表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

vs chatGPT

公開婚約破棄されたけど、無自覚チート地味男子に溺愛されて人生バラ色です♡

作者: 水城現
掲載日:2025/10/10

「エレナ・リヴィエール。お前との婚約を破棄する」


 私の世界は、王子のたった一言で壊れていった。

 外国の言葉を聞いてるような気分。スーッと心臓の奥が冷えて、こめかみが熱くなる。

 は? なに言ってんの、このクソ王子!


「……王子。おっしゃる意味が、よくわかりません」


 怒らないように声を必死で抑えたけど、だめだった。ギャルは沸点が低いのだ。ブルブル、バイブレーダーみたいに体が震えてる。

 王子はいかにも「俺が正義」みたいな顔で顎を突き出し、横柄に言った。


「お前がリリアにした非礼の数々、その悪行を見過ごすことはできん」


 うわ、完全に私を悪者にして、酔ってんじゃん。

 思わず現実逃避したくて窓を見た。

 空がかすかに(かげ)り始めた夕暮れ時。

 サンクレール魔法学園の抱える管弦楽団が奏でるハーモニーが、薔薇の庭園を美しく彩っている。

 ワルツを踊っていた生徒たちが、次々に私たちをふり返る。気遣うようでいて、遠巻きにうっすら騒ぎを喜んでる、好奇心に満ちた野次馬の目だ。


 ――やめろ、見るな。みじめになる。


 王子の嘲笑もあいまって、突き刺さる視線が痛い。

 王子の隣には、最近王子にまとわりついていた平民のリリアがいた。くりっとした栗色の瞳に涙をためて、その奥で光る、肉食獣めいた視線が気に入らない。

 は? くそ、こっち前世ギャルだっつの。負けるか。


「証拠はあるのですか? 私がそのリリアなる少女を(おとし)めた証拠が」


 あるわけない。話したことすらないのに被害妄想ヤバすぎ!

 そんなに私、性悪っぽい?! ……ちょっとは信じてよ。

 王子は私の口答えが気に入らなかったらしく、目を見開いて怒鳴ってきた。


「なんだ、その口の利き方は! 王族に対し不敬だぞ、エレナ! 爵位まで取り上げられたいか!」


 つらつら並べられる身に覚えのないリリアちゃん可哀想エピ。要するに「好みの女が現れたから乗り換えた」ってだけのことだ。

 たったそれだけのことで、転生後のがんばりは全部パア。長すぎるドレスの裾のさばき方から、無駄に高い紅茶のおいしい淹れ方、笑顔の角度まで矯正されたのに――

 う、泣きそ。ウケる……。

 無理にでも笑ってないと、身がもたない気がした。

 あー、私がもっと強い人間だったら、あんなやつら蹴散らせるのになぁ。くやしぃっ! 普通にくやしい!

 だれもいなくなった薔薇園のベンチに、ひとり座り込む。

 悔しくて背中を丸めた。

 ふいに声が降ってくる。


「やあ、ミス=エレナ。殿下にフラレたそうだね。おめでとう」


 膝に顔をうずめたまま、聞かないふり。

 いま、心がすさんでるんだから普通に消えてほしぃ……。

 さすがの私もポジティブに変換するには、事件がデカすぎた……。

 学祭は台なし、お父さまの抗議も空振り。もう人生お先真っ暗。


「ふむ。きみは砂糖菓子とせんべいならどっち派だい? ぼくは断然せんべい派だ。あの香ばしい醤油が癖になる。じつに美味」


 この国に醤油なんかねーっつの!

 声の主は、魔法学園で隣の席にいるルカだ。

 学園でぶっちぎりの最下位、魔力ゼロの平民。

 普通なら声すらかけてこないのに、ルカはすっごくどうでもいい話題を遠慮なくふってくる。

 顔をあげると、紙袋を抱えた黒髪黒目の少年が立っていた。

 え、まじでそれ、せんべいなの? うそでしょ?


