこの岩の依代に身を移しており真の姿を見せることが叶わず恐縮ですが、

以後どうぞお見知りおきを!」



早口でそう捲し立ててぺこりとその頭らしき部分を下げてくる

アルマジロ-フミに、俺とユッグはなんともいえない表情で

目線を交わす。


なんかこいつめんどくさそう。


顔を上げてこちらの様子を伺ってくるフミの目は

石製の体に埋め込んであるくせにやたらとキラキラしていて、

内心の好奇心満々です!という感情を惜しげもなくぶつけてくる。


……なんかこの目、見覚えがあるな。

ろくでもない記憶がこみ上げかけてきた辺りで頭を振り、フミに視線を戻す。


同じく視線を戻したユッグが、表面上はにこやかな表情で「ええ、よろしく」

と返すと、フミはまた高めのテンションを維持したまま喋り出す。



「お二方のことは既に承知しておりますので紹介は

結構でございますのでご安心をー!一つ目および二つ目の質問ですが、

答えは両方ともイエス!ですよ♪

チュートリアルに必要な情報、権能は既にご用意がございます!

ではではこの世界の簡単な成り立ち、プレイヤーお二方の現状に、

これから目指すべき目的などについてお話させていただきますねー!」



ニッコニッコと岩の癖にやけに嬉しそうな表情を見せつけながら

フミは自分の出てきた穴から「よっこらしょっと」等と言って

プラカードのような物を引っ張り出す。

ちなみに材質はプラスチックのようにテカテカとしていて、

なんだか安っぽい。



「ではこの世界についてから!


この世界はお二人方にわかりやすい言い方をさせて頂くと、

剣と魔法と魔物の飛び交う中世チックなファンタジーワールドです!

その名もエターナル・アース!ゲームに限りなく近く、果てしなく遠い世界へようこそ!


お二方が呼び出されたのは世界の中心点、人族最大級の都市「アルカナ」より

東へ馬車で6ヶ月ほど離れた辺境の、中規模の馬人族の暮らす森「バスエット」ですね。」



「なるほど、正に場末と言う訳だな」


「誰うま……じゃねぇ、余計なことは言わんでいい」



どうでもいいことを小声で言うユッグに突っ込んでおく。

それを気にもせずにフミは説明を続ける。



「なぜこの世界へ呼び出されたのか、その理由はというと、ストレートに申し上げまして

この世界の最高神、創造神エターナ様の暇つぶしでございます!

