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三人の2020年14月43日ー⑩

 ゲーム:1-0

 ポイント:40-15


 ~作戦タイム~


 “ねえねえ、真津芽ちゃん……どうする?もうマッチポイントなんだけど……”


 高木真津芽は少し考えこんで、こう言った。


 “……ジョシちゃんはボレーできる?”


 “うん?うーん……一応練習させたことがあるけど、あんまりうまくないよ?”


 “私よりうまいだけでいい。”


 “え、真津芽ちゃんより……?真津芽ちゃんはボレーできないの?”佐藤ジョシの疑問に、高木真津芽は珍しく目を逸らした。少し照れているようで、恥ずかしそうにも見える表情。


 そして、彼女は小声でつぶやく。


 “……だって、ボールが怖いから。”


 “あー……”高木真津芽の照れ顔に、佐藤ジョシは少し妙な声を出しながら、笑顔を浮かべた。


 “……何?私をからかうつもり?”


 “ううん!ただ可愛いなーと思うだけ。”


 じゃあからかうつもりじゃん……佐藤ジョシの返事に、高木真津芽は少しの嬉しさと仕方ない気持ちが混ざってこう思う。


 “……とにかく、今回もちゃんと合図を見てね。”


 “はーい。”


 ”……あと、私は別にできないわけじゃない。”


 “? うん。”


 ~作戦タイム終了~


 高木真津芽は元の位置に戻った。その背中を見て、佐藤ジョシは少し感慨深い気持ちが湧いてきた。


 まさか昔のダンス部に決めた合図が、テニスの試合に応用できるなんて……さすがダンス部の絆!さすがの私たち!息ぴったり!


 無駄なことを考えながら、佐藤ジョシはまたバラバラな軌道でボールを下に突いた。


 ド、ド、ド 多少長めの時間になってしまったが、高木灯台は指摘するつもりがない。ただずっと佐藤ジョシの動きに集中している。


 ふ……


 ゲーム:1-0

 ポイント:40-15


 ~ファーストサーブ~


 佐藤ジョシはトスして――サーブ!


 ポン!珍しくいいタイミングに打って、速度もまあまあ速かったが……


 高木灯台はボールのところへ走る途中で、足を止めた。理由はボールが自分方面のコートに飛んでいるが、サーブエリアに入ってなかった。


 フォルト。


「うう……」佐藤ジョシは少し悔しそうな声を出した。


 サーブは難しいな……プライド君があんな簡単そうにやっているのに、なんで私の場合こうなるんだろう?


 やっぱ姿勢の問題か……?


 佐藤ジョシは考えながら、もう一つのボールをポケットから取り出した。


 姿勢の矯正、スタンスの歩幅、またグリップの握り方……色々考えた結果、結局自分のサーブはただ形だけのものだから失敗したと思っていた。


 だから、今はサーブで失点するのを避けたいため、佐藤ジョシはセカンドサーブがもう一度アンダーサーブでするのに決めた。


 ~セカンドサーブ~


 しかし、普通のアンダーサーブだと、簡単に強く返されるので、少し工夫して難しくできないのかなーと、佐藤ジョシはボールを持ったまま、数秒間で考えている。


 まるで静止画面になっているみたいな佐藤ジョシを見て、高木灯台はなぜまだ打たないのかと疑問に思った。


 ……どうした――と、彼がそう思った瞬間、佐藤ジョシは動いた。


 彼女はもう一度アンダーサーブにするその動きは、今回何かが変わった。目聡い高木灯台はすぐにわかった。


 振り方だ。


 ポコン ……カットサーブ?


 佐藤ジョシはボールを切るように、アンダーサーブをした。


 少しでもやりにくいと感じさせたい考えた結果、スライスやトップスピンなどみたいに、アンダーサーブでも回転をかければいいと彼女が思った。


 そして実際、高木灯台は少し動揺した。ただ動揺する理由はこのサーブが珍しいわけではない。佐藤ジョシ自ら導いたその答えと、考えたからそのまま試したいという魂胆にだった。


 初心者とは言え、勝ちたいという気持ちがそうさせた勇気は、高木灯台に動揺させたのだ。


 それは自分にはできない行動……また、「あの子」にも似たような勝負心だった。


 とはいえ……高木灯台は少し動揺したものの、簡単に対応した。球速と回転も遅い分、自分のサーブエリアに落下して弾む瞬間――


 パン!と、回転とか関係なく、高木灯台は力押しでガンとボールを打ち返した。


 ハードヒット!


 ボールが思ったより速く飛んでいて、反射的に避けようとする高木真津芽は髪の毛に掠った。


 スッ、ド!


 二人ともボールへの反応ができなくて、そのままボールを見過ごした。


 あー……結局1ポイントだけ取ったか。佐藤ジョシは少し悲しそうな目でフェンスにぶつかったボールを見た。


 だが――


 ゲーム:1-0

 ポイント:40-30


 ――あれ?


「……何驚いてんだ?ルールは俺が君たちのコート内に打ち返す時、シングルスラインで考えなければいけないだろう。あそこはシングルスラインの外。だから40-30になった。」


 ……あ!そういえばそうだった!


 ラッキー!と考えている佐藤ジョシの逆に、高木真津芽は高木灯台に凝視する。


 何が言いたそうな高木真津芽だったが、ワイヤーを調整している高木灯台を見て、いったんその気持ちを抑えた。

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