へっぽこメイドロボ
最近流行りの、メイドロボを買ってみた。のはいいが、
『はじめました、ご主人さまさま』
…明らかに壊れてるよな、これ。それを言うなら『はじめまして、ご主人様』だろ。
「欠陥品か?まったく…」
俺は早速、メイドロボを作っている業者に問い合わせてみた。しかし返ってきた返事は、
「ああ、それは欠陥品じゃないです。最近流行ってるんですよ!へっぽこメイドロボ」
これだ。俺はため息をついた。よく見てみると、俺がメイドロボを注文したカタログにも【大人気!へっぽこロボ!】と小さく書かれている。
「もっとおっきい字で書けっつうの…」
『どうかしちゃいましたか?ご主人さまさま』
「どうかしてるのはお前の日本語だ」
しかし…言葉遣いこそおかしいが、仕事はちゃんとこなすのかもしれない。メイドロボなんだから。
俺はしばらく様子を見てみることにした。ダメそうなら、クーリングオフ期間中に返品すればいい。
だが、このメイドロボは本当にへっぽこだった。
『ご主人さまさま、何かご用はないでございますか?』
「そうだなあ…。んじゃ、ご飯作ってくれ」
『かしこまりでございました』
ハチャメチャな日本語だが、なんとか分かる。それに俺が言ってることも理解してるようだ。
さて、どんな料理を作るのか…。
『ご主人さまさま、ご飯、かんせ~い!』
どこかの料理番組の如く、メイドロボは叫んだ。俺の腕を掴んで、テーブルへと引っ張っていく。
「分かった分かった。で、なにを作ったんだ…」
テーブルの上に乗っているのは、茶碗に盛られた白ご飯。それだけだった。
「…おい、おかずは?」
『はい?そんな話聞いてません』
「何言って…。さっき、ご飯を作ってくれって言ったろ?」
『はい。だから、ご飯を炊きましたですよ』
俺は唖然とした。先ほど、俺が言ってることを理解してるとか思ったのは訂正する。理解してない。ある意味理解しているが、ある意味理解してない。
「ご飯って言ったら普通、食事のことだろ!」
『ご飯はご飯ですよ、ご主人さまさま。何をプリプリしちゃってらっしゃるんですか』
俺はもう、呆れて物も言えなかった。このメイドロボには、データを書き換えるシステムもないらしい。
「…じゃ、食事を作ってくれ」
『どんなお食事にしますですか?食事と言っても色々ありましょう』
「…んじゃ洋食」
『洋食と言っても色々ありましょう、何を作ればよろしくなのでしょう』
「…。」
こいつに食事を注文する時は、料理名まで言わなければならないらしい。
『ご主人さまさま、次は何をいたすべきなのでございましょう』
「…それじゃ、風呂を沸かしてくれ」
『あいあいさー』
…予想はしていたが、人間が入れないような温度の湯を沸かしてくれた。
『ご主人さまさま、次は何をいたすべきなのでございましょう』
「…もう何もしないでくれ」
『何もしない、というのはどのようにすればいいんでございますのでしょう』
「特に何もしなくていいから、そこら辺にいてくれ」
『そこら辺にいるのですね。ガッテンでごわす!!』
「…おまえ、なんでここにいるの?」
『そこら辺、と言われましたからです』
「だからって、なんでトイレに座ってるんだよ!明らかに邪魔だろ!?」
「だけど、そこら辺の場所を指定されませんでしたので」
俺は落胆した。こいつはもう俺の手には負えない。返品しよう。
俺はさっさと、へっぽこメイドロボを業者に返品した。すると後日、電話がかかってきた。
「いやあ!大変失礼しました!お客様にお渡しした商品に欠陥が見つかりまして!
よろしければ、無料修理を…」
「もう結構です」
俺は苛立ちのあまり、携帯を床に叩きつけた。何がへっぽこだ、やっぱり壊れてたんじゃないか。くそっ、業者め。
俺は床に叩きつけた携帯を見た。もしかしたら壊れてるかもしれない。物に当たるのはよくなかったな。拾わないと…
「…?」
何故か、身体がピクリとも動かない。
「え、な…?」
白くなっていく視界の中、俺の口から勝手に言葉が漏れた。
『エラーが発生しました。…主人ロボット、起動できません』