第14話:『晴天の集い』
さすがに毎日投稿するのはキツイので、土日は避けて投稿します!もしかしたら、不定期で平日のどこかに投稿しない日ができるかもしれません。
「――はい、こちら公欠届。受理されましたので、控えを失くさないようにね」
国立八雲大学、学務課の窓口。
湊は、事務員に受領印を押された書類を、すぐさま鞄に仕舞い込んだ。
「言ノ葉くん、家庭の事情ってなってるけど……大丈夫? 最近、顔色も少し優れないみたいだし。何かあったら学生相談室も使ってね。少しは助けになれるかもだから」
「いえ、私用のようなものですから。お気遣いありがとうございます」
湊は丁寧にお辞儀をして、窓口を離れた。大学のシステムを利用して、自ら非日常へと足を運ぶ。これは彼にとって集まりのための少しした気合いを入れたものだった。
キャンパスの正門前には、周囲の高級車の中で一台だけ浮いている、くたびれた古い車が停まっていた。
「おーい、湊くん! こっちこっち!」
運転席から身を乗り出し、派手に手を振る縁。その姿は、これから八雲の中枢を担うような組織へ向かう重々しさを微塵も感じさせない。
「……千代田さん、目立ちますよ。それ、大学の正門前なんですから」
助手席に乗り込みながら、湊は顔を伏せるようにシートに沈んだ。
「いいじゃん。今日はお偉いさんの集まりなんだからさ、景気良く行こうぜ。ほら、コーヒー。景気付けだ」
渡された縁がいれたであろうコーヒーは、少しぬるかった。縁は軽快にアクセルを踏み、車を滑らせる。
「しかし、三大家の緊急招集なんて、俺も現役時代以来だよ。しかも今回は協力者枠で民間人まで呼ばれるなんて。……湊くん、緊張してるか?」
「……別に。コーヒーがぬるいこと以外は、特に不満はありません」
「ははっ、相変わらず可愛げのない学生さんだ。いいかい、三大家の集まりってのは、狸と狐の化かし合いみたいなもんなんだ。俺みたいな民間は、隅っこで出された高いお茶でも啜ってればいい。君も俺の優秀な助手として、後ろで大人しくしてりゃ終わるからさ」
「……だといいんですけどね」
「弱気だなあ。君、あんなに強い標準術式が使えるんだろ? 自信持てよ。俺の推薦があれば、天道家の門下生にスカウトされるかもよ?」
「結構です」
湊は窓の外を流れる景色を見つめながら、ポケットの中にある、祖父から届いた古い和紙の感触を確かめた。
車は御雲の街を抜け、深い山の手にある天道家の広大な敷地へと入っていく。
一キロ近く続く白壁の塀を横目に、重厚な朱塗りの門をくぐる。その瞬間、空気が変わった。外界の喧騒が遮断され、肌を刺すような清浄な霊素が車内まで満ちてくる。
「……うわあ、相変わらずえげつない結界だ。これだけで寮の予算が数年分飛んでるぜ」
縁が冗談めかして言うが、その視線は鋭く周囲を警戒していた。門を抜けてから邸宅までの道筋には、等間隔に天道家の門下生たちが配置されている。彼らは一様に、通り過ぎる縁の車を、彫像のような冷徹な目で見つめていた。
「湊くん。ここからは余計なこと喋るなよ。あいつら、耳がいいからな」
「……分かってます」
やがて車は、国宝級の建築物と言っても過言ではない天道家本邸の車寄せに停まった。
そこには、すでに数人の高位門下生が整列し、車を囲んで異様な静寂が辺りを支配していた。
「……おいおい、なんか今日は歓迎ムードが凄まじいな。寮の幹部でも来るのか?」
縁が緊張感を紛らわすかのように鼻歌を歌いながら、ドアを開けて外に出る。湊もそれに続き、軽く背筋を伸ばした。
すると、待機していた天道家の面々が一斉に、軍隊のような精密さで姿勢を正した。
「――お待ちしておりました」
最前列にいた年配の執事が、深く、地面に届くほど頭を下げる。
「よしよし、苦しゅうないよ。千代田陰陽相談所、約束通り参上したぜ」
縁が気さくに手を挙げ、懐から名刺を取り出そうとした、その瞬間。
「……言ノ葉家、次期当主・湊様。ご到着にございます!」
執事の凛とした声が、庭園の空気を切り裂いた。
瞬間、並んでいた門下生たちが一斉に膝をつき、湊に対して最高敬礼の形を取る。その動作に迷いはなく、ただ圧倒的な敬意だけがそこにあった。
「…………え?」
縁の手が、空中で止まった。名刺を差し出そうとした姿勢のまま、石像のように固まる。
彼は首をぎぎぎ、と錆びた機械のような音を立てて、隣に立ついつものバイト君へと目を向けた。
「……湊くん? 今、なんて……言ノ葉、家……? 次期……え、何?」
「……千代田さん」
湊は、凍りついた縁の視線を受け流すように、静かに一歩前へ出た。その所作には、先代から叩き込まれた貴種としての気品が、隠しようもなく溢れ出している。
「初めて伺うとは言いましたが、『客』としてだとは言っていませんよ」
「はあああああ!?!?!?」
縁の、魂の底からの絶叫が、天道家の厳かな庭園に響き渡った。
湊はしれっとした顔のまま、預かっていた白銀の組紐を、制服の襟元へ静かに結び直した。それは言ノ葉家の正統なる継承者であることを示す、この場における冠や将軍がつける甲冑に等しいものだった。
その時、本邸の玄関から、一人の少年が弾かれたように飛び出してきた。
「湊先輩! やっぱり、そうだったんですね……!」
駆け寄ってきた紙代律の瞳には、尊敬と、そして自分と同じ運命を背負う者への敬意があった。
湊は、未だに口をあんぐりと開けている縁を一瞥し、小さく溜息をついた。
「……行きましょう。主人が待っています」
3人は高位の門下生に連れられ、変わった空気感の本邸へと向かう。玄関についたとき、湊と律は同時に足を1歩踏み出し、次期当主の自覚と次世代の担い手として視線を交わす。それは、言葉にならない存在感を縁は感じ取ることになった。
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