……ああ!ちょ、落ち着いてください!まだ実力行使に及ぶのは早くありませんか!?」



目を細め、そっと持ち上げかけていた右腕を渋々戻し、無言で話の続きを目で促してみる。

昔からこの仕草をすると、大して親しくない相手は大体物分りがよくなり話がスムーズに済むようになる。

3人に1人はすれ違っただけで子供が泣くようなこの凶相の数少ない利点だ。

調子に乗って使いすぎるとお巡りさんに注意を受ける羽目になるので気をつける必要はあるが。


異世界にきてもこの仕草は有効、むしろ厳つさを増したこの見た目の分効果は上がっているようだ。


気を取り直したようにフミは話を再開する……怯えが見えない辺り肝は割りと据わっているらしい、

単にその辺の精神が鈍いだけなのかもしれないが。



「創造神様はかつて6000年程前にこの世界を暇つぶしの戯れにお創りになりました。

最初は大地を創り、海を流し、山を盛り、森林を生やし、人を作り、獣を放ち、

貧弱な体しか持たない人達に周囲へと対抗する知恵を与えたりと

やることも多く、中々有意義な楽しみを見出していたようなのですが、やがて

人-人族の祖先達の生活が安定しだすと、最初はそれを眺めて楽しんでいたのですが、段々と退屈になってきました。


それからも他の仕事を任せられる配下神様方を生み出したり、動物を人に仇を成す魔物に変える歪んだ魔力を撒き、

戦争を煽ったり、人族に味方する精霊や、自然より生まれ出る異種族などを生み出しては

様々な暇潰しを思いつくままに愉しんでいたのですが、またそれにも飽きが来てしまったようなのです。


それが今から20年程前、寿命に縛られず気長な創造神様にも、飽きが来るには十分な時間です。

それでまたどうやってこの世界を楽しもうかと考えていたところ、ふと以前作られた世界のことを思い出しました。



そう、あなたがた来訪者、ザン様ユッグ様の生まれた世界のことです。



長らくその世界を離れていた創造神様は、ふとなんとはなしにその世界を覗き込みますと、

衝撃的なものを目撃しました。


人間たちの作り出した娯楽です。


こちらの世界にもトランプのような物を使ったり、剣闘場などの娯楽はありましたが、

あなた方の住む世界の所謂PCゲームほど発達した娯楽文化を見たのは初めてでした。


神の創造力を、人間の想像力が凌駕したのです。


大喜びで最高神様は人の形を取り、人間世界へと降り立ち、

千里眼をもって情報収集ついでに適当な汚職政治家から金を巻き上げると、

パッと見で楽しげなサブカルチャーの充実した日本へと移動し、

興味のわいたゲーム機に漫画、ライトノベルにアニメーションを買い漁って

あっという間に日本のオタク文化にド嵌り。

どこへ出しても恥ずかしい……もとい、恥ずかしくない一端のオタクへと変身を遂げました。


そして見ていたアニメの一期が終わり、満足感と徹夜明けにテカテカと輝く顔で、気分転換にと

久々にこのエターナル・アースへと顔を出した神様ですが、自分の作り出した世界を見て愕然としました。



先ほどまで潜り込んでいた日本に比べ、この世界のなんとつまらない事か。



神様は奮起しました。

自分以外にも日本のサブカルチャーに影響されていた配下の神々を巻き込んで

日本のいろんなゲームを丸パクrげふんげふん参考にし、ついには壮大な一大ストーリーを作り上げたのです。

強大な魔王、難攻不落のダンジョン、隠された金銀財宝に、胸躍る冒険!


それらをクエストという形で世界中に適当にばら撒き、この世界に生まれた英雄達の活躍を

テレビでも見るような感覚で、時々世界を早回しでもするように加速させたり

しながらビール片手に眺めていたのですが、加速した世界の時間でおよそ2000年分の時間が

流れた辺りで、また飽きてきました。


飽きっぽい神様などと思わないでくださいね?精々100年ほど生きれば良い

あなた方人間と比べ、神々は時間が有り余っているのです。


そして神様はまた思いつきました。

プレイヤーという形で、異世界の人間をこちらに引っ張ってきたらどうかと。


そこで目をつけられたのがあなた方お二人なのです」



途中途中に下手な挿絵の描かれたプラカードを何枚も使いながら説明を続けた

フミが、ふぅと肩を落とすように一息つく。



ユッグが頭痛を抑えるように目元を揉み込むと、なんともいえない表情で質問する。



「……なぜ、私たちが呼ばれたのかな?正直、さして我々は特殊な技能も、主人公補正の

見え隠れするような生き方もしていなかったはずだが。」



そんなユッグにフミはなぜか偉そうにふふーんと鼻を鳴らし、



「それは勿論、お二方が神様と特に親しかったお二人だからですよ!」



ドヤ顔で短い腕を突きつけて言う。


流石にこの予想外すぎる唐突なカミングアウトに無反応でもいられず



「はぁ!?何を言って……」



と咄嗟に声を上げた俺にちっちっちとこれまた短い指を振り、ニヤリと告げる。



「お二方に共通の娯楽同好会のサークルの先輩、自由ヶ丘先輩、

あの方こそが創造神エターナ様その方なのです!!」



ばばーん!とでも擬音がつきそうなほどに大げさにジェスチャーをする



「「……」」



流石に考えもしていなかったことを言われ、二人そろって絶句する。

ほとんど意識せず、考えたことをそのまま口に出す。



「自由ヶ丘先輩って……あの?」


「ええ、その自由ヶ丘先輩ですよ!」



自由ヶ丘 (はじめ)


