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言ノ葉の陰陽師  作者: 東宮 千暁
第一章 覚醒編
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第13話:『星の幕引き、三家の集まり』

少し遅れました!ぜひ呼んでください!

 夜の裏門に、耳を刺すような静寂が戻る。

 湊は一歩も引かず、肺の奥から絞り出すように心の中で霊言を紡ぎ続けていた。

(……『砕け』)

 掌を向けた先、偽の寮員たちが纏っていた「不完全な霊言」であろう霧が、薄氷のように脆く弾け飛ぶ。

 術式の根幹を直接破壊された影たちは、悲鳴を上げる間もなく泥となって床に沈んだ。術の残滓(ざんし)(すす)のように舞い、湊の冷徹な横顔を掠めていく。

「……バカな。標準術式で、これほどまでの干渉を……!?」

 晴景(はるかげ)が驚愕に目を見開く。彼は相当な陰陽師であるが、湊もまた今までの経験によって実力をつけてきた。標準術式と偽ることを。その隙を逃さず、縁が八雲端末から雷光の鎖を引き絞り、晴景の自由を奪った。

「チェックメイトだ、晴景さん。……さて、聞かせてもらおうか。君に協力させているその()ってのは、一体どこの誰だ?」

 縁の鋭い問いかけに、晴景の顔が絶望に歪む。

「……あの方は、八雲の()にいる。言ノ葉の真実を暴き、三大家の偽りを……」

 晴景が核心を口にしようとしたその時、彼の足元の影が、意志を持つ獣のように跳ね上がった。

「なっ……!?」

「晴景さん、離れろ!」

 縁の叫びも虚しく、ドス黒い影が晴景の全身を瞬時に飲み込んでいく。口封じ。主と呼ばれた存在による、冷徹な処置だった。

 晴景は言葉にならない声を上げ、そのまま地下の闇へと引きずり込まれ、気配ごと消滅した。

 静寂が戻った講堂。後に残されたのは、ひび割れた床と、ひどく重苦しい空気だけだった。

 湊は、自分の掌をじっと見つめる。結局、父を殺した()の手がかりは、再び闇の中へ消えてしまった。

「……湊くん。これ以上は、俺たちだけじゃ追えない領域だ。一度引くぞ」

 縁が静かに、しかし苦々しいトーンで告げた。

 湊は黙って頷き、上着を羽織り直した。

 一方、その光景を近くの建物の最上階、観測窓の影から見守る者がいた。

 天道家の現当主――天道 景光(かげみつ)

「……兄上。最後まで、星の巡りを読み違えましたね」

景光は、その場で立ち尽くす湊の背中を、全てを見透かしたような眼差しで見つめていた。その手には、八雲の歴史を記した古びた巻物がある。

「言ノ葉の()()。かつてこの地を統べたその言葉、まさかこれほど若い世代に受け継がれていたとは……。(あいつら)が必死に探すわけだ」

 景光は静かに窓から離れると、傍らに控える門下生に短く命じた。

「筆を用意しろ。……これより、紙代家、そして言ノ葉家へ、招集の書状を送る。もはや、隠し通せる刻限は過ぎた」

 翌朝。御雲の街に、冷ややかな冬の朝陽が差し込む。

湊は大学へ行く前に、一度自分のアパートへと立ち寄っていた。

 郵便受けを確認すると、そこには一通の、ひどく時代錯誤な和紙の封筒が差し込まれていた。

 差出人の名はなく、ただ湊の祖父――言ノ葉家の先代当主の花押だけが記されている。

(……じいちゃん。僕がここにいること、やっぱり気づいてたんだな)

 部屋に入り、封を解く。そこには、震える筆跡ながらも力強い、祖父からの言葉が綴られていた。

『湊。お前がその力を使い、影と対峙したことは聞き及んでいる。

 天道家の景光殿より、特殊三大家の緊急会合の報せが届いた。本来、声を失った私が行くべきだが、天道殿は()()()()の出席を強く求めておられる。お前の普通の大学生活を壊すのは忍びないが、これは言ノ葉の過去と、お前の父の事件に決着をつける好機だ。天道家本邸にて、お前を待つ。』

 湊は手紙を読み終え、深い溜息をついた。

 祖父は、湊が何を考え、何に(いきどお)っているのかを全て見抜いた上で、この引導を渡したのだ。

その足で事務所へ向かうと、縁がデスクで一枚の通知書を眺めていた。

「おはよう、湊くん。……朝から変な知らせが届いてね。天道家が、三大家を正式に招集したらしい。紙代の律くんにも、当然話は行ってるだろうな」

 縁は湊の顔をじっと見つめる。

「……今回の件、天道家は俺たちにも()()()として同席を求めてる。君、どうする? 嫌なら断ってもいいんだが」

 縁はまだ、湊がその「三大家の一角」として呼ばれているとは夢にも思っていない。ただ、湊の実力を認めているからこそ、隣に置いておきたいという顔をしていた。

 湊はポケットの中の、祖父からの手紙に触れる。

 平穏な大学生としての日常。それを守るために隠してきた力が、今、最大の舞台へと自分を押し上げようとしていた。

「……行きます。僕も、確かめたいことがありますから」

「そうか。じゃあ、精一杯の礼装でも用意しなきゃな。三大家の集まりなんて、俺も初めて伺う。」

 湊は窓の外、高くそびえる天道家の観測塔を見上げた。

 隠蔽の幕が下り、真実が白日の下にさらされる時が、すぐそこまで来ていた。

 それを感じながら、湊は大学の講義の後招集への準備をするのであった。

本日も読んでくださりありがとうございました!

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