緋奈の誘い、京の誘い
「・・・良ちゃんと行きたいなーと思って」
「・・・よかったら夏祭り一緒に行ってもらえませんか?」
俺は工藤良介。ただ今高校二年生で成績は中の上。運動は結構できるほうだと思ってる。
ルックスは友達いわく「お前が女子の間でなんて呼ばれてるか知らないだろ?いまどきどうかと思うが“王子様”だぞ?」ということを言われた。
この学校は中高同じ校舎で、進学はエスカレーター式である。
下の学年や中学生の女子とすれ違ったりすると、後ろできゃーきゃー聞こえてきたりすることはよくある。
ほかにもかっこいいやつはいると思うが・・・
それはそうと、俺は部活に入っていない。それに、ここはそんなに部活に力を入れていないようで、あくまで学生の本文は勉強にある。ということを入学当初に説明された。
そんな学校の方向性なのか大学進学率は極めて高いことで有名なのだ。
まだ色々と話していないところもあるが、それは徐々に分かっていくだろう。
そんなことを考えているうちに俺は「冬野緋奈」というネームプレートのかかった病室の前に着いた。
コン、コン、ココン
俺が来たぞ、というときのノック。四回あるうち最後の二回はココンとリズミカルに叩く。
しかし俺は相手が返事をする前に病室のドアを開けて中に入った。
ベットの上には小柄な女の子がちょこんと座っていた
病室の中は窓が開いていてカーテンが風を孕んで踊っていた。
彼女は、その風を気持ち良さそうに受け、きれいで長い髪を風になびかせながら
「待ってたよー良ちゃん」と、にっこり笑って言った。
彼女は少し年下なのだが幼なじみの、「冬野緋奈」だ。
「調子はどうだ?」
「大丈夫だよ。今日はまだ目は痛くなってないよ」
「そうか」
緋奈は俺のほうに顔を向けて言った。
「そこら辺に椅子ない?」
俺は辺りを見回してみるが椅子はどこにもない。
「椅子なんてないぞ」
「あれ?看護婦さん片付けちゃったかな」
そういうと緋奈はベットのはしをパンパンと叩き
「ベットに座っていいよ」と言った。
俺は遠慮なく座ることにした。
「良ちゃん、手かして」
「ん?またか?」
緋奈は目が見えない。だから手を繋いでいると安心する。とかなんとかで近ごろ、よく「手をかして」と言ってくる。
「・・・いや?」
「ううん。いいよ」
俺は緋奈の差し出した手をやさしく握ってやった。
「・・・えへへー」
緋奈はうれしそうだ。
俺の頬が軽く赤くなる。でも緋奈には見えないからいいけど。
「緋奈の母さんは?」
「今日は来れないって言ってた」
「そっか、忙しいんだな」
「うん何か仕事いっぱいあるみたい」
緋奈の手はあったかくやわらかい。もう片方の手は病室に入り込んでくる風のせいで冷たくひんやりしていて、そのせいで“手を繋いでいる”という実感をよりリアルに感じさせる。
「ねぇ良ちゃん」
「ん?」
「今度夏祭りあるよね?」
「あるけどまだ二週間先だろ?それがどうした?」
緋奈は恥ずかしそうに、下を向きながら言った。
「まだ時間あるから、歩く練習してさ・・・良ちゃんと行きたいなーと思って」
緋奈はキュッと俺の手をさっきより強く握ってきた。
「歩く練習?普通に歩けんじゃないのか?」
緋奈の母さんから、いつもトイレとかに歩いていってると聞いたことがあったが・・・
「歩く練習は・・・いろいろあって」
「ふーん」
「一緒に・・・行ってくれる?」
夏祭りシーズンになるといつも女子達に散々誘われ、そのたびに断ってきたが
「んー・・・行こっかな」
「え!ほんと!?」
緋奈となら行っても良いかな。と思った。
「おう、俺でよければ」
「ほんとにほんと!?」
「本当だって」
「良ちゃんありがと!」
緋奈はさっきよりさらに強く手を握ってきた。
「えへへー。うれしいなー楽しみだなー」
なんだかとても喜んでいるようで、俺もうれしかった。
その後、俺と緋奈は長々と雑談をしていた。
しかし、緋奈は二言目には「うれしい」だの「楽しみ」だのとずっと言っていた。そんな緋奈を見ていると俺もうれしくて楽しみになってきた。
どれくらい話しただろうか
「あ・・・そろそろ面会時間終わりだね」
「ん?もうそんな時間か」
確かにもう六時半になりそうだ。俺は学生カバンを持って立ち上がった。
「今日もありがと。楽しかったよ」
「そっか。また来るよ、じゃな」
「うん。じゃね」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・良ちゃんどうかした?」
「そろそろ離してほしいんだけど・・・」
「え?・・・あ!」
今まで忘れてたようで、やっと手を離してくれた。
緋奈は顔を真っ赤にして