同じ大学の一年先輩の女性であり、俺たち二人が所属する娯楽同好会の会長である。

もっとも会長とは言っても、彼女が設立し、俺たち二人が入るまで誰も入らなかった

総勢4名の弱小同好会の、ではあるが。


彼女は長くつややかな黒髪に切れ長のきりりとしたツリ目、

小さな顔に見合った小ぶりな唇に、つんと綺麗な曲線を描いた鼻。


出るところはそこらのグラビアなど目じゃないほどに出ているのに

引っ込むところは折れてしまうんじゃないかと不安になるほどに細い

およそ世の女性の羨むべき要素はすべて兼ね備えたような人目を惹きつける美貌と、

鼻歌を歌うだけで周囲の人間が聞きほれるようなよく通るソプラノの美声を持ち、

成績も数々の武道を修め、語学も堪能と文武両道で大学トップクラス。


正に絵に描いた才色兼備で、まるで完璧超人のような設定だ……ここまでは良い。

しかし周囲の人間は彼女を見てこう思う。




天は二物も三物も与えるが、その分マイナスはでかくなるんだなぁ、と。




超絶美人が部長を勤める上に、娯楽同好会なんていかにもゆるそうで

なおかつなんとなく楽しげな所だと想像がつく所に

なぜ人がほとんど集まらなかったのかというと、何を隠そうこの自由ヶ丘創の奇行に問題があった。


まず人の話を聞かない。

自分にとって面白そうなことは3つ離れた教室からでも聞きつけて飛んでくるくせに、

周囲の制止など都合の悪いことは徹底的に無視する都合のいい耳。

関わった人間を強制的に阿鼻叫喚の渦に叩き込むほどの不必要なまでのアグレッシブさ。

その華奢で可憐なスタイルと細腕からは想像できないほどの、武道によって鍛え抜かれた馬鹿力。


そしてなにより尋常ではないほどのサブカルチャーへの傾倒。


これらのマイナス要素によって俺たちの通う大学の生徒及び教師800余名の、

実に9割以上がなんらかの被害を被っている。



過去の有名な事件を思い浮かべると、学園総会コスプレ乱入事件、

101匹うなぎちゃんプール大行進事件、校舎一日大お化け屋敷事件、

大乱闘ピコハンスマッシュシスターズ事件などなど枚挙に暇がなく、名前を聞くだけでも

ろくでもないことをやったのだと想像がつくものばかりだ。


なんでそんなところに所属したのかと言うと、これまたくだらない話があるのだが、

今はただ「騙された」とだけ言っておこう。



そんな自由ヶ丘先輩の名に思考回路の大部分が停止するが、

残った僅かな部分で「確かにあの人ならそんな設定が残っていてもおかしくはない」

と妙に納得する。



「エターナ様改め自由ヶ丘先輩は、せっかく作った世界なのだし

誰かに自慢したい!遊ばせてみたい!そこで目をつけられたのがお二人ですね。


普段の無茶振りに文句を言いつつも毎回なんとか最後まで着いて来たお二人なら

いけるんじゃないか、そう考えた自由ヶ丘先輩はアパートで一人半額のコンビニ飯を食べつつ、

ゴールデンタイムのアニメを見終わった辺りで適当にぱっぱと無意味に巨大な魔方陣を書き出し、

さくっとゲートを繋げてこの世界へとお二人を招待しました。」



「最高神の晩餐が質素な上寂しすぎる件について」

「シッ、余計な事を言うとあの馬鹿女がまた構ってもらえると思って飛んでくるぞ」



……そういやあの人無駄にスペック高い癖に料理は壊滅的だったな、

自炊しているところを少なくとも俺は見たことがないし、

自分が先導した通称「血と涙のばれん☆たいん事件」でも、

他は皆(見た目は)可愛らしいオリジナリティに溢れたチョコレートを作っていたのに、

あの人だけはチョコを無事に溶かすことすらできていなかった。

どうやったらチョコ作りでオーブン一基とレンジ三台を爆破できるのか。


ぼんやりと残念な思い出を浮かべつつストレートなコメントを漏らすと、

ユッグが嫌そうな顔をしながら小声で注意してくる。

確かにあの先輩ならどこかで監視カメラよろしく見ていてもおかしくはない、

ここはお口にチャックだ。



今のやり取りが聞こえなかったのかフミは、更に説明に熱を上げる。


あ、こっから無駄に長い説明だから面倒な人は飛ばしていいぞ、

あとで三行でまとめさせる。





「お二人に神様が望んでいるのは大きく括ってひとつ、

この世界のグランドクエストのクリアです!

その過程で世界が破滅に向かおうが、

栄華を極めようが退屈を解消させることができれば神様的には満足なのです。


お二人は神々が娯楽のために作ったクエストという名の試練をクリアして実力をつけ、

グランドクエストをクリアすることでこの世界から脱出できます。

勿論クリアしても現代へ戻らず、この世界に定住することは可能ですよ?


