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プロローグ

 佐藤成翔(さとうなりと)は、いつも窓の外を眺めていた。

 授業中も、休み時間も、放課後も。教室の最後列の席で、ぼんやりと空を見上げている。

 話しかけても、まともに返事が返ってこない。いつも上の空で、この世界にいないような男。

 有り体に言えば、他人に関心がない。

 生徒同士の交流が活発な高校という空間の中で、そんな成翔は——気味悪がられていた。


   × × ×


「その役は佐藤君が適任だと思います!」


 蝉の大合唱が響く蒸し暑い夏の教室。

 一ヶ月後の文化祭で行われるクラス演劇の話し合いの最中、一人の男子生徒が声を上げた。


「佐藤君って……佐藤成翔くん?」


 男子生徒——荒井昌俊(あらいまさとし)の提案に、担任教師の道枝希(みちえだのぞみ)は困惑した目つきを返す。


「佐藤君なら顔もカッコいいし、きっと上手くやってくれると思います!」


 昌俊の言葉には、どこか悪意が滲んでいた。周囲の生徒もニヤニヤと彼に視線を集めている。

 一方、名前を出された成翔は、全くもってどうでもいいといった様子で、いつものようにボーッと窓の外を眺めていた。


「で、でも……」


 成翔は整った顔立ちをしている。キリッとした眉に高く通った鼻筋、AIが配置したのかと思うほど完璧な顔のパーツ。ルックスとしては申し分ない。

 

 ただ、問題はその役柄であった。

 演目『白雪姫』——主人公、白雪姫の役。

 昌俊は綺麗なお姫様役に、男である成翔を推薦しているのだ。


「佐藤君は男の子だし、白雪姫役は女の子がやった方が……」

「多数決! 白雪姫役は佐藤君がいいと思う人!」


 道枝の言葉を掻き消すように、昌俊はクラスメイトに多数決を募った。

 彼の取り巻きの男子が率先して手を上げ、面白がる女子、手を挙げなきゃ嫌がらせをされるのではと怯える生徒……やがてほとんどの生徒が手を高く上げていた。


「決定! 白雪姫役は、佐藤君で!」


 教室内を拍手が飛び交う。


「佐藤君は……それでいいの?」


 生徒の圧に押された道枝は、恐る恐る成翔に尋ねる。

 窓の外に固定されていた成翔の視線が、ようやく動いた。


「……別に」


 全てどうでもいい。

 そんな声音だった。

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