とある従姉弟の14月30日
2020年14月30日。時間は夜八時。
高木と書いてある名札の家に、従姉弟の二人が会話している。
「真津姉……君の番だよ。」と、ソファーの上にうつ伏せの状態で雑誌を読んでいる高木真津芽はこの話を聞いて、頭がリビングの扉の方に向いた。
「おう、ライト君――」よいしょっと高木真津芽は身体を引き起こし、直接身体の正面をソファーの背もたれに寄りかかる。
昔なら決してこういう風に座らないが、今ではもうあまり気にしない。特に家の中ではリラックスの状態で居たいため、多少のだらしない部分があっても気にしなくなる。
「お風呂あがったんだ。」高木真津芽はその姿勢のまま従弟の高木灯台に話しかける。
「見ればわかるだろう……」と、高木灯台は少し眉をひそめ、冷蔵庫のところに向かった。
「あと……ライトと呼ぶのはやめて。その名前、あまり好きじゃない。」高木灯台は言いながら、冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出し、飲み干す。
高木灯台。いわゆる世間で言うキラキラネームである。名前としての意味は、“灯台のように道を照らし、いい未来に導く”という話だったが……本人が好きかどうかはまた別の話である。
「ええ?いい名前だと思うよ?」高木真津芽は視線でライト君の背中を追いつく。
高木灯台は飲み干した瓶をドンとキッチンの机に置いて、「……好きじゃないって言ってるの」と反論した。
「うーん……じゃあ、どう呼べばいいの?親戚で苗字を呼ぶのはさすがにおかしいよね?」高木真津芽はそう聞いて、アレ(瓶)ちゃんとリサイクルしてねという意味の動きで瓶のことを指す。
高木灯台は渋々瓶を分類されたゴミ箱に捨てて、「……ライト以外なら、どう呼んでもいい」と答えた。
「それはちょっと困るね……他にあだ名とかないの?」
「ない――いやっ……うーん。」きっぱり → 思い出し → 迷い という一連の情緒の変化は、たったの3秒間で高木灯台の表情に表した。
この激しい表情変化、あるいは子どもならではの誠実さ、これは高木真津芽に唯一従弟から子どもらしい姿が見える瞬間だ。
この週末の間、二人は交流することがあっても、別にべったりの仲ではない。そもそも、二人の仲はどうしても年齢という壁の問題があり、深く交流することがなかった。
あくまで親戚の関係性で繋がっていて、丁度父さん側の親戚・高木灯台の両親が出張する必要があって、高木真津芽の側に一ヶ月預かるという状況になったのだ。
お互い近況のことは多少わかっているものの、どっちも深く追及しない。つまり、二人の距離感は無関心というほどではないが、かと言って、仲がいいとも言えない。
ちょっぴり悪くない、少々微妙な関係性だ。
だから、二人ともこの週末の間に、たぶん何も変化しないだろうと思っていたのだが……二人の関係性は今、とある人の存在によって、化学反応のように少しずつ変わっていく。
「うーん……プライド?」そして、高木灯台はあだ名について色々考えた末に、思いついたあだ名を言った。
このあだ名について、高木真津芽は少し呆れたように、また心配しそうにこう言った。
「え……学校でそう呼ばれていたの?いじめられてないよね?」
「いや、いじめられてないよ。」高木真津芽の質問に、高木灯台は即否定した。
「そもそも学校では友だちなんていないし、いらない。」
きっぱりとした態度でこう言った高木灯台に、高木真津芽は「そう……」としか答えられない。だが、次第にもう一つの疑問に思いつく。
「じゃあ、何でこのあだ名が……」
「いや……あの人が付けてくれたの。」
「あの人……」あ、もしかして――と思って、高木真津芽は心の中に今の高木灯台と同じく、とある人物像が浮かび上がった。
「今日真津姉も会っただろう?午後真津姉が俺を迎える時、あの人。」
佐藤ジョシの顔が浮かび上がった途端、高木真津芽の顔色が少し青白くなって、「ご、ごめんね……」と言い始めた。
「あとで私が説教するから!こんな変なあだ名をつけちゃって……」
「いや、いいよ。別に。気にしてないし。むしろちょっと面白いなという気持ちもある。」
「面白い……?」え?この子、ダジャレ好きなの?
