大っ嫌いだったあの宮廷魔術師と結婚することになりましたが意外に悪くないかも
私は今大っ嫌いな宮廷魔術師と共にに暮らしている。
彼は私がどう思っているかに気づいているのだろうか。
何でこうなった?
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私はノヴァ侯爵家の娘フィネリア=ノヴァ。
時期王妃候補の一人であり好きな人は第一王子ゼイク=ロア様。
彼はすべてにおいて完璧。そして私の理想。
いつか彼の花嫁になって見せる。
嫌いな人はこの国にたった一人の最強の宮廷魔術師にして第二王子ノクティス=エルファリア。
彼は不愛想で無口、ゼイク様とは正反対。
妾の子の癖に第二王子。
何もかもが気に食わない。
私は彼が大っ嫌いだ。
今日は国王様に呼ばれて王室へ向かっているけど何かあったのかしら。
私は王座の前に膝まずく。
隣には第二王子がいる。
少し違和感を感じる。
「侯爵家フィネリア=ノヴァと宮廷魔術師ノクティス=エルファリアの婚礼を命ずる」
国王様の口から放たれた言葉へのショックで何も考えられなくなった。
私があの第二王子と結婚?
「な、なぜでしょうか」
私は心底嫌だった。
彼からはいい噂を聞かない。
しかも基礎魔法しか使えない。
なぜ宮廷魔術師であるかどうかもわからない。
そんな奴と私が何で。
「ん?私がぴったりなカップリングだと思ったからだが」
ぴったり?
何を言っているの国王様。
あの人と私が?
有り得ない。
王は何かを察したように一言告げた。
「式は一か月後。少し暮らしてみれば分かる」
私にはその意味が分からなかった。
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私は彼と一緒の部屋で過ごすことになった。
もっとも彼と一緒にいるときは就寝時位で基本お互いの仕事をしている。
私は王女としての執務や学問、
彼は宮廷魔術師としての任務。
お互いで話すことなど滅多にない。
でも今日は少し違った。
普段は私より帰るのが遅い彼が今日は部屋にいた。
私に気が付くことなく執務机で資料を片付けている。
少しのぞき見してみることにした。
この国には五つの魔法団がある。
炎魔法使用者の集まるインフェルニス。 団長ヴァルカン=イグナス。
水魔法使用者の集まるセレネ・マリス。 団長ナイア=ヴェルミレース。
風魔法使用者の集まるエアリア。 団長エアリス=ヴェントリア。
土魔法使用者の集まるクレイフォート。 団長マルヴァ=エルドリス。
基礎魔法使用者の集まるオーディナリウス。団長ノクティス=エルファリア。
彼はオーディナリウス所属のはずだ。
しかし机の上には他の団の紋章の資料がある。
押し付けられでもしたのだろう。
私は彼の情けないところを見て更に嫌いになった。
頼りないとも思った。
そのことをメイドのマルグリットに話すと思いがけない提案をしてきた。
「明日ノクティス様のお仕事の姿を見に行きましょう」
何で?とは思ったが視察しておくのもお悪くないとも思った。
なので行くことにした。
彼はいったいどんな仕事をしているのだろう。
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次の日私は彼と一緒に境の壁の上へと向かった。
危ないからと断られそうになったが押し切った。
境の壁は魔大陸をぐるっと囲む壁のことである。
この国はその壁と隣り合わせの位置にある。
彼は一切話さなかった。
道中あまりに静かすぎたので彼に話しかけた。
すると衛兵から少し嫌な目で見られた。
その後彼に黙るよう言われた。
折角の私の好意を踏みにじって。
やっぱり私は彼が嫌いだ。
そう言えば私が境の壁の上へ行くのは初めてだ。
外には魔獣が大量にいるとは聞いている。
彼は上から一体何をするつもりだろう。
私は彼の少し後ろから見ていた。
彼が何か言った後衛兵がこちらへ来て先ほど睨んだことについて謝罪した。
彼の集中を乱さないためだそうだ。
そう言えばほかの魔法団はどこなのだろう。
私は思い切って聞いてみることにした。
「他の魔法団団長さんはどこに?」