グランドクエストだけをクリアしても脱出はできますが、その場合は特典がつきません。

この世界には100のメインクエストがあり、ひとつクリアするごとに

現実世界で二人はそれぞれひとつづつそれに見合った願い事を叶える事ができるという特典がつきます!


グランドクエストクリア後に定住を望む場合は、

こちらで願いを叶える権利を与えられますのでご安心を。


願い事の規模は一つのクリア分で平均的な成人男性一人が一年かけて頑張れば

ぎりぎり何とか出来るレベルですね。

金銭で例えると範囲おおよそ500万円分、高級車が欲しいですとか、

美人な嫁さん一人との運命的な出会いが欲しいとかならこれで叶います。


五つ分をまとめて使うことで、複数の天才達が総力を持って一年間取り組むことで

達成可能なレベルに規模が跳ね上がります!

規模はおよそ1億円程度、豪邸を一瞬で建てたり、超難病を患った人を1週間で快癒に導いたりできます!

まさに神の奇跡と称してよいレベルでしょうね!


二五個同時使用で小国を動かせるレベルになります。

男のロマンを満載した世界遺産級のサイズの秘密基地など、大規模な施設を世界に気取らせずに建てられたり、

大規模な精神干渉を行って小国なら時間をかければ滅亡させることだってできますよ。


五十個で大国を顎で使えるレベルですね。

ここまでくると自分のために国一つ分丸々使ったような巨大なハレムを誰にも文句を言わせずに作れるし、

大統領から一兵卒まで操作して戦争を自在に起こすことも可能です。」


「アメリカとロシアで戦争ゲームか……なるほど……」

「おいやめろ」



「そして百のクエスト全てのクリア特典をつぎ込むことで、地球に住むすべての生物を服従させたり、

不老不死になってみたりと文字通り現代世界の神として君臨できます!



更にメインクエストをクリアすると、段階的に神様から願い事以外にご褒美が授けられますよー?



二十のクエストをクリアで、二人が現代に帰るとき時間もたっておらず、

こちらに来たときのままの姿で帰ることができる権利を与えられます。

つまり浦島太郎せずに済むということですねー。



褒美は二十刻みに与えられます、達成するごとに次の褒美を知ることができる形式なのです。



お二人は問題を回避しようと行動し、クエストを放置しようとしても構いませんが、

神々は基本的に娯楽に飢えているので面倒ごとは何もしなくても向かって来ます。



簡単に言うとイベント発生率は極大ですね。



メインクエストはガン無視していれば見なかったことにも出来ますが、

運命神の加護によりクリアしたほうが物理的にも精神的にもよい結果になります。

まあ関わらなかったら尋常じゃないくらいのバッドエンドになるし、それに応じた

不幸が飛び火してくると思ってください。」



「……それ加護という名の呪いじゃね?」



怒涛の説明ラッシュにどうにか一言返すが、フミは気にせず説明を続ける。



「サブクエストは回避は十分に可能ですが、

クリアするごとにこのエターナル・アースにおいて恩恵を得ることができます。


恩恵の受け方は住民による物質的な報酬であったりスキルの取得であったり、

経験地ボーナスのようなものであったりと形はさまざまです。


また、お二人の行動によっては見物している神々から称号が与えられることもありますね。

ごくまれに大勢の人々の思いや、この世界の頂点クラスの権力者・能力者から与えられる称号も存在しております。」



神々からの称号のくだりで、急にユッグの方からのプレッシャーが強まった。

俺の知らないところで何かあったんだろうか。





さて、一通り説明も終わったかな?




「何か質問はありますか?」


「長い、三行で。」



「この世界には報酬つきのクエストがいっぱいあるよ!

ほぼ強制のイベントがぼこぼこ発生するよ!

グランドクエストをクリアで元の世界にかえれるよ!」



「おk把握」



こんがらがりかけた頭も整理できた、シンプルでよろしい。




「ま、私からお伝えできるのはこの程度ですね。

その他こまごまとしたことや、今の説明内容はステータスウィンドウのメニュー欄、

一番下にヘルプとしてまとめて突っ込んでおいたので

何かあればその都度そこから確認しちゃってください!


