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三人の2020年14月43日ー⑤

 1ゲーム目が終わってすぐ、佐藤ジョシと高木真津芽二人は作戦会議をしている。二人は近づいて、コソコソと話し合っていた。


 “ねえねえ、真津芽ちゃん……”


 “何?もしかして何が良い作戦――”


 “やっぱあのサーブ……速すぎない?”


 “……”無言になってしまった高木真津芽。少し呆れている様子である。作戦かと思いきや、ただの感想である。


 “何当たり前のことを……”


 “いや、だって――”


 “あのー……もしかして、ジョシちゃん。”


 “はい?”


 “勝てるための作戦とか……何も考えていなかった?”


 “……い、いやいやいやいや!さすがに考えてるよ!うん!”


 佐藤ジョシが慌てている反応を見て、さらに疑う高木真津芽は細い目で「本当に?」と聞いてみた。


 佐藤ジョシは“ほん、ホントだよー”と、目を逸らして答えた。この反応を見て、高木真津芽はわかった。


 これは……昔の悪い癖が出てしまったなーと。


 佐藤ジョシが“とりあえず、やってみればいい!”という悪い癖があるのは、高木真津芽はわかっている。ただ、彼女は無理に変えさせたいと考えていない。


 なぜなら、この悪い癖で状況が悪い方向に転ぶ時があれば、いい方向に転ぶ時もある。良くも悪くも、佐藤ジョシのこの特質のおかげで・せいで、状況が一気に変わったことが数え切れない。また、そのおかげで、救われる人も少なくない。だから、変える必要がないと判断した。


 ただし今、高木真津芽はこの悪い癖が悪い方向に転ぶだろうなと考えていた。


 こういう時のジョシちゃんは、だいたい頼りにならない……いや、頼りにならないから、悪い方向に転ぶだろう。


 こういう時になると、やっぱこの前にもう少し強引に止めた方がいいかなと、高木真津芽は若干後悔している。


 だが、過ぎたことは変えられない。今更やめてって恥ずかしくなる一方、2対1でも勝てられないということと同然。


 だから、もし今の佐藤ジョシは頼りにならないなら――


 “ほらほら、高木君はもう準備している。早く自分の位置について!” 佐藤ジョシは下手くそな誤魔化し方をして、少しヘラヘラとした表情で高木真津芽に催促した。


 ――高木真津芽は自分で対策を考えると心の中に決めた。


 彼女は高木灯台のほうを注目し、自分の位置について、対策を考え始めた。



 ~2ゲーム目~


 ダ、ダ。


 サーブ権は……佐藤おばさんか。


 高木灯台はスムーズに動けるために、軽くフットワークの練習をしてから、腰を落とした。


 彼は向こうにいる佐藤ジョシの動きを観察して、中腰みたいに立っている。観察に集中するための構えだ。


 サーブのコース選択は、立ち位置にも関係している。鋭い角度で相手に対応しにくいコースや、相手に走らせて、返球の主導権を握るための質の重さなど、サーブには色々な戦略がある。


 そして、その戦略のどれもが一つの核心に繋がっている――それは試合の主導権。


 もしタイブレークの場合を除けば、テニスの試合は必ず1ゲーム目ずつお互いサーブするもの。


 テニスの試合では、一番理想的かつ簡潔な勝ち方は自分のサービス局を全部守って、相手のサービス局を全部ブレイクすること。


 つまり、自分のサービス局が守れたのは、ほぼ試合の主導権が握れると同じ。このサービス局の主導権はどれだけ重要なのがこれでわかるはずだ。


 そして、もしサービス局は主導権を握るための技術なら、サービス局をブレイクすることは、主導権を奪うための技術だ。


 当然、これはあくまで理論上の話だが、この理論をどう実践するか、高木灯台に教えられたのは――観察と予測である。


 相手の立ち位置と実力から考えて、ある程度の予測をする。そのための観察。


 この一週間の練習を通して、高木灯台はある程度佐藤ジョシの実力がわかっている。ストロークの打ち方とフォームの構えはまだ初心者の部分が見えるが、初心者なりに頑張っている。


 また、親戚の高木真津芽も昔の付き合いで、多少実力がわかるため、ほぼ同レベルだと考えられる。


 この二人の実力で合わさって、決してサービス局は守れないわけではない。


 問題は、どういうサーブをしてくるかだ。


 ……スピンはないだろう。そういう技術力がないはず。ならば、やっぱ緩急の策略と角度が肝心だろう。


 もし外側なら、元の方向に。内側なら、真津姉の方に……


 さあ、来い!と、高木灯台は真剣に佐藤ジョシの動きを見つめて、サーブするのを待っていた。


 だが、その真剣な気持ちは、すぐ佐藤ジョシのサーブによって腑抜けになってしまった。


 佐藤ジョシは勢いをつけたいだろうと、「はっ!」と大声で叫んで、ボールをトスしたが――


 パカ。


 サーブのタイミングがずれている上、ラケットの中心にも撃てていない。


 そのため、高木灯台はちゃんと見た。


 まるでスローモーションみたいに、ボールが打たれた後、自分のサーブエリアのほうに飛ばすはずの軌道は、しっかりととある障害物に阻まれ、「ポコ」と弾かれた。


 ド、ド、ドド……と、ボールが地面に落とした。


 障害物の正体は――高木真津芽の後頭部である。


 佐藤ジョシはサーブをミスして、高木真津芽の後頭部に打ってしまった。


 笑わない方がいいのに、この腑抜けすぎた状況に、高木灯台は笑いをこらえず、肩が震えている。


 そして、さっき仲良くコソコソと話し合っていた二人だったが、今回、高木真津芽から高木灯台にも聞こえた冷たい声で、「……ジョ・シ・ちゃん?」と佐藤ジョシに睨んでいた。


 佐藤ジョシ自身もこんな状況になるのは思わなくて、慌てて


「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!……頭ダイジョブ?」と高木真津芽に謝っていた。


「痛くないけど……痛くないけども――」と高木真津芽は繰り返しで言って、涙目で睨む。


 彼女は嘘をついていない。確かに痛くはない……が、ショックの方が大きかった。


「……ジョシちゃんは真面目にやってる?!!」


「やってるやってる!真面目にやってるよ!!」さすがの罪悪感に、佐藤ジョシは泣いても笑っても捉えられるような表情で答えた。


 このバカげた状況に、高木灯台も苦笑いであった。

この間、少し疲れたので、あまり投稿できませんでした。

申し訳ございません。

ですが、ストックがためておきました!

なので、この一週間、昼の12時半に予約投稿をしていました。

このまま頑張り続けます!

では!


2025.8.21 少し修正を入れました。

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