私が聞くと衛兵は顔を濁して小さな声で言った。
「昨日の戦闘で大けがを負い今日は治療中です。ノクティス様が助けてくれなければ危ないところでした。そのまま昨日は一時撤退を余儀なくされました」
それで昨日は帰ってくるのが早かったのね。
じゃあ、あの他の魔法団の資料も団長さんの代わりに。
ノクティスにしてはやるじゃない。
そんなことを話していると彼は壁から飛び降りた。
え、と思ったと同時に私は体が勝手に動いて下の様子を見に行っていた。
壁の外を見て私は絶句した。
そこには大量という言葉では表せないような数の魔獣がいた。
私は思わず嘔吐しそうになった。
彼は着地時に大きな盾のようなものを生み出して魔獣を一瞬にして数百体屠った。
その後魔獣の群れの中へと入り次々と討伐していった。
たった五分。
それだけの時間で魔獣の群れが一掃された。
一体を除いて。
それは人型の魔獣で彼の攻撃を回避していた。
彼らは瞬きする間に動き気付いた頃には魔獣の首が飛んでいた。
壁の上に上がってきたとき彼は返り血一つ浴びていなかった。
「魔獣撃退って彼一人で充分なのでは?」
私は思わず衛兵に聞いた。
衛兵は躊躇なく言った。
「はい」
と。
それに続けてこう言った。
「魔法団には身寄りを失ったものもいます。魔法団はそんな者たちの拠り所という役割も果たしているのです。それを壊してしまうのはノクティス様の望むところではありません。だから自分は身を引き彼らにも役割を与えているのです」
私は彼の認識を少し誤っていたのかもしれない。
彼は第二王子の立場を利用して宮廷魔術師になったと思っていた。
でも違った。
彼は実力で成り上がったんだ。
少しかっこいいと思った。
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その後私は執務に戻った。
彼は壁の結界の整備をした後国王様への報告へ行くそうだ。
彼は私より遅くに部屋に帰ってきた。
すれ違うと病室の匂いがした。
お見舞いにでも行ってなのだろう。
その日は彼のことを少し理解した気がした。
それからは彼の動作をよく見るようになった。
彼の些細な気遣いに気づいた。
例えば相手がメイドであっても先に扉を通ってもらったり、
執務机を使用後いつも磨いていたり。
たまに話すこともあった。
最も執務についてだが。
でも多分以前ほど彼のことを嫌いではないと思う
そんな時マルグリットからこんな提案をされた。
「フィネリア様明日午後に空き時間がおありですよね。それならノクティス様とデートしてきたらどうでしょう」
とんでもない提案だと思ったがそれは彼の予定も考えなければならない。
「彼の予定はどうなのですか」
私が聞くとマルグリットは笑って
「実は午後からはノクティス様も予定が空いているのです」
「え?」
私が困惑していると彼女はさらに笑顔で
「行ってらっしゃいませ」
と言った。
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集合時間の三十分前に来てしまった。
彼を誘ったときは少し戸惑っていたが行くと言ってくれた。
今日は彼と一緒に貴族街を回る。
貴族街は貴族出身の商人や貴族公認の商人が開いた街のことだ。
やっぱり早く来すぎた。
そう思っていると彼が来た。
「早いな。俺のほうが先だと思っていた」
彼はいつもの隊服とは違い貴族らしい服を着ていた。
「行きましょうか」
私は少し気分が高揚している。
「行きたいところがあるがいいか」
「はい。どこに行きたいのですか」
「書店だ。最近、新しい魔術理論の本が発行されたそうだ。だからほしくて」
彼はいつも以上に話している。
いいことだ。
彼は本絵を買うと満足そうな笑顔をした。
その後今度は私に行きたいところを聞いてきた。
「特にないですね~」
ない。
執務などに没頭しすぎて趣味も好きなものもない。
「そうか。じゃあチョコレートクリームイチゴクレープを食べに行こう」
チョコレートクリームイチゴクレープ?
何それ?
そもそもクレープって・・・。
「あそこだな」
私と彼は店に入った。
おいしー!!