「うん。なんか……失言するたびに悪い目に遭っちゃうし、自業自得の時もよくある。特に今日、“足はそんなに重要なのか”って聞かれて、だから走らせた。」
「あー……」そういう意味の話か。でもなんか――
「――なんか、わかるかも。」と、高木真津芽は昔の思い出を思い出しながら答えた。
中学の時もそうだった。
ジョシちゃんはいい意味でも悪い意味でも、かなりの目立ちたがり屋だ。あまり懲りない性だからだろう。たまに腹立つことを言うし、自業自得の場合もよくある……正直、ダンス部の先輩たちがスパルタになったのも、私が思うに半分の責任がジョシちゃんにあると思う。
“え?それすごいの?”とか、“いやーこんなの私でもできそう!”とか、真面目にやっている人たちにとって耳障りの言葉を言って、結局自分がやったら恥をかいちゃうのが定番。派手に大おこげしちゃうのももはや一種の芸術だった。
ただ……なぜだか憎めない。深く知れば知るほど、その言動には必ずある程度の原則があり、最低限の限度を守っているからだろう。
腹立つことを言っても、ちゃんとやっててるから、恥をかいてしまっても、自分の恥に真摯に向き合っているから、結局許してしまう。
そういう性格だからこそ、自分が彼女に惹きつけられているんだろう……
「あの……真津姉……真津姉!」
「うん?ああ!ごめんごめん、ちょっと考え事をしちゃってて……どうした?」
「思い出に浸る間に悪いけど……そろそろお風呂しに行った方がいいんじゃない?お湯、冷めちゃうよ。」
「そ、そうだね……って、私何を考えているのかわかってるの?」
「いや、“なんかわかるかも”つって急に固まったら、普通そう思うだろう。」
「そ、そうか……」バレてる。私、こんなにわかりやすいんだっけ……?
「それに、今日の真津姉若干テンション上がってるし。」
「え?!そうなの?!」
「うん。妙に親しいというか……そうだな、家に帰る時特にそう。よくあのおばさんのこと喋ってたから。」
「そういえばそうだった……ごめんね。迷惑だった?」大人の昔話は子どもにとって、一番つまらないことだろうな。
「いや、別に謝ることじゃないだろう。それだけ大切に思っている人だろうなって。それに……」
「それに?」
「……たったの二日なんだけど、なんかそういう話が共感できるみたいな感じがして、やっぱ面白いなーってなってる。」
「はは!まあ……そういう感じの人だからね。」
「……うん。そうだね。」
テニスコートで佐藤ジョシと出会うこと、また、知り合いだったこと、この二人にとって、思いがけない偶然だった。
そして、二人の距離感はこの思いがけない偶然に、少し縮めていた。
高木真津芽はお風呂し終わって、リビングに戻って、ソファーに座り直す。もう一つのソファーに座っている高木灯台は視線がテレビに釘付けたまま、真津芽に話しかける。
「明日いつ帰るの?」
「うーん。昼ご飯を食べてからかな。」ブーーン、髪の毛を乾かすために、ドライヤーの音が部屋中に響き渡る。
「……叔父さんとおばさんは?明日の夕方で戻るんだっけ?」
「そうだね。夕方だと思う。」
「……」
高木真津芽の両親は今、旅行に満喫している。二人はちょうど事前にコンサートの予約があり、東北地方に遊びに行った。この予約は高木灯台がまだ来ないうちに予約したもので、他の人を連れて行くことができない。
予約のキャンセル期限も過ぎてしまって、金の無駄遣いもしたくないというその結果、今、この家に高木従姉弟の二人しかいないという状況だった。
そもそも、予約の間が長くて、予約したことを忘れちゃった両親の適当さが今に至る問題だが……それでも自分の従弟を知る機会があることに、感謝している。
ブーーん。
「……」
カチ。ドライヤーの音が消えた。
「どうした?」
「……いや?何でもない。」
「もしかして寂しい?」
「……ううん?」
「そう……」高木真津芽はもう一度ドライヤーをかけるつもりだったが、途中で動きをやめて、高木灯台に言った。
「……やっぱ明日夕方まで一緒にいよっか。」
「いや、大丈夫だって。」
「いや、私がそう決めたので。」
「じゃ聞くなよ。」
高木灯台は口答えや口調など、必ずいい感じの聞こえではないが、心底に嫌がっているわけではないそのちょっぴりとした笑顔、少し下げてくる細くなる目尻、しっかりと高木真津芽の目に映っていた。
この笑顔で、彼は喜んでいるんだなと、わかっていた。
そして、高木灯台は心の中に迷っている。自分の悩みを言うかどうか……
はぁ……来月。重要な試合があるのに……
特別な大会や選手権などの試合ではない。
ただただ、一回の練習試合。
自分にとって、大事な練習試合。
これは、高木灯台がここにいる理由。




