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幕間②彼にとっての練習試合ー2020年14月13日

 6-0


 試合の1セット目は僕の勝ちで収まった。


 そして今、僕たちはお互い自分の区域で休憩してる――はずだったが、寂しいからって、僕たちはネットがあるように隔てて、近くに座っている。


「ひどいよ!あんな速い球、私は打てっこない!」


 僕は目の前の女性が駄々をこねている姿を見て、水を飲んでから返事する。


「僕の球速はそんなに速くないよ。実際佐藤姉ちゃんも何回か追いついたことあるだろう?」


「たしかにあるけどー……」佐藤姉ちゃんは言いながら、“(´O 3 O`)”みたいな顔をしている。


 正直、一人の大の大人がこんな子どもじみなことをするなんて、普通の人は考えられないだろう。少なくとも、僕の周りにはこういう大人を見たことがない。


 明るくて、子どもっぽくて、全然大人らしくない大人だった……なのに、時々言うことが大人みたいな感じもある。


 ……本当に、変な人だ。


 もうしばらく喋った後、


「――さあ、もう2分間経ったよ。次のゲームを始めよう。」僕は起き上がる。


「ええー早い!2分間こんなに早いの?」佐藤姉ちゃんは言いながら、渋々と起き上がった。


「うん。早いよ。」


 僕たちはお互いにコート上に立ち、対角線のところに対面している。


 一応、もう一度忠告するか。


「サーブする時、足がライン上に触れないようにね!」


「わかってる!」


 ここに審判いないから、お互いセルフジャッジするしかない。そして、相手の判断を信じる。


「あと、サーブの間は20秒だよ!」


「だからもう覚えてるって!今話しかけないで!緊張するから!」佐藤姉ちゃんは言い終えて、数秒間動きが止まった。


 一試合目から、佐藤姉ちゃんは少しずつルールを覚えていた。サーブのこと、得点の仕様などなど、他にも色々覚えつつある。


 姉ちゃんの成長している姿を見て、こっちもちょっと……なんか変な気持ちが湧き上がる気分だ。


 少し複雑な気持ちでもあるが……


 僕は少し考えているうち、佐藤姉ちゃんが動き始めた。


 彼女はボールを上にトスして――というわけではなく、ただポーンと、フォアハンドの感じでサーブを打った。


 これはいわゆる――アンダーサーブというもの。1試合目で僕が教えたサーブだ。


 テニスボールがゆっくり飛んできて、ドっという音がし、こっちのエリア