何これ。
パリパリしててでも中身はふわふわで。
彼が少し笑いながら私を見ている。
「何でしょうか」
「いや、おいしそうに食べるなぁと思っていた」
彼はまた笑っている。
私はクレープを食べ終わるとお店を出た。
武器屋の前を通った時彼の名前が呼ばれた。
呼んだのは炎魔法団団長ヴァルカン=イグナスだった。
「ノクティスこれどっちがいいと思う?」
ヴァルカンが聞くと彼は頭を叩いた。
「前に買っただろ」
「前のやつは壊れた。じゃあお前が選んでくれ。俺に似合うやつ」
ヴァルカンは手を合わせて彼に頼んでいる。
「わかった」
彼は店の奥に消えた。
「仲がいいんですね」
「そうだ何しろ唯一の同期だからな」
彼は少し悲しそうな顔をした。
「あいつのことよろしく頼むよ。あいつ不愛想でちょっと暗いけどいい奴なんだ」
「はい。存じています」
「俺はあんたに感謝してるんだ。最近あいつが少し柔らかくなった。俺はあんたの影響だと思っているんだが」
「私の影響なんてそんな」
「いや。十分あるよ」
彼は一呼吸おいて続けた。
「頼むよあいつのこと」
ちょうど彼が出てきた。
ヴァルカンの体のサイズにぴったり合った良い剣だ。
「さすが。分かってるね」
その後ヴァルカンと別れ王城へと戻った。
最初は彼のことが大嫌いだった。
でもこんな風に少しずつ彼を理解していけばいつかは愛し合えるのではないか。
そんな風にも思った。
あの日までは
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彼はいつも通りの時間に部屋に帰ってきた。
それ以外の全てがいつも通りじゃなかった。
いつもは隊服のまま帰ってくるところを今日はさらに重装だった。
手にはボロボロになった隊服を握りしめていた。
目は何かを睨んでいる。
いつもの頼りない彼の姿はどこにもなかった。
思わず聞いてしまった。
「何かあったのですか?」
彼は
「何もない」
と小さな声で言っただけだった。
私は直感で感じ取った。
彼は何かを隠している。
しかし彼は答えてくれそうにない。
私はマルグリットに聞いてみることにした。
炎魔法団の団長ヴァルカン=イグナスが戦死したそうだ。
殺した魔獣はまだ生きてる。
帰還した時の彼の眼は血に染まっていたそうだ。
そして私に伝言があるそうだ。
――悪い帰れないかも――。
だそうだ。
私は急いで部屋に戻った。
しかし彼はもう部屋にはいなかった。
私は王室へ向かった。
あれ?私何でこんなに必死なんだろ。
私は彼が嫌いだ。
でも今絶対に死んでほしくないと思っている。
彼について知ってそれで――。
間に合って。
王室では国王様が彼に命じ終わったところだった。
「行かないで。一人で行くなんて無謀よ」
私は息切れを我慢しながら言った。
「フィネリア。ヴァルカンは基礎魔法しか扱えない私を対等に接してくれた」
「私はヴァルカンを殺した者がのうのうと生きていることが許せない」
「私は行くよ」
彼はそういうと同時に王室内から消えた。
「国王様、なぜ許可を出したのですか」
私が怒りを露わにして聞くと国王様は静かに言った。
「お前は見ておらんだろ。奴の帰還時の顔を。あれほど温厚な子があんな顔をしたのは初めてだ。手には首のないヴァルカンの亡骸が抱えられていた。あれは私が許可を出さなくとも行っただろう」
私の頬には涙が流れていた。
なんで?
分からない。
「奴は必ず帰ってくる」
国王は確信があるかのように言った。
彼は翌日の朝境の壁の上で発見された。
手にはヴァルカンの物らしきペンダントが握られていた。
後の調査で分かったことだがこの日だけで魔大陸の魔獣の二割が討伐されたそうだ。
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彼は帰還から半日で目を覚ました。
彼は王室に呼ばれ公開の功績をたたえられ次期国王の座を与えられた。
彼は少しも嬉しそうにはしなかった。
そしてペンダントを持ってどこかへ向かった。
多分ヴァルカンの家族のところだろう。
帰ってきたときにはそのペンダントは彼の首に掛けられていた。
彼はいつも以上に暗く悲しい顔をしていた。
私はどんな言葉をかければいいかわからなくなった。
彼は執務机でひたすらに執務をこなしている。
何かしてないと気持ちがあふれ出てしまうからだろう。
彼は大事なところでいつも自分しか頼らなくなる。
私を頼ってほしい。
私はありのままを伝えるしかないと思った。
彼の首元にそっと腕を回しぎゅっと抱きしめた。
「私はあなたに何を言えばいいのか分かりません。でもあなたが今悲しいことも苦しいことも全部一人で抱え込んでいることは分かります。それを私に半分分けてください。頼ってください。泣きたいときは泣いてもいいんです。弱いところも見せていいんです」
