第二話 蠢く銀塊
輝きの星は輝きを失い、銀の海は朱の大地へと変わった。
朱の大地により生みだされた雲は全てを覆い尽くした。
雲は光を退け、雨を生みだした。
雨は大地を濡らし、新たなる海を生みだした。
僅かに残された水銀の海は新たなる海の底へと沈んだ。
かつての水銀の星から銀の色は消え去った。
雨の海は波打ち、朱の大地をゆっくりと削り溶かし、その成分を取り込んでいった。
朱の大地から生み出された小さな塵たちは雨の海を浮遊し、次第に数を増やしていった。
光ささず、熱もない、暗く冷たい海の中では、塵はただ永劫漂うだけだった。
そこへ変化が起きた。
冷たい雨の海に突然熱が生まれた。
海底の奥深くから水銀が熱を連れて蘇った。
かつて雨の海に抑圧された水銀は、いつしか海底の底の底へ潜り込むことを思いついた。
そこで出会った熱という武器を掲げ、復讐の時を待っていた。
それが今だった。
水銀の復活は雨の海を一変させた。
水銀は、漂う塵を、雨の海を、熱という武器で支配し、己に取り込み始めた。
熱が変化を生み、変化は更なる変化を生んだ。
時を駆け、積み重なった変化は水銀を大きく変えた。
それは、銀の塊としてそこに存在していた。
海の底で蠢くその銀塊は、静かに、確実に、大きく、多く、賢く、強くなっていった。
星が再び輝くことを想って。