幕間①とある男の子の話 2020年13月??日~2020年13月67日
“「負けても仕方ない。二戦目で優勝候補に出会ったのだから。」”
“「大丈夫。あなたの実力なら、もっと上へ行ける。」”
“「うん……これでまた課題がわかったんだな。」”
“「フォーム……少し崩れたんだね。もしかしてストレス、溜まっている?」”
“「……翔太くん、あなたは少し休憩しよう――」”
――この間に、僕はもう何も教わっていない。
先生はもう、何も教えてくれない……
……
僕はわかってる。
これはきっと……よくあるやつのそういう意味だろう。
――戦力外通告。
僕はもう……先生に諦められたんだ。
****
僕は鈴木翔太。
前回の試合以来、クラブの先生に何も教われなくて、休憩しろって言われていた。だが……僕はわかってる。
これは……僕への罰だ。試合に勝てなかった罰。
きっかけはきっと、あの試合だったんだろう――優勝候補に出会ってしまった伊中大会・トーナメント戦の二戦目。
“あれは小6の身長か……”“あの身長はもう160センチに近いだろう。”“相手の子かわいそう……”
“でも、相手の子もあまり平均とは言えないな。”“一つ下とはいえ、小っちゃいな”“130もあるかどうか……”“ある意味、かなり目立ってる試合だな。”
そして、試合の結果は――7-6。僕の負け。
1セットの試合だから、7タイブレークまで粘っていたが……それでも、目に焼き付けるほどの力の差を見せつけられた。
あの身長とサーブの速さ……全然手に負えない。
正直、ずっと心のどこかでそう呟いている――僕は負けていない!負けていないんだよ――と……
もしもう1セットがあれば、たぶん対策できるかもしれない。
もしあの時サーブミスがなければ、たぶんもう1ゲームが取れたかもしれない。
もしあのポイントのリターンミスがなければ……たぶん……
もし……もし……たぶん、たぶん――色んな“もし”と“たぶん”が、脳内から離れられない。
あの試合のことは、ずっと心の中に鮮明に残っている。
僕はわかってる。わかってるつもりだ。
負けは負け。
どんなに言い訳を積み上げても、試合にやり直しがない。
しかし、やはり浮かべてくる。
“もう1セットやらせてほしい”、 “もう1セットがあれば、絶対攻略できる!”と。
僕は、負けていない……
だけど、あの試合から、僕の調子が崩れちゃって……そして次の大会で、予選の段階に……敗退しちゃった。
相手はそんなに強くないのに、あの子と比べたら、緩い試合だったのに……
なのに、あの試合のことはずっと……ずっと頭から――
「ああー!」
ダメだ!
ずっとベッドに寝転ぶと……余計なことを考えてしまう。
僕はテニス装備のセットを持ち込んで、階段を下りる。
そして、「……母さん!僕ちょっと出かける!」玄関で靴の紐を結び始めた。
「ええー!また?クラブの先生に少し休憩してって言われてないの?」
「……30分くらいだけだよ。テニスを触らないと、感覚が鈍くなるし。」母さんもクラブの先生と同じことを言う……
「……わかったわ。あまり無理しないでね。」
「うん。わかってる……行ってきます。」
「……いってらっしゃい。」
ガチャリ。
****
先生にあの戦力外通告の話以来、ずっとダラダラと過ごしてきた……いいや、毎日、少しでも自主練している。だけど、ほぼダラダラという感じだった。
不安。
なぜなら……僕には休憩する時間なんてないのに。
予選ですら突破できていない僕には、休憩なんてできるはずがない。
もっと……頑張らないと。
****
クラブの場所は借りられないから、今日はあの公園でやるつもり。
僕は井奈香公園に辿り着いたら、まず公園外周の歩道でゆっくりと走っていた。
田舎の公園だから、あまり人がいなくて、何の邪魔もないすらすらと走り終える。
走り終えた後、僕は井奈香公園のあるテニスコートに入り、テニス一式の道具を近くのベンチに置いた。
ランニングシューズをテニス用のシューズに履き替え、履き心地にチェックする。
「うん。」調子は悪くない。
では、軽くフットワークして――スプリットステップ。
それから、サイドステップ……クロス……ランニング……バック……
あと、スイングもしないと。右手と左手。
先生の話によると、運動傷害の発生は、大体練習メニューのバランスによるもの。片側だけ使い込まれると、その部位に負荷が感じるのは当然。
だから、利き手の訓練だけじゃなく、あまり使われていない手でも訓練しなければならない。
僕は最初よくわからなかったが、話を簡単にまとめると、
つまり、身体全身をバランスよく鍛えないと、運動傷害の発生率は確実に上がる。
“上半身と下半身は同調して動かないとダメだったら、なぜ人は右半身と左半身への意識は簡単に薄れちゃうの?”と、もちろんこれは先生がまとめてくれた話だが……聞いてた時、かなり考えさせられた。
左手も重要。身体全身無駄なところなんて一つもない。
だから、こっちも同じようにスイングしなければ。
パー、ドン、ポン……パー、ドン、ポン……壁打ちの後も、同じ分をやらないと。
「おぉ……すごーい。」
?
