第5話:『解析と違和感』
毎日18時に公開していますが、もしかしたら数日飛ぶかもしれません
「……よし、なんとか逃げてこれたな」
御雲の片隅にある、雑居ビル2階にある「千代田陰陽相談所」。
深夜の事務所に、淡い青色に光りが浮かび上がっていた。縁は、先程回収した「式神の核」のデータをスキャンしていた。
湊はソファに座り、未だに震える手を見つめていた。
(……少しやりすぎたか)
霊言の影響で静まり返った理科室の光景が未だ、瞼の裏を焼き付ける。先程、何が起きたのかは今起きていることのように、本人が一番記憶に残っている。
「湊くん、コーヒー。砂糖多めにしてあるよ」
スキャンが終わった縁は、缶コーヒーを手渡す。さっき買ってきたのか、そのコーヒーは暑いくらい暖かかった。湊はそれを受け取り「ありがとうございます」と小さく呟く。縁もまた、「いつもなら自分で作るんだけど、切らしててね。今度、俺が入れてやる」と頭をかきながら答える。
「……それで、千代田さん、あの核の術式には何が仕込まれていたのですか」
「んー、これを見てみな」
縁が端末を操作し、ホログラムで解析結果を表示させる。そこには、紙代家特有だと思われる不思議な霊素の波長があったが、一部分だけ乱れていた。何か「ノイズ」があったような形跡だ。
「なぜ、この部分が乱れているのですか?」
「術式の部分と照らし合わせてみると、これはおそらく、紙代家が扱う式神術式の『命令系統』を内側からジャックするような、かなり悪趣味な代物だ。」
湊は疑問符を浮かべたような顔になる。
「昔、似たような事件があった。詳しくは知らないが、標準術式を乱すことのできる術式があったらしい。一度、その術式を見たことがあるのだが、それと似ている。つまり、これは律くんの修行不足やミスではない。誰かが彼を暴走するように仕向けたんだよ」
それを聞いて、湊の瞳が鋭くなる。
「特殊三大家の後継者を狙うとか、ただの妖怪の仕業じゃない」
「ああ。寮の連中にバレれば、即『国家事案』だ。情報や証拠も全て隔離され、世に出ないような案件だろう。だから、俺らが情報を取らなければ、永久にわからない事件だっただろう。ま、この件で紙代家に恩売りするためでもあるんだけどね」
縁はふざけたように笑ったが、目は全くと言っていいほど笑っていなかった。
「ところで湊くん。君、なぜあんな事をした?中等部の異変は通知やらで知ったんだろうけど、真っ先に飛び込んで……まるで、自分の家族が巻き込まれたからみたいに焦ってたじゃないか」
湊はコーヒーを一口飲み、視線を逸らした。
「……別に、何でもありません。ただ、巻き込まれていたら八雲にとって損失になると思っただけです」
「模範的な回答だねえ。ま、君がそう言うのであればそうなんだろうけど」
縁はこれ以上追求をせず、解析結果を保存した。
「……ただ、律くんの方は君を恩人として見てそうだったよ」
その言葉の通り、湊と縁が立ち去るとき律は湊に対して憧れの眼差しを向けているようだった。
「……千代田さん。この術式の主、心当たりはありますか?」
「元同僚にそれとなく聞いてみるよ。……だが、1つだけ言えることがある。これは、ただの嫌がらせではなく、大きな力が動いている気がする」
縁は、長年の経験に伴う勘と言わんばかりに目つきが鋭くなる。
窓の外側を見ると、遠くで寮のパトロール隊のサイレンが響き渡る。
穏やかな夜の裏側で、確かに何かが変わり始めていた。しかし、縁と湊はそれを知るよしもなかった。
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