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言ノ葉の陰陽師  作者: 東宮 千暁
第一章 覚醒編
2/5

第1話:『縁を繋ぐ言葉』

こちら、第1話です!

「……霊素、安定。術式展開……展開誤差規定より0.2%。よし」

 国立八雲大学、第二講義棟。

 言ノ葉 湊は、手元の「八雲端末」に表示されたシミュレーション結果を何も考えず見つめていた。周囲の学生たちが「今日はどこに行く?」と浮足立つ中、湊だけは静かに端末の画面を消す。

(大学で習う術は、機械的すぎる……)

 先代である祖父が、震える字で教えてくれたあの「霊言(たまこと)」には、計算式では証明できないほどの『重さ』があることを、湊は知っていた。

 講義を終え、夕暮れの御雲(みくも)の街へと出る。

 駅前の馴染深い店、饅頭屋の店で蒸し立ての「肉じゃが饅頭」を買い、帰路で頬張る。ホクホクとしたじゃがいもの甘みが、今日一日の疲れを解してくれる。

 ふと、大学から出された課題を端末で見ているとけたたましい警告音と共に【警報:憑依型怪異。霊的強度クラスC】という文字が警告色で示される。

(場所は……すぐそこか)

 路地裏を覗くと、すでに警察がイエローテープを張り周囲の人を現場から遠ざけていた。

 「離れてください!ここからは陰陽師の管轄です!」

 そう叫ぶ警察の奥には、一人の男が周囲の空気を歪ませながら、不気味な笑みを浮かべていた。強欲の妖怪に憑依された、逃走中の銀行強盗犯だろう。

 そこに一人の人物が現れる。

 派手なシャツの上に、くたびれた和装の羽織を羽織っている男が、パンフレットを片手に軽快な声で警察官に話しかけていた。

 「いやあ、お巡りさん。うちなら、このお祓いをサクッと終わらせこの場のケアまでさせていただきますよ?もちろん、お金はかかりますがお安くしておきます!……おっと」

 男――千代田 縁が、飛んできた霊力の弾を、紙一重でかわす。

 さらに、縁は仕返しと言わんばかりに符を投げ、正確に核を捉えた。しかし、核は少しヒビが入った程度。

 「あー、やっぱり今の俺じゃこれが限界か……。全盛期ほど、威力は出ないか。」

 縁が苦笑いした瞬間、妖怪はその隙を見逃さず巨大な霊力の塊をぶつける。

(……助けないわけにはいかないか)

 湊は、饅頭を全て口の中に入れ、静かに路地裏へ足を踏み入れる。

 大学で習った「標準術式」の構えを取る。しかし、その練り上げられた霊気は普通とは程遠い密度を纏っていた。

 「そこ、下がってください。……手伝います」

 背後からかけられた凛とした声に、縁は勢いよく振り向いた。

 「学生さんかな?悪いけどここは見学会場じゃないんだ。危ないから、離れ……」

 縁の言葉が言い切られるよりも早く、湊は流れるように術を放つ準備をする。

 懐から大学より配給された標準符を取り出し、八雲端末に読み取らせる。

 『――標準術式・破邪展開。霊素加速開始』

 端末から無機質な声を発し、符が白銀の光を帯びた。それは、大学から教えてもらった通りに放つもの。しかし、放った弾は縁と比べ物にならないほどの強さで撃ち抜く。空気を裂く一撃。

 その弾は影を撃ち、男の眼前で静止した。

 「……え、今のタイミングでいけるのかよ」

 縁が呆気に取られてる中、湊は声にならないほどの声で呟く。

 「(……還れ)」

 それは、存在への霊言。

 その刹那、男を覆っていた黒い霧は、悲鳴を上げる間もなく空気中に霧散した。

 その後、男の体から力が抜け、警察が確保に動く。湊は何事もなく、自分にしか見えない光り輝く霊言の残像を目で追い、スッと符を持っている右手を下ろした。

 「……ふう。お怪我はありませんか……千代田さん?」

 「……ああ、助かったよ。って、俺の名前、名乗ったっけ?」

 「あなたが持っているパンフレットが目に入りましたので」

 縁は、パンフレットを開き「ああ、俺の名前と顔が載ってたね」と頭を掻いて目の前の学生に目を向ける。

 「君、八雲大の子だろ?俺の記憶が確かなら、教科書(マニュアル)の102ページに書いてあるやつじゃないか?ここまでの精度のやつ初めて見たぞ」

 「……習った通りにしただけです。むしろ、速度が少し遅くなったのは気がかりですけど」

 「『通り』ね……」

 縁はにやりと口角を上げた。最後の技の違和感。術式に沿わず、まるでそのものを消滅させたかのような、妙な感覚。しかし、縁はそのことについて何も聞かず、ポケットから派手な名刺を差し出す。

 「いい腕だ、学生よ。どうだい、うちの事務所でバイトするのは。見ての通り、今の俺は出力不足でね。君のような強い助っ人が欲しいんだ。役所の安月給よりも色をつけるからさ」

 湊は少しだけ迷う仕草を見せた後、静かに頷いた。

(……ここなら生活費くらいは稼げるかも)

 「……分かりました。よろしくお願いします。」

 20分後。

 湊は、御雲の片隅にある雑居ビル二階のある千代田陰陽相談所で「湊」とだけ自己紹介した後、ソファに座っていた。

 「仕事内容は簡単だ。基本、街の小さな霊関連の困りごとの解決。下水の霊詰まりとか。今日みたいなことは稀だから安心しろ」

 縁は適当に説明を終わらすと、湊の端末に自身と事務所の連絡先を渡した。

 「じゃあ、今日は解散。明日からよろしくな、湊くん」

 湊が事務所を去った後、縁はデスクに脚を投げ出し、昔の知人からのメッセージを確認していた。

『陰陽寮の人間が動いている。理由は例の「言ノ葉」の後継者が御雲にいるという噂だ。見かけたら連絡してくれ』

 縁は湊がいたソファを見つめ、お酒を一口飲んだ。

 「……言ノ葉、ねえ。あんなやつが、あの伝説の家系なわけないか」

 縁はまだ知らない。

 今日出会った学生が、「世界の言葉」を脳に刻んでいる、その本人であることを。

読んでくださりありがとうございました!

是非、ブックマークなどよろしくお願いします!

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