以上でチュートリアルクエストを終了致します、お疲れ様でしたっ!」



言いたいことは言い切ったとばかりの晴れ晴れとした表情で

フミはもう一度ぺこりと頭を下げる。

同時に、目の前に最初のボタンの時のようなウィンドウが浮かび上がってきた。



[チュートリアルクエスト【神命を告げる者】をクリアしました]

[クリア報酬【普通の服】を取得しました]

[ 条件開放【アイテムインベントリの使用】 が可能になりました]

[ 条件開放  【Gカード機能活用】    が可能になりました]



うん、この世界をゲームとして考えるならば、まさにテンプレ

といったものが開放されたようだ。



ステータスを表示し、右端に追加されたインベントリと

Gカードという項目をそれぞれチェックしてみる。



インベントリとある部分をタップすると、ステータス画面の下に

重なるように横長の小さい無数のグリットで区切られたウィンドウが出現した。


そこには先ほどの報酬であろう服らしきアイコンが収まっていたので、

指で触れてみると【普通の服:防護力1】と小さい半透明のウィンドウが

浮かび上がってきた。

ダブルクリックするように二度タップすると、アイコンが枠から消え

手中にポンッと白い小さな煙と共に、RPGで町民が着ているような

文字通りの普通の服が出現した。


感覚的にそうなりそうだなーと思うままに、その服をインベントリウィンドウに

押し当てると、また小さな音を発しながら消え、また枠の中に服のアイコンが収まった。


なるほど、実にゲーム的で便利そうだ。



Gカードとやらをヘルプで確認すると、どうやらGというのはこの世界の通貨的なものらしい。

その本質は魔力の塊で、冒険者ギルドなどで生活に使われる魔道具の生産や、

稼動のためのエネルギーとしてに必要不可欠で需要は尽きず、価値は一定らしい。

ちなみに読み方はベタにゴールド。

どこに金要素があったのか。


機能は日本円とGを手数料(なんと5割も!)を必要とする代わりに、

100円=1Gとして両替できると言うものだ。

実質200円で1Gだな。


他にはカードとして実体化させることで、クレジットカードのように扱えるらしい。

目立たないかと思ったが、この世界の人間は両替機能を除きごくごく当たり前に持っているらしい。

ステータス機能も同様のようだ。



Gと経験値をを得る方法は共通で、モンスターの討伐やクエストの達成で

この世界の法とルールを司る神が公正に判断し、相手の強さに従った

Gと経験値が自動的に与えられるとの事だ。



大体の新要素を確認し終え、一息ついてぼんやりと考える。


今の説明を聞くに、とりあえずはクエストが発生する度にそれに

関わっていけば何とかなるようだ。

俺たちのスキル的に友好的な対人関係を築く事が最大の難関になりそうだが……

まあ、まず誰か人に会わなくては始まらない、今これを考えるのも杞憂だろう。


ユッグの方をみると、そっちも大体同じような結論に達したようだ。

顎に手をあて俯く様な姿勢から何度か頷いて顔を上げると、

「どうせあの馬鹿女の事だ、拒否権など無いのだろう、わかった。」

と、こちらに乾いた半笑いを向けてきた。

ここ2年で何度も見ることになった、達観と諦めの混ざった表情だ。

多分自分も同じような顔をしていることだろう。



「了承して頂けてなによりです♪

あ、それと後味の悪さを無くすべくこの世界の魔物は、

一度戦闘不能にする事で元が生物なら普通の動物に、

無機物や非実体なら消滅という爽快感重視の仕様となっておりますので

ヘタレた日本の現代人でも戦えるようになっておりますのでご安心を!

……もっともザン様はスキル的に、ユッグ様は本来の性格的にその心配は無用かもしれませんが。」



笑顔でナチュラルに卑下と罵倒を付け足してきたフミに、ユッグは引きつった微笑を返す。



「はっは、これは酷い事を仰る、私が人格破綻者か何かのように」


「ユッグ様こそ、まるで初対面のような扱いをー、私さみしくて泣いちゃいますよぅ?」



一瞬いぶかしむ様に眉をわずかに動かしたユッグに、フミはつづけて



「私の声、忘れちゃいましたー?青鬼先輩、赤鬼先輩は憶えてますよねっ?♪」



俺たちの表情が、ビキリと音を立てて凍りつく。

この声、このあだ名で呼ぶ後輩?

