旅館にて〜魚の間〜
緋奈「気にしない・・・で」
空「気に、しないで」
「着・い・たー!」
「空気がおいしーい」
すぅー、はぁー
ずっと座りっぱなしだった疲れをとるためと、空気を味わうために深呼吸をした。
夏休み初日から四日間。俺は友人達と旅行に来ている。今はその目的地の最寄りの駅に着いたところである。
旅行のメンツは俺、麻弥、空、緋奈、宮晴、そして…
「良介ー私の荷物も持ってくんない?」
紀里姉。
「自分で持てよ…ったく」
絶対に連れてきたくなかったのだが母さんにぽろっとしゃべってしまったのがまずかったか…地獄耳というのは恐ろしい。
「…何でついてくんだよ」
超小声で言ったのだが
「何か言ったー?」
……恐ろしい。
「じーちゃーん!ばあちゃーん!」
旅館に着いた。中はそんなに古くなく、掃除もいきとどいているようでむしろ新築のようだった。床なんか光っている。
「待ってたよぉ麻弥、泊まってる間はあんまりお客さんいないから少しだっだら騒いでいいぞぉ」
「了解!よっしみんな部屋案内するぞー」
わーと叫びながらみんなは走っていった。
「…これからお世話になります」
「おやおや、礼儀正しいんだねぇ。麻弥の友達とは思えないわぁ」
お婆さんがふふふと笑い、
「んだなぁ、んだなぁ」
とお爺さんが相槌を打った。
「麻弥は学校ではどうなんだい?友達はいっぱいいるのかい?」
「僕の他にもたくさんいますよ」
「んだか、んだか…それはよがった」
二人微笑みあった。…仲のいい爺さん婆さんだなー。
「…あら、もうみんな行っちゃったわね。部屋はそこを真っすぐ行って左にまがり、手前から二番目ですよ」
「はい、ありがとうございます」
俺は一礼してぴかぴかの床を滑らないよう気を付けながら歩いていった。
「これ良介の分」
みんなに追い付いてからいきなり、麻弥から小さく三角折りにした紙を渡された。
「みんな紙開いて」
…紙には魚の間と書かれている。
「じゃ書かれてるほうの部屋に入ってー」
「…なぁ麻弥、女子と男子で分ければいいんじゃないか?」
今、最もな意見を言ったのは宮晴だ。紹介が遅れたがこいつとは中学の頃から仲がいい。高校は違うが、ちょくちょく連絡を取り合い遊ぶことが多い。
「えー?それじゃあおもしろくないだろ?」
「…ったくわかったよ」
「宮晴君納得したように見えるけど実はうれしいんでしょ?」
紀里姉の茶々が入る。それに対して宮晴は
「ばれたか!?」
と言い、麻弥が
「うははっ」
と笑う。それにつられてみんなで笑った。
「はは…じゃ部屋に入ろうか」
「そうだなー部屋に入ったらあとは別行動なー」
「ういー…で魚の間は他に誰いるんだ?」
「はいはいー」
と元気に手を挙げてるのは空と……空…と…
「「だけっ!?」」
二人ハモリながら疑問を口にする。
「あちゃー引き悪いねー…」
「おい!何で半分づつに別れねぇんだよ!」
「くじには十枚紙入れて五枚五枚で部屋を書いたんだからこういうこともあるって」
「何でそんなに入れてるんだよ!」
「そっちのほうが楽しいだろ!」
「楽しくねーよ!わけわかんねーよ!第一な…」
「こら!良介!往生際悪い!決まったんだから仕方がないでしょ!」
と紀里姉が怒鳴る。
「仕方がないって…そういう問題じゃないだ…」
「良介?」
「う…」
紀里姉があまりにも恐い笑顔を見せてきたので俺は渋々従うことにした。紀里姉には反抗したって無駄なのだ。そして俺の心情とは正反対にうれしそうにして
「良介入ろっ!」
と言い空は魚の間に入った。それに続いて俺も入ろうとしたとき
ぐいっ
と誰かに服の裾をひっぱられた。
「…良ちゃん」
緋奈だった。
「おう、どうした?」
「あのね良ちゃん…あのね…」
「ん?」
他の奴らは各部屋に入っていった。廊下には俺と緋奈だけだった。
「…あのね私」
ここまで言いかけた時
「良ー介ー何したのー?」
と空が部屋から叫んだ。
「すぐ行くー」
と返事をしておいた。
「…で緋奈、何?」
「………ううん、何でもないの。気にしない…で」
緋奈は、はにかみながらそう言うと俺に背をむけ、自分が泊まる部屋に行ってしまった。
「良介、緋奈ちゃん何て言ってた?」
「何でもないってさ…何だったんだろうな」
魚の間には特に変わったところはなく壁に立派な魚の絵が飾ってあるだけのよくある部屋だった。
「…普通の部屋だな」
「いいじゃない。質素な感じがして」
空は部屋の真ん中にあるテーブルの上にあったお菓子を一つ食べた。
「うん。おいしい」
にっこりしながら空は二つ目をほおばった。
「なぁ空、お前は何も文句とかないのか?」
「そりゃあ少しはあるわよ」
「じゃあさっき何で何も言わなかったんだよ」
「そっそれは…」
空はくちごもりながら顔を赤面させている。俺、なんか余計なことでも言ったかな?
「まぁいいか。再会してからゆっくり話したことないからな」
「そうだね。今日はいろいろ話そっか“京矢”」
ん?キョウヤ?
「あっ!ごっごめん!良介だよ良介。間違えちゃった」
別に名前を間違えられただけなら特に気にはしなかったのだが、その時の空の表情はすごく暗く、悲しく見えた。まるで忘れていた何かを思い出したかのような…
「ごめん。本当に何でもないの」
「…お、おう」
「気に、しないで」
本日2度目の「気にしないで」はとても悲しい言い方だった。
それから俺と空は互いの中学生の頃の思い出話に花を咲かせた。時に笑い、時に恥ずかしがり、時に怒った。
「そん時ばかりは俺も恥ずかしくてさー」
「あはは!良介らしいかも!」
「うるせー。余計なお世話だよ!」
とは言うが俺も笑っていた。久しぶりにこんなに笑った気がする。
今度は私の番ね。と空が言うと、部屋の外から
「飯食いに行くぞー」
と麻弥の声が聞こえてきた。いつのまにか晩飯の時間になっていたようだ。俺は話に夢中で気付かなかった「もうそんな時間かー」
それはどうやら空も同じだったらしい。
「じゃ、行くか」
そうして部屋から二人で出た。今は空は笑顔だが俺はあの京矢と言ったときの空の表情がどうしても頭からはなれなかった。部屋から出るときもう一度空を見た。その表情は再び暗くなっていた・・・。
どうも!DOGOONです!とっくの昔に夏休みは終わっているのに小説ではまだまだ夏休み始まったばかりですね!(爆)
旅館での話は全四話程度を予定しているのですがなかなか全体をとうしてのいい話が書けなくてですね・・・ずいぶん時間がかかってしまいました。
しかし、そのおかげでやりたいことが見つかりました。次はなるべく早く出したいと思っていますので・・・待っててください。それでは、今回も読んで頂き有難うございます。次も是非とも読んでください。