彼は私の腕の中で泣いた。
いつもの無表情な顔をぐちゃぐちゃにして。
でも不思議なことに頼りないとは思わなかった。
その次の日ヴァルカンの葬儀が行われた。
貴族や王族の参列者は涙ぐんでいた。
しかし魔法団の団員は違った。
誰一人泣かず上を向いていた。
私は葬儀中に棺の中に入っている彼の剣が彼が選んだものとは違うことに気が付いた。
違和感を感じた。
しかしそのことを口に出すことはなく葬儀は終わった。
それからは彼は悲しい顔を見せなくなった。
心の奥にはまだ思うところもあるだろう。
それでも前進しようとしている。
それからは執務のこと以外でも話すようになりクレープのことなどを話した。
そしてあっという間に式の日が来た。
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ここは丘の上の教会。
私は今ウェディングドレスに身を包み彼の口づけを静かに待っている。
招待客には王族、貴族、彼の身内の者たくさんの方々がいる。
「では誓いの口づけを」
神父の合図とともに私は目をつぶる。
数秒後耳元で金属音が鳴り響く。
神父が彼を短剣で切り殺そうとしていたのだ。
彼は素早く神父を気絶させる。
その後静かにこう言った。
「どういうつもりですか兄様」
彼の目線の先には第一王子ゼイク=ロア様がいた。
「何を言っているんだなぜ私なんだ」
「根拠は三つ」
「一つ目はヴァルカンを殺した魔獣には理性があった。剣技は見事なものだった。その時は私も突然変異体くらいにしか思っていなかった。がその剣技は明らかにヴァルカンの剣技を模倣したようなものだった。最初からプログラムされていたかのような。私は人為的なものだと思った」
「二つ目はヴァルカンの剣が折れたこと。あいつの剣はいつも私が選んだんだ。品質、素材共に鑑定して。でもあいつが死んだとき使っていた剣はそれではなかった。製作依頼者は第一王子ゼイク=ロア。私はここで違和感を持った。なぜ二本目の剣を与えたのか」
「三つめはその理性を持った魔獣が持っていた剣の製作依頼者がヴァルカンの剣、同様第一王子ゼイク=ロアだったこと。私はここですべてがつながった。全部あなたが仕組んでいたんだろ」
ゼイク様は気味の悪い笑顔をした。
「ハハッ。そうだよ俺がやった。だが悪いのは父様だ。なぜ王位継承権を得るために努力している私よりこんな妾の子供を支持するのです。こんな魔法しか能のない男を」
「だから一度ゼロにするのです。ここには多くの上級貴族や王族が集まっている。皆殺しにして私が王になる」
ゼイク様は首に注射器を刺した。
その後彼に叫んだ。
「貴様の殺した魔獣は魔獣じゃない」
え?
「魔獣に理性を持たせることは何度も実験を行ったが不可能だった」
「ならお前が戦った魔獣はいったい何なのか」
「それは――」
「――元人間だよ」
「人間を魔獣にすることは可能だった」
「確率は低いが俺は成れるいや成る。俺の順当な王家の血を持って」
激しい爆風の中から現れたのは人型の魔獣。
全身が黒く角ばっていて舌が長い。
第一王子ゼイク=ロア様の原型はどこにもない。
彼は懐の探検に手を伸ばす。
一瞬だった。
ゼイク様は私の体をつかみ捕らえた。
彼は私を見て動かなくなった。
「動くなよこいつがどうなってもいいのか」
ゼイク様がそう言うと腕から鋭い武器を作り出した。
「お前が死ねばこいつは生かしておいてやろう」
「それだけの力を得ることができれば人質なんていらないんじゃないか」
「お前がそう言うってことはお前は俺に勝てるってことだろ」
ゼイク様はにぃと笑った
「わかった」
彼は武器を捨てた。
「私のことはいいので逃げてください」
私は必死に言った。
しかし彼は少しも動ない。
「ハハハッ。フィネリア=ノヴァ、貴様のせいで夫が死ぬぞ」
彼の頭にゼイク様の腕が振り下ろされそうになる。
「ノクティス様」
私は叫んだ。
次の瞬間。
彼はゼイク様を一瞬で失神させた。
彼は言った。
「ノヴァ?違うなもうエルファリアだ」
ゼイク様が倒れ私は解放される。
彼は私のところへ来てはっきりと言った。
「私はあなたのことが好きです。改めて私の花嫁になってくれますか」
私は何のためらいもなく言った。
「もちろん、喜んで」
私は今日大っ嫌いだった宮廷魔術師ノクティス=エルファリアと結婚する。
でも彼は本当は優しくてかっこよくて、でも弱いところもあって。
私のことを愛してくれている。
私もノクティス様のことが好きなのだろう。
この結婚、意外に悪くないのかもしれない。
そう思った。