「ごめんー」
と言った。
「今度こそじゃあな」
「うんじゃねー」
俺は病室から出るときに緋奈のほうを振り返った。緋奈は相変わらず顔を赤くして、軽く手を振っている。
俺が来たときから開きっぱなしの窓は風の入り口となり、さっきと同じようにカーテンを揺らし、緋奈の髪をなびかせていた。
それを見た後、俺は病室から出てドアを閉めた。
緋奈の病室を訪れて一週間と五日が過ぎ、もうすぐ夏祭りだ。そんなある日の放課後。
「おーい“王子様”!」
ったく、その呼び方いやなのに
「何だよ麻弥、何か用か?」
こいつは俺の友達の「坂原麻弥」(サカハラマヤ)。
性別は男で、いつも俺達はテストの点数、体育の授業で競り合っている。でも結果はいつも同じくらい。
どっちが女にモテるか、と聞かれてもこれまた同じくらいなのだ。
そんな似たもの同士なのだが結構仲良やっている。
「今日も緋奈ちゃんのところに行くのか?」
緋奈のことも一応話してある。目が見えないということも。
「いや、今週は行けない」
今週は目の検査が色々あるらしいので会うことができなかった。
「じゃあ王子様、今日の予定は?」
「特にないけど、どっか行きたいのか?」
「欲しいCDあるんだけど」
「うし、じゃそれ買いに行こう」
「やった!それでは王子様さっそく行きますか」
俺と麻弥は昇降口のほうへ歩いていった。俺と麻弥が歩いているとずいぶん女子にじろじろ見られている気がする。
そんなとき
「あの・・・」
と後ろから声をかけられた。
「良介先輩ですよね?」
ん?俺?見たことない子だけどなんだろう?
「俺が良介だけど何か用事?」
「私一つ下の学年の京といいます」
なかなか可愛い子だな。と隣の麻弥が耳元で言ってきた。
「私ずいぶん前から先輩のことが・・・気になってて」
そこで彼女は恥ずかしそうにうつむきながら
「・・・よかったら夏祭り一緒に行ってもらえませんか?」
おいおい、モテモテだな王子様よ、と隣の麻弥が再び耳元でささやいた。
「うーん、ごめんね。もう行く人決まってるんだ」
「・・・やっぱりそうですよね・・・すみませんでした」
がっかりしたような表情の彼女は、ぺこりと頭を下げて走り去っていってしまった。少し惜しいことをしたかも。
「さて、行こうか麻弥」
俺たちはまた歩きだした。
昇降口で口を履き替え、校舎をでた。この学校は昇降口と校門の距離が五十メートルはあって、そのまわりにはずいぶんとでかい木がたくさんある。
その種類はさまざまで春は桜が満開になり、夏は木々が涼しい木陰を作り、秋は葉が紅葉して美しい風景を見せる。冬は殺風景だが・・・
この五十メートルは四季折々の風景を見られる。俺はこの五十メートルがけっこう好きだ。
今は夏なので涼しい木陰が風で左右にゆれている。
「なあ、お前夏祭り誰と行くんだ?」
そこの木陰で座って休んでいきたいなーと思っていたところにそんな質問をされた。
「言ってなかったっけか?緋奈だよ、緋奈」
「え?緋奈ちゃんと行くのか?っつーか大丈夫なのか?」
「うん大丈夫らしいぞ」
緋奈が何度も言っていた。大丈夫って。
「いったいその自信はどこから・・・」
「だよなぁ、俺も正直いうと不安なんだよ」
「まぁなんかあったら呼んでくれ飛んでくよ」
「わかった、なんかあったときはよろしく」
この時、俺の好きな五十メートルのゴール地点である校門をくぐりぬけて、俺たち二人は次のゴールであるCDショップに向けて歩きだした。
夏祭りまであと二日・・・多少の不安が俺の胸をかすめていた。
読んでくださり有難うございまっす。
いきなり関係ない話ですが、いっつも題名付けるときに悩んでいます。
今回の題名の後半「京の誘い」ですが、ホントは京っていう名前の女の子はいませんでした。可愛い女の子としか最初は標記してませんでした。でも、題名付けるときに可愛い女の子の・・・っていうと長ったらしいので仕方が無く京という名前をつけちゃいました。
おそらく、もう彼女に出番はありません(爆
もしも、もう一回出して欲しいという方はメッセージ送って下され。もし5通 超えたら出そうか ホトトギス。(ワケワカラン
で、今後の展開はというと、緋奈との夏祭りは二、三話先になりそうです。それまでにもう一人主要人物を出さないといけないので・・・
今回の話の結構重要キャラです。麻弥の比にならないくらいの(爆
それはそうと実はですね、麻弥というキャラは・・・っと、この話は次の話の後書きで書こうっと(笑
それでは、今回はこの辺で・・・
読んでくれた方は是非是非感想下さいなー。一言でよろしいのでー
そうすれば作業がペースアップ!して早く次の読めるかもよー・・・