どうやら最初の目を見た既視感は的中していたようだ。


同じ結論に達したのか、ユッグは微笑でややあがっていた口の端を、

耳まで裂けんばかりに吊り上げつつ地獄の底から響くような声を出す。



「……貴様ァ、フユミかァァァァァアアアアッ!!」


「はーいっ☆みんなのアイドル、日向冬美ちゃんでっす♪」



悪魔も慄く様な表情で黒い靄を撒き散らすユッグに、

対照的なまでに明るい表情で一回転してポーズを決める岩アルマジロ……

否、娯楽研究会最後の一人、日向冬美。


小柄ながら愛らしい外見に、飴玉を転がすような甘い声。

それに成績はトップクラスに優秀と、かつての自由ヶ丘創を知る大学関係者は

彼女に期待と恐怖を抱いた。


彼女こそは大学でまともなアイドルとなってくれるのではないか。

否、優秀な人間は総じてどこかおかしく、自由ヶ丘の焼き増しになるのではないか。


かくしてその予想は悪いほうに的中した。



入学直後から彼女の奇行は頭角を現し、自然とスタ○ド使いのように

惹かれあったキ○ガイ二人は相乗効果を生むように被害を拡大させた。


口調こそは礼儀正しいものの、行動思想は正に自由ヶ丘二世。



その冬美がここにいるということは……



「超時空美少女フユミちゃんの正体はなんと!このエターナル・アース

で一・二を争う超絶美天使フミちゃんなのでしたー☆

びっくりしました?ねぇねぇびっくりしました?」



もう予想通り過ぎる答えに、声すら出ない。

頭のねじが一本どころかダース単位でまとめて飛んだような言葉に、

ユッグなどは怒りのボルテージが限界を振り切ったのか

完全なフラットな表情になり、先ほどより狂気を増した

どんよりと漂う黒い瘴気だけが彼の感情の程をを教えてくれる。



「……ふむ、所で全く関係ないことなのだが、神の使いとやらの経験値はどれくらいなのだろうな?」



物騒な事を呟きながらゆらりとフミの方へと歩き出そうとしたユッグの機先を制すかのように、



「さて、用件も済んだことですし、お二人がこの超☆美天使フミちゃんと

長く一緒にいたい気持ちはわかりますが、私にもお二人がこちらにいらっしゃった関係で

お仕事が山積みなのです☆とってもさみしいことでしょうが、

私もちょこちょこ天使チャットをつかってお二人に話しかけますので我慢してくださいね?

それではっ!!」



勝手な妄言をマシンガントークで撒き散らした挙句、またもや変なポーズを決めると

アルマジロの石像ボディから白いもやが抜け出し、そのまま天へと昇っていった。

変な形で固まった石像を見ても、ただの岩としてのウィンドウしか表示されないため、

本体はどこか天界やらに帰ったのだろう。


取り残されたユッグが不気m……不憫だ。

中途半端な位置まで上げられた手が、怒りをぶつけるべき対象を失って

固まっている。



……この空気どうすんだよ。



どうしようもなくなって空を仰ごうとしたところ、

視界の端に土煙のようなものが映った。

どうやら街道の向こうから、何かが迫ってきているようだ。



ここでまたポーン、と唐突にクエストウィンドウが発生する。



[メインクエスト1:【お・約・束☆ミ】が発生しました]


・街道の遠くから人も気前も良さそうな商人のおじさんがあやつる馬車が、

深い知性を感じさせる瞳の元奴隷美少女を乗せて

腐った貴族が雇って指揮した山賊どもに追いかけられて来ています

・クリア条件は【山賊の殲滅】【商人・元奴隷少女及び馬車の保護】

【貴族の撤退】です

・クエストを受諾しますか?



初クエスト要素、全ブッコみだった。



「テンション上げ過ぎだろう神々」



ついつい突っ込んだ俺に、ユッグが未だ無表情のまま、こちらを向いて一言。



「山賊か、モンスターと認識して、良いのだろうな?」


「いやしらねぇよ」



クエストの受諾を、タップした。


ちなみに、今更ですが最初のスキルをもらう選択肢ボタン

他のを選んでいれば正統派ストーリーになっていました

ザンは剣士か格闘戦士

ユッグは神官か魔術師


このジョブになった時点で彼らのネタキャラロールプレイは決められていました。



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