第9話:『影の偽装』
本日分の投稿です!
御雲の夜を、縁が運転する車で切り裂く。
「……発信元の特定終わった。中等部の旧校舎裏にある、寮直属の待機所だそうだ」
縁はハンドルを握りながら、普段の軽薄さを微塵も感じさせない冷徹な声で話した。
助手席には、八雲端末を睨みつけて縁との会話を始める。
「……千代田さん。さっき律くんが話してたことが気になります。影が笑っているって」
「ああ、しかも寮の隊員なら、入隊する前に精神鑑定などパスしている。隊員に意思のある影の怪異が纏われているなんて、あり得ないはずなんだがな。……つまり、外見をコピーした何かだ」
待機所に到着した二人は、不自然な静寂を目にする。
さらに、寮の紋章のような模様が入った複数の車両も目に入る。湊が車を降りた瞬間、肌に刺すような冷たい霊気が身体を覆う。
「(……あのときと同じだ)」
父を失った夜に感じたような、世界が腐敗していくような独特な澱み。
「湊くん。ここから歯を食いしばっていくぞ。油断するな」
縁が古い端末に符を滑らすと、彼の背後に巨大な術式の円環が浮かび上がってきた。昔の強さの片鱗。
二人が待機場へと続く階段を降りる。するとそこには、数人の寮の制服を着た男たちが床に倒れ込んでいた。
「……あ、あ……」
律の周囲には、無惨に引きちぎられた式神の残骸が散らばっている。
湊たちの前にいる男たちが一斉に振り返る。見た目は寮の隊員そのものだが、目には生気がなく足元には影に意思を持ったような生き物が蠢いていた。
「……待て。それ以上その子に触れるな」
湊は静かに、しかし地響きのような威圧感で律を抱えている影に言い放った。
「ほう……見た目は大学生みたいだが、その威圧はただの学生ではないな」
中央に立つ男が、不気味に口角を吊り上げた。
その声は複数人で話しているかのような不協和音を感じた。
「紙代の血は、我らの目的のために必要だ。邪魔をするなら貴様らの霊素も喰らってやる」
男たちが一斉に符を構える。だが、それは単なる術式ではない。標準術式とは異なる光を帯びている。
どす黒い、粘り気のある矢が、湊と縁を襲う。
「湊くん、前は任せる!影の根本が本体だ!」
「了解!」
湊は、懐から数枚の符を取り出した。だが、その符のは何も刻まれておらず自分の術式の見せかけのためだ。
彼は黒い矢を紙一重でかわし続けながら、右手の指先で符を弾こうとした。
(この影は一体何でできている……不完全な霊言を感じるが……)
湊は喉の奥を震わせ、今度は明確な意思をもって言葉を紡ごうとした。
しかしその時、影の男たちの背後から怪異ではない人間の気配がした。さらに、上着の袖には見覚えのある紋章が刻み込まれていた。
「……!?あれは……」
それは、湊でもよく知っている八雲の中枢を現在でも担っている特殊三大家、天道家に酷似していたのだった。
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