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sugar0401の出品

掲載日:2026/07/25

大学の講義が終わり、夕暮れ時のキャンパスを歩いていた佐藤悠太は、スマートフォンの画面を見て満足そうに笑った。


「お、さっき出品した商品、もう5千円で売れたわ。今日は俺が飯奢ってやるよ」


隣を歩く友人は感心したようにため息をついた。


「すげーな。そんなにすぐ売れるものなのか?」


「まあな。バイトなんて時給高くても1500円くらいじゃん? でもこのアプリなら、ちょっと出品するだけでそれくらい余裕で稼げるし。マジでタイパいいし、売れたらすぐ金入るのもデカいしな」


二人は大学近くの定食屋に入った。友人はメニューを開きながら、少し心配そうな顔で佐藤を見る。


「でもお前、最近派手に使いすぎじゃね? そんなに使ってヤバくね?」


「気にすんなって。減ったらまた買い戻せばいいんだよ」


「買い戻すって、最近レートが上がってるらしいじゃん。売ったときより買い戻しの方がたぶん高いぞ」


「ああ、そのあたりは心配いらねぇよ。うちのじいちゃんめっちゃ金持ちでさ、毎月かなり小遣いもらってるんだわ。その金でいつでも買い戻せるからさ」


食事を終え、会計のレジで佐藤はスマートフォンを取り出し、フリマアプリ『エムペイ』の画面を開いて決済した。画面を覗き込んだ友人が吹き出す。


「ぷっ、佐藤お前、そのID名『sugar0401』って、個人情報と誕生日が筒抜けだぞ」


「うるせえな、面倒だからずっとこれなんだよ」


店を出た二人は繁華街を歩き、佐藤はショーウィンドーに飾られた限定品の時計に目を留めた。そしてスマホの画面を確認し、舌打ちをする。


「うわ、この時計欲しかったやつじゃん…アプリの残高が足りねーわ。すぐに現金がほしいから、相場より安く出品すればすぐ買い手がつくか。本来ならもっと相場高けーけど、面倒だから『1000エム』の出品を2万円でいいや」


佐藤は慣れた手つきでスマートフォンの画面をタップし、アプリに数値をチャージして出品を完了させた。さらに佐藤は何かを思いついたように口角を上げる。


「そうだ、いつ売れるか分かんねーけど、高額商品も出品しとくわ。『5000エム』で……最近はレートが上がってきてるから、強気の20万で出しっぱなしだな」


そう言って佐藤は『5000エム』をチャージし、出品ボタンを押した。


「よし、これで完了と。あー、なんか急に喉が渇いたな。自販機でジュース買おうぜ」


佐藤は目の前の自動販売機でジュースを選び、決済のためにエムペイを開いて、またチャージボタンを押した、その瞬間だった。


カシャン……カラカラ……。


佐藤のスマートフォンが舗道に落ち、乾いた音を立てた。佐藤は糸が切れた人形のように、その場にバタッと倒れ込んだ。


「お、おい。佐藤……?どうした?」



――



ピーポーピーポー……。


救急車のサイレンが近づき、白いストレッチャーが病院の廊下を慌ただしく運ばれていく。心電図はすでにフラットな線を引いていた。


「急に倒れたって? またか。最近、若い人が運ばれてくることが本当に増えたな」


医師の言葉に、隣を歩く看護師が沈痛な面持ちで頷く。


「ええ。外傷も病気もないのに、まるで急に電池が切れたみたいに亡くなるんです」


「ご家族に連絡を。私は次の回診に行く」


医師は亡くなった青年のベッドから背を向け、廊下へと出た。そして、すぐ隣の病室の扉を開け、中へと足を踏み入れる。そこは終末期医療の患者が暮らす病室だった。


数々の生命維持装置や点滴の管につながれ、自力で寝返りを打つことすらできない老人が、ベッドの上で横たわっていた。老人は震える指先で、スマートフォンの画面を必死に見つめている。


続いて病室に入ってきた看護師が、老人に優しく声をかけた。


「佐藤さん、点滴終わりましたよ」


老人はスマホから目を離さず、ゆっくりと口を開いた。


「おお、ありがとう……」


老人のスマホにはフリマアプリ『エムペイ』の購入画面が開かれている。


「今日は、この人から買おうかね。少し高いが、金ならいくらでもある……えーっと『sugar』、す……すがさんだね。ありがとうね、これでまたしばらく生きられる」


老人は購入ボタンをタップし、安堵の息を吐き出した。そして、ベッドの脇に立つ看護師を見上げる。


「看護師さん、この5000エムって何時間だい?」


「ちょっと待ってくださいね、スマホの計算機でっと。えーっと、5000分、割る60は……83時間くらいですね。佐藤さん、また寿命買ってるんですか? 元々は安楽死用に作られたアプリなのに、最近は若い人も売ってるみたいで、世も末ですよ」


老人は満足そうに目を細め、静かに微笑んだ。


「わしは少しでも長生きしたいから、ありがたいがのう。まぁうちは、可愛い孫に高額の小遣いを渡しとるから心配はいらんよ。悠太がこんな悲惨な切り売りをせんでいいようにな」




― 終 ―

本作を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!


もし少しでも楽しんでいただけましたら、「★」での評価や、フォロー、おすすめレビューをいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!


長編作品も執筆しておりますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです!

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