誰……?いつの間に――
「……そうか!この運動にしよ!」
……?
おば……いや?おばさん?(失礼なことを思ってしまったのと、別にいいかという矛盾の気持ちの表し)
「よーし!そうと決まれば!」
――お姉さんかも。(だが結局、お姉さんを呼ぶことにした)
僕はあの変なお姉さんが行ったのを見て、次の練習に入った。
……次はスピンとスライスもつけて打とう。
壁打ちの時、フットワークがおろそかにしてはいけないから。
****
後日の放課後。
鈴木翔太は今日も今日とて、同じ公園に自主練をしにきた。
「ふぅ……」彼は軽く走り終わった後、すぐテニスコートに入るつもりだったが――
「やぁー!へいー!」――今日は、先客がいた。
その先客は、佐藤ジョシである。
ええと……初心者か。鈴木翔太は彼女の動きを見て、すぐそう判断した。これは長年の経験とかが必要なく、ただ動きと姿勢を見れば、簡単に見極めるものだ。
当然、鈴木翔太は別に初心者のことを見下していない。彼自分が入っているクラブにも大人の初心者がいるから、大人の初心者に何とも思わない。
ただし、鈴木翔太は佐藤ジョシに対しての思うことは他にある。
ランニング用のシューズに身の丈に合わないラケット……加えて、明らかにノンプレッシャーボールの飛び方。
装備……めちゃくちゃだな。まあ、運動したいだけなら別にいいか……でも――鈴木翔太の懸念点は一つ。
「ほ――あうぅ!」佐藤ジョシは無理やり三回まで壁打ちをしたら、次は見事な空振りだった。
――危なっかしいな。
別に無理やり繋げなくても良いのに……
壁打ちに重要なのは、姿勢を正すことと、フットワークの器用さ。ボールを繋げることはむしろ二の次。
……せめて、ちゃんとした振り方を覚えてほしいな。
だがそう思っていても、鈴木翔太はこのことを口に出すつもりがない。気にしているものでもなければ、彼はよく流れに流されるタイプだ。そもそも、彼は外向的な子ではない。
いきなり姿勢が正しくないから、直接に何を指導してあげるとか、そういう勇気が全然出てこない。
だから、佐藤ジョシの動きを見ても、彼が取った行動は――
これ以上見続けたら、お姉さんも恥ずかしいと思っちゃうかもしれない。ここは……無視しよ。
――見て見ぬふりであった。
今日は……先に振り方をしようか。その後は、スプリットステップ……
それでも、初心者が先に練習したほうがいいという動きから始める鈴木翔太。
これは彼なりに出した、少し気付きにくい善意と振り絞ってきた勇気であった。
……
…
当然、鈴木翔太はこの行動が、後々のことに繋がることは知る由もなかった。
*二人の関係性にかなり工夫して作りました。
結構頑張ったと思います。