佐藤ジョシの日記帳⑧2020年14月4日ー②
うん。当たり前だよね。
感動のあまりに直接話かけちゃったけど、よくよく考えたら、相手にとって、私はただの知らないおばさんだもんね!
そして、知らないおばさんに突然「ねぇ、あなたはテニスが上手ですね!ちょっとテニスのことを教えてくれないかなー」って……普通、断るもんね!
ああぁ……また勢いでやっちゃったわぁ。トホホー
とりあえず、帰ろっか……と、私はテニスコートを後にしようとそう決めた瞬間――
「あ、あの――」――背中からあのショタ子の声が聞こえた。
「うん?」少し疑問を感じながら、私は振り返った。
「ぼ、僕はその……たんに人を教えることがなくて、もし下手に教えたら怪我とか、更に下手になったらどうしようかなって……思っていますので。だからその――別に教えたくない、というわけではありません。」
この子の話を聞くと、私は先に思い浮かべたのは、昔ダンス部に入ってくれた一人の後輩ちゃんだった。
おどおどとしているその姿は、特にその喋り方が、何となくあの子と一瞬に重ねた。
そして、頭の中からまた一つの考えが浮かんでくる――ああ、この子はアレだな?
引っ込み思案の性格で、誰かに話しかけられたら、固まっちゃうみたいなタイプ……つまり、現代的な感じでわかりやすく言うと――
この子はコミュ障だな!
……なんという恐ろしい子!テニスがうまい上に、コミュ障の属性まであるなんて――羨ましい!
私なんて、ただのポンコツ陽キャって言われているのに……
「それで――あの……?」
「うん?ああ!ごめんごめん!ちょっと考えことをしちゃってて……でもまあ、言いたいことがわかっています。私、気にしてないよ!」
「そ、そうですか……」しょんぼり……それとも落ち込んでいるというべきだろうか。なんとなく、元気がないと感じられる。
あの後輩ちゃんもよく自分一人で悩みを抱えるタイプだし、この子もきっと……自分の悩みがあるだろう。
予測は間違っているかもしれないけど、以前の経験から、私はそう感じてる。
よって、こういう時はまず――
「……あなた、優しいですね!」――相手を褒めるべき!
「え?い、いいえ!そんなことは……ないです!」彼は頭を横に振って、照れてる感じで下を向いている。
あとは……畳みかける!
「いやいや、本当ですよ!その証拠は、知らない人の気持ちまで考えてくれてるんじゃないですか?わざわざ話しかけてくれて、これはもーう、思いやりの塊です!」
「そ、そんなのおおげさっ――」彼は否定しようと頭を上げて、何が言いたそうだが、私はその先に話を遮った。
「私が言ったのだから、間違いない!反論は許しません!」強行突破!
「う……」お、頬が完全に赤らめている!
かわいい~!
よし、最後に――
「そうだな……これを名付けるとしたら、思いやり魂ですね!あなたは思いやり魂を持っている男!」
「え?なにそれ……」
「つまり、あなたは素敵な子ってこと!」――更に褒めて!終わる!
「う、ううぅ……」彼は頭から煙でも出てきたかのように恥ずかしがっている。
この反応……ふんふん!たしか俗に言う――“堕ちたな”って。
どうよ!私なりの交渉法――自信アゲアゲ術!
この褒め褒め褒めの三段落ち、誰も抗う術がないぜ!(少なくとも今まで失敗したことがない……)
正直、“あなたは素敵な子”という言葉に、“あなたは思いやり魂を持っている男”と言いたかったけどね。
私の心の中の関西魂がうずうずしていたから。(*1)
でも、さすがにそれをやると、ふざけていると思われちゃうから、我慢した。
……私って、えらい!
「う、ううぅ……とにかく、何言ってるのがよくわからないんですけど、すごい褒めてるのはわかります……ええと、とりあえず、ありがとうございます。」
ほら!やっぱりいい子じゃん、礼儀正しくていい子じゃん――あ!
まさに、“いい子ちゃん”……なんて。うん!我ながらいいギャグを考えた。後で披露しよう!
(なおこの後、彼女はいいと思うギャグを披露した反応は、氷点以下の雰囲気になることが、今はまだ知ることができなかった)
「へへ。こちらこそ、気遣ってくれてありがとう!それで……さっき何が言おうとしてたっけ?」
「え、あ?さっき、って……」
「あーほら、私が考えことをしちゃったときの前。“それで――”って、あなた口に出したでしょう?」
彼は少し間が置くと、「……あ、あれね!」と思い出したらしい。
「僕はただ……その、理由が聞きたいんです。」
「理由?」
「そう。練習する理由。あと……僕に選んだ理由。」もじもじ。
「理由か――そりゃあ姿勢がきれいだし、頑張っている姿が元気づけてくれるし、何より、あなたを選ぶ理由はやっぱ……“君がいい”って思うからでしょう!
つまり、特に深い理由はないんですよ。ただ単に、あなたがいいって、思っています。」これは大人らしくないということくらいわかっている。
だが、ここはやはりどんな上辺だけの綺麗ごとより、真摯に自分の気持ちを言った方がいいと、私は判断した……何となくだけどね。
「……っ!」ショタ子は何が言いたそうとしているけど、恥ずかしくて、結局何も言えなかったみたい。
かわいい!こういう子って、やっぱかわいいわ~!
「……ありがとうございます。」
(*’ω’*)?
なんで礼を言われた?理由が聞きたかったのはそっちじゃない?
まあでも――
「いいえ。こちらこそ。」――普通に返事するか。
……
……
……
よーし!なんかいい雰囲気になった感じだし、私が更に盛り上げようじゃないか!
「ね、ね。私、さっきいいギャグを考えたんだけど――」
この後、佐藤ジョシは(彼女自身がそう思っているだけの)さりげなくいいギャグを披露したが、大爆死でした。
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2020年、14月13日。休みの一日目。
今日は、試合の日!
*1関西魂:彼女自身が作った「笑いを取ろうとする気持ち」の総称。なお、佐藤ジョシは別に関西出身ではありません。普通の田舎ものです。
ちなみに、
”「そうだな……これを名付けるとしたら、思いやり魂ですね!あなたは思いやり魂を持っている男!」
「え?なにそれ……」
「つまり、あなたは素敵な子ってこと!」”
この段落を佐藤ジョシの言い方に変えると、
”「そうだな……これを名付けるとしたら、思いやり魂ですね!あなたは思いやり魂を持っている男!」
「え?なにそれ……」
「つまり、あなたは思いやり魂を持っている男ってこと!」”
ということになります。
要するに、
あなたは思いやり魂を持っている男! → なにそれ→ つまり、あなたは思いやり魂を持っている男ということです!
と、同じことを言ってるだけじゃん!!!というツッコミ待ちです。
でも知らない相手にこういうノリはさすがにダメだと判断したから、佐藤ジョシはそれを我慢したと。