「ルカ、ごめんなさい……。いまはひとりになりたいの」

「まあ待ちたまえレディ。せっかくお邪魔虫が消えたんだ。ぜひ、ぼくの婚約者になってくれないか」

「意味わかんないし、やだ……」

「おや、つれないね。本音を聞けてなによりだよ」


 ルカはいつも通り無表情だ。この変な同級生を馬鹿にしたくないけど、結婚相手として釣り合ってるのは年齢だけ。

 って、なんでこんなこと考えたんだろう。


「よしよし、よくがんばったね。ほら、ぼくの胸でお泣き」

「うぁー……、ムカつくぅっ……」


 いつのまにか抱きしめられてて、涙がまたじわりと浮かんできた。私の背中をなでる手が温かい。腹いせにルカの胸板をバシバシ叩く。華奢と思っていたけど意外に硬くて分厚い。「あ、鼻水は勘弁してくれ」とか言ってきたから遠慮なくべったりつけてやった。

 アハハッ、困ってんのウケる!


「やれやれ……もう立ち直ってしまったのか。きみの悲哀は貴重な味なんだが。肝が据わりすぎているね」

「さっきからなに言ってるの、ルカ?」


 私が尋ねると、ルカがめずらしくちょっとだけ笑ってみせた。

 一瞬、ためらうみたいにその唇が動く。


「ぼくは、人間の負の感情を食べるのさ」

「……ひ、比喩じゃなくて?」

「うむ」


 変な告白だ。なんて返したらいいのかわからない。

 新手のボケ? っぽいけど、どうしろと?

 ルカがかまわず言ってくる。


「ちなみにきみはせんべい味だよ。じつに好みだ」


 ……へ? 味?

 聞き返そうとした私のまえで、ルカの瞳が紫に光った。

 私が息を呑む間に、ルカの指先が涙をなぞって、赤い舌でペロリと舐め上げる。

 ゾクッと肝が冷えた。

 え、ルカってこんなキャラだっけ? 魔力ゼロの、面白癒し変人枠じゃ……、え?


「ルカ……?」

「ああ、すまない。ちょっと興奮してしまってね。やっぱり好きな子を抱きしめたからかね?」

「その冗談、もういいって」


 愛想笑いしてたら、ルカがじっと見つめてきた。

 う、視線の圧がすごい。


「冗談? 心外だな」


 手を取られたとき、顎をつかまれていた。ちょっと、て怒ろうとしたけどルカが目の前にいて心臓が跳ねる。間近で見ると、案外、綺麗な男の子だ。

 唇に柔らかいものが当たってる。数秒。なにが起きたのかわからなくて、まばたきした。

 ……ん?


「ちょ、バッ!」

「すこしは信じてくれたかい?」


 唇に手を当てて、ハクハク息をする。心臓の音がうるさい。

 こっちを見つめて余裕そうに笑ってるルカは、不覚にもカッコいい。

 く……、くそ、イケメンだったのか、ルカ……。面白癒し変人枠のくせに!

 なんだか負けた気がして、真っ赤になった顔を背けた。


「む、きみ。いまときめいたね?」

「ときめいてない!」

莫迦(バカ)な。この気配はときめいたはずだ」

「ときめいてない!」


 横目で見たら、ルカがえへんと胸を張っていた。

 あ、いつもの変人さんだ!


「むっ! いかん。きみ、もうときめきが消えたのか。ややこしすぎだろう」

「えっ、ちょ、ま? まじで心読めんの?」

「『読める』んじゃない。『わかる』のさ」


 ルカが形のいい唇に人差し指を当てて、内緒話でもするように言ってくる。

 ……えっと、ほんとにただの冗談だよね?

 私の戸惑いを知ってか知らずでか。ルカが左目を細めた。


「だからたとえば、人間の『悪意』もぼくの食糧だ。……砂糖菓子はあまり好みじゃないけれどね」


 ルカは大げさにため息を吐く。

 なんかわかんないけど、せんべい=私ってことは、砂糖菓子って違う子のこと? ……へ、へー。べつに? 気にしてないけど? 婚約者になってとか言ったあとすぐに浮気?

 さすがに二度目の最速RTAは許せないんだけど。


「待ちたまえ、レディ。短気はいかんよ。ぼくへの気持ちの盛り上がり方だけはじつにグッドだ。石を置きたまえ」

「やだ」

「……つまりだね、やり返してやろうというのさ。きみを貶めた殿下殿に」

「殿下にやり返す!?」


 なにそれ詳しく!

 拾い上げた石ころを置いて、思わず身を乗り出した。

 ルカが私の手を引いて、トン……と静かに石畳を爪先で叩く。


「ついてきたまえ」


 遅れて聞こえたきた言葉。ふわりと体が浮いて、風が優しく頬に触れた。魔力なんて微塵も感じないのに、私たちはいつの間にか、王宮の中に立っていた。

 景色が直線的に流れたのは気の所為じゃなかった。

 王子の寝室。リリアと取り巻きたちが王子の周りを囲んでいる。

 えっ!? うそっ! いまのなに!?


「静かに」


 言われて息を呑む。天井の梁にいる私たちのところに、真下の醜悪な会話が聞こえてくる。


「意外とあっけなかったですね、リヴィエール嬢」

「当然だ。この俺やリリアをコケにした報いは、かならず受けさせねばならん」

「ハハッ、たしかに。貴族なら魔法学園の首席の座なんて、殿下以外にふさわくないと察してしかるべきです! それをあの女は、愚かすぎますよね!」


 馬鹿笑いが王子の寝室にけたたましく響く。

 ……くっ、このっ! 王子が一位になんて、いったいどれだけの人間を自粛させる気よ!

 唇を噛んだ私の耳に、すさまじい物音が重なった。 

 視界が歪んだんだろうか。風がよぎったと思ったら、王子と取り巻きたちが部屋の壁に張り付いていた。――ルカだ。彼はだれの目にも留まらぬ速さで、まわりの人間を軒並み蹴り倒していた。


「……うむ。やはり男は拳だね」

「蹴ってなかった?!」

「む!」


 ルカが寝室の中央で手についた埃を払いながら、「それはそう」って顔で私を見上げて、うなずいてくる。……その呑気ムーブ、いまやるんだ……。

 王子たちはぴくりとも動かない。完全に気絶していた。

 残されたリリアが、ルカに顔を向けられて、ヒッと息を呑んでいる。

 そりゃ怖い。だって動き人外なんだもん。どう見ても。


「ぼくは意外にグルメでね。きみたちの悪意を根こそぎ喰ってやろうと思ったが……やめた。あまりに不味そうだ」


 コツ、と高らかに靴音を響かせて、ルカは用が済んだとばかりに背を向ける。

 気づいたら、私はルカのすぐ傍に引き寄せられていた。


「きみ、名前はなんだったかな? まあいいか。殿下に気に入られたそこのきみ。――この娘はぼくがもらい受ける。ヘタな横槍は身を滅ぼすと、アンポンタンどもに伝えておいてくれたまえ」

「な、なっ……!」

「無論、わからないなら武力で解決しよう。王国との盟約も、そろそろ切れるころだしね」


 ルカはどこまでも電波発言していた……。のに、なぜか対峙してるリリアの顔は真っ白になっていって、無心で何度もうなずいている。

 なにやったの?

 私が覗き込んでも、ルカはいつも通りにしか見えない。

 気がついたら、私たちは薔薇園に戻っていた。


「では、これからもよろしく頼むよ。ミス=エレナ。……いや、人間の言葉で言えば、妻となるのかな? マイせんべい」


 懐いた猫みたいに私の頭に頬ずりしてきて、ギャーギャー言いながら振り払う。

 ルカは相変わらず無表情だ。だけどなんだか、鼻歌でも歌いそうに見えた。


「この私がせんべい扱いなんて、普通にあり得ないんですけど!」

「ぼくはせんべい求めて三百年さまよった」

「告白としてあ・り・得・な・い!」

「……ふーむ。感情は流れているのに、不思議だね」


 呑気に言いながら、後ろから抱きしめられる。

 地位も名誉も魔力もないくせに、こいつがいるとちょっとだけ生きるのが楽になる。


「せんべい味の女で悪かったわね」

「この世で唯一のお気に入りさ、僕にとってはね」


 風が吹いた。薔薇園の花びらが舞いあがって、まるで私たちを祝福してるみたい。

 学園一の変なやつは王国で爪弾きにされるはずの私に、いつまでも寄り添ってくれた。

 だからちょっとだけ、認めたげる。せんべい味の未来も、悪くないって。

 いや、ワンチャン、ね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
マイせんべい←最高っ( *゜∀゜)・∵ブハッ 面白かったデス♪ 短かった~もぅ少し読みたかったデス♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