第15話:『三家会合』
遅くなって大変申し訳ございませんでしたm(_ _)m
予定が色々重なっていたのでなかなか投稿できませんでした!
本日第15話ぜひ見てください!
「……ちょっと待て、湊くん。待て待て、落ち着け。俺の脳が処理落ちして煙吹いてるぞ」
天道家本邸の、磨き抜かれた長い廊下。縁は、膝を笑わせながら湊の背中を必死に追いかけていた。
「言ノ葉の……次期当主? あの、昔歴史の教科書の最初の方に少し出てきた、伝説の一家か? 嘘だろ。君、昨日まで『肉じゃが饅頭』食べて、台所の掃除して、俺に『コーヒーぬるい』とか文句言ってただろ!」
「千代田さん、廊下で騒ぐのは無作法ですよ。それに声が大きいです。もう少し落ち着いてください」
湊は前を向いたまま、歩幅を変えずにしれっと答える。
「法事だと申し上げたはずです。……家系の法事ですから。それに、饅頭が美味しいことと家系の名前は無関係です」
「そんなスケールのデカい法事があるか! ああもう……だからあんな出鱈目な術が使えたのか……。バイト代、今の十倍払わなきゃバチが当たるぞこれ。予算組み直しだな」
縁が頭を抱えていると、案内役の門下生が巨大な襖の前で足を止め、静かに左右へ引いた。
重厚な襖が開かれる。そこは百畳はあろうかという大広間で、奥の上座には二人の人物が鎮座していた。
一人は、厳しい表情でこちらを見据える天道家当主、景光。
もう一人は、湊が救った律の父親であり、紙代家の現当主、紙代 宗介。
そして、景光のすぐ傍らで、退屈そうに指先で星図をいじっている女性がいた。
天道家の長女、天道 紗良。
彼女は景光の妹であり、天道家が誇る「星読み」の若き才媛だ。紗良は入ってきた湊の姿を認めると、その唇に意地の悪い笑みを浮かべた。
「……随分と待たせてくれたわね。隠れん坊はもう飽きたのかしら、湊?」
紗良が鈴の鳴るような、しかし棘のある声で告げる。
「星の巡りでは、あと三分早く到着するはずだったのだけれど。……隣の『野良猫』さんが、不様に足を止めたのかしら?」
「おっと……これは手厳しい。天道の『狂いなき観測者』に睨まれるとは光栄だね。お望みなら、次はもっと格好いい転び方でも披露しようか?」
縁が皮肉交じりに応じ、湊の後ろに控える。二人の間には、初対面なはずなのに以前からの「犬猿の仲」を思わせる火花が散っていた。
「相変わらず口だけは達者ね、千代田だったか?……湊、あなたもよ。大学で普通のフリをして単位を取るのに忙しかった? 私が送った観測データへの返信も寄こさないで」
「……紗良。あれは計算式が細かすぎて読む気が起きなかっただけだ。それに、今は会合の場だろう」
湊が淡々と返すと、紗良は立ち上がり、湊の目の前まで歩み寄った。
「冷たいわね。三年前、あなたがまだ自分の力に戸惑っていた時に、その標準術式への偽装をアドバイスしてあげたのは誰だと思っているの?」
その言葉に、後ろで聞いていた縁の目が見開かれた。
「……待て。湊くん、君、天道の妹さんと知り合い……いや、幼馴染みたいなものなのか?」
「……腐れ縁ですよ。彼女が僕の家を見つけ出したんです」
「幼馴染、なんて生易しいものじゃないわ。私はただ、絶滅寸前の珍しい生き物を観察するのが趣味なだけ」
紗良は湊の胸元に手を伸ばし、新しく結ばれた白銀の組紐を指先で弾いた。
「でも、ようやくその紐を結ぶ気になったのね。……兄上が予測した『最悪の未来』を、その霊言で書き換える覚悟ができた、ということでいいのかしら?」
「湊、よく来た。……そして、ご隠居様も」
景光の重厚な声が、二人の会話を遮った。
湊の背後には、いつの間にか音もなく現れた湊の祖父が立っていた。声を失った先代当主は、湊の肩にそっと手を置く。その沈黙は、誰よりも雄弁に湊が言ノ葉の主であることを肯定していた。
「……さて、三家が揃った」
景光の視線が、紙代宗介へ向く。宗介は深く頭を下げた。
「……湊殿。我が息子、律を救っていただいたこと、紙代家を代表して感謝いたす。言ノ葉家が、これほどの『刃』を育てていたこと……八雲の救いとなろう」
「……頭を上げてください。僕は、自分の知る日常が壊されるのが嫌だっただけです」
「日常、ね」
紗良が湊の隣で、耳打ちするように囁いた。
「あんな歪な影たちを目の当たりにして、まだそんなことが言えるのかしら。……湊、あなたの本当の戦いは、ここからよ」
景光が重々しく口を開き、背後の巨大な水晶球に手をかざした。
「……雑談はここまでだ。……我ら天道が観測した、今回の『影』の正体……。それを今、白日の下にさらそう」
水晶球がどす黒い光を放ち始め、そこに映し出されたのは、八雲の国の外側。虫が食い荒らしたように広がっている、巨大な霊素の空洞だった。その空洞は底が見えないくらい深いのか、はたまた霊素のせいで見えないのか。
「これは……八雲の結界の外側……?」
謎に包まれた八雲の外側を見たとき縁の声が、初めて震えた。
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