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eyes on me  作者: DOGOON
7/11

音の世界の緋奈

「・・・頑張れよ、緋奈」

「おう良介、一緒に飯食っていいか?」

「・・・」

「おーい、良介ー?」

「・・・」

「良介・・・?」

「・・・あ、ごめん」

「どうした?なんかあったか?」

めずらしく麻弥が俺のことを真面目に心配してくれてた。

「いや、緋奈が今日手術なんだよ」

そう。今日は夏祭り五日後、緋奈の手術の日なのだ。

それで俺は朝からずっとそわそわしていた。別に俺が受けるというわけでもないのに。



今は昼休みで、俺は学食を食べにきていた。いつも昼休みになると人であふれかえるという大人気の学食。それには理由がある。その理由とは、唯一他の学年の生徒と会うことができるということ。つまり出会いを求めてここにきている人がいるのだ。むしろここにきている人の七割近くはそれが目的だろう。

でも俺と麻弥は純粋に、ご飯を食べるために来ている。

俺は焼き魚と味噌汁などがついてきて、あとのおかずは日ごとに変わる焼き魚定食をいつも食べている。麻弥は大きなハンバーグのついてくるハンバーグ定食をよく食べている。案の定俺に話し掛けてきたときも、ハンバーグ定食ののっているおぼんを持っていた。

「じゃあ緋奈ちゃんは目が見えるようになるのか?」

「いや・・・治るか治らないか、確立は半々だとよ」

「そうか・・・」

麻弥は少しがっかりしながら俺の隣に座ってきた。

「手術・・・か」

ハンバーグを箸で半分、さらに半分、さらに半分・・・とやりながら、麻弥は言った。

「俺も手術受けたことあるんだよ」

俺は多少驚いた。

「どこが悪かったんだ?」

「なーになんてことはない、ただの盲腸だよ」

と言って笑った。

思わせ振りなしゃべり方だったから結構大変だったかと思ったじゃないか。と麻弥に毒づこうと思ったのだが、麻弥は笑うのを止め、急に真面目な顔で俺を見た。

「あの時は盲腸の手術だから、まず失敗はない。って医者に言われたけどやっぱり俺、恐かった。だってよー、自分の体が、腹が切られるんだぜ?それって恐いと思わないか?」

俺は健康優良児だからもちろんそんな恐怖と出会ったことはなかった。出会ったときがどんな感じなのか、なんて俺には想像もつかない。

「想像つかないだろ?」

まるで俺の思考を読み取ったかのように麻弥は言った。

「ああ、つかない」

「まぁ簡単に言うとだな、とにかくこえーんだよ」

そう言うと麻弥は小さくなったハンバーグとご飯を食べ始めた。

俺も骨を取りながら魚を食べ始めた。

「・・・緋奈ちゃんのこと励ましてやれよ?」

麻弥は箸を止めて言った。

「ああ、わかってる。色々サンキュ」

「手術の成功を俺も心から祈ってるよ」

・・・やさしいやつだ。

「わかった。その言葉緋奈にしっかり伝えとく」

それきり俺と麻弥は食べることに集中した。俺が食べおわり、先に席を立つまで会話はなかった。でもそれも麻弥のやさしいところだと思った。あえて何も話さない。それでも麻弥の気持ちは伝わってきた。

この気持ちも緋奈にしっかり伝えておこう。




「・・・だってさ」

「麻弥さんってやさしいんだね。今度会わせてね」

「おう、麻弥も大歓迎だろうよ」

俺は学校が終わってから緋奈の病室に飛んでいった。

それでも手術一時間前に着くことが精一杯だった。けれども、緋奈はとても喜んで、来てくれてありがとう。と言った。

それから俺は麻弥のことを話して、その気持ちをしっかりと伝えておいた。

それで、さっきの感想を言ったわけだ。

「なぁ、恐い・・・か?」

緋奈は小さくコクンとうなずいた。

「・・・だよな、そうだよな・・・いまさらだけど、何か俺にできることないか?」

「良ちゃんにできる事・・・かぁ」

緋奈は少し考えてから、欲しいものがあるの。と言い、それが何なのか聞いた。

「うん、それはね、良ちゃんが夏祭りの時に掬ったスーパーボールを一つ、くれない?」

「あのスーパーボールか?ちょうど今もってるけど・・・」

本当は麻弥にお土産としてあげようと思っていたのだ。すっかり忘れていた。あんなにきれいなボールを麻弥にあげれば、すんごく喜ぶだろうな。と思って掬ったのだ。麻弥は無類のスーパーボール好きである。

俺はカバンの中からスーパーボールの入った小袋を取り出して、スケルトンブルーのボールを緋奈に手渡した。

「はい、これ」

「友達にはあげなくていいの?」

「ああ、別にいいんだ」

「じゃあ、遠慮なくもらうね」

緋奈は俺が渡したボールを大事そうに両手で包み込んだ。

「えへへー、これがあればなんだか良ちゃんがすぐそばにいるみたいだよ」

「・・・そいつはよかった」

ふと、時間が気になったので時計を見た。

「そろそろだな・・・」

「・・・もうそんな時間かぁ」

その瞬間、病室のドアが勢い良く開き緋奈の担当医が入ってきた。

「緋奈ちゃん、そろそろ行こうか」

担当医はそう言って数人の看護婦を呼び出し、緋奈を手術室に連れていこうとした。

「先生、緋奈をよろしくお願いします」

俺がこう言うと医者は

「もちろん全力を尽くすつもりでいるよ」

と、ありきたりの言葉を言った。でも、俺はその言葉をとても頼もしく感じた。

俺は手術室に向かう緋奈の後ろ姿を見ながら、心の中で頑張れ、頑張れ、とずっとつぶやいていた。




緋奈の姿が見えなくなって後ろを振り返ってみると、そこには緋奈の母さんが歩いてきていた。

俺は頭を下げて礼をした。

「どうも、こんちは」

「こんにちは良介君。緋奈はもう行っちゃったのかしら?」

「さっき担当医と数人の看護婦に連れられていきましたよ」

「あら、そうなのね。手術室の説明されてたらすっかり遅れちゃったわ」

緋奈の母さんはあまり緋奈とは似ていない。どちらかというと父さんのほうに似ているらしい。(緋奈談)

「良介君、いつも本当にありがとうね」

と言ってやさしく微笑んだ。このやさしい笑顔は緋奈とそっくりだ。

「いえ、いつも暇なんで大丈夫です」

「そうなのね、でも私は良介君にすっごい感謝してるわよ」

「俺、なんか感謝されるようなことしましたっけ?」

「いつもお見舞いにきてくれるでしょう?だから緋奈もここまでこれたのよ。良介君、本当にありがとう」

「え、いや、あの、その・・・」

すっかり照れてしまった俺をみて、緋奈の母さんは、ふふっ、と笑った。

「あ、そうそう。緋奈の手術は、だいたい七時間くらいかかるって言ってたのよ。だから、良介君は帰ったほうがよさそうね」

「え、でも・・・」

しかし俺は迷惑を掛けるわけにはいかないと思い、その提案を承諾した。

「明日良介君が学校から帰る頃に電話するわ」

「はい、お願いします」

「じゃ私そろそろ行かないと・・・じゃあね良介君」

緋奈の母さんはそういうと手術室の方へ足早に行ってしまった。

俺は緋奈の母さんの背中を見えなくなるまでずっと見ていた。・・・頑張れ、緋奈。



病院からでた俺はふと足を止めてまわりの音に耳を傾けた。聞こえてくるのは

人の声、犬の鳴き声、風の音、その風が葉っぱを揺らす音、目を閉じればそこには“音の世界”が広がっていた。・・・緋奈はこの世界から抜けることができるのだろうか?


俺は目をあける。眩しい光が俺の目に刺さってきた。同時に、不安も俺の心に刺さってきた。思いっきり、ざっくりと。

「こんなに人のことで不安になるのは初めてだ・・・」

だれにともなくそうつぶやいた。

まるで心臓の辺りに真っ黒のマントをかぶせられた気分だった。

「頑張れよ・・・緋奈」

本日二度目のつぶやき。


しかし、この不安は翌日の一本の電話でスッキリ解消された。

「良ちゃん、手術成功したよ!」

俺は情けないことに腰が抜けてへたりこんでしまった。

それと同時に電話でよかった、と思った。なぜなら、これまた情けないことにもし実際に会って言われたら泣いてたかもしれなかったからだ。




長らくお待たせしました!DOGOONです!

今回はこちらの都合により後書き短くさせて貰います。

読んで頂いて有難うございます。これからも読んでやってください。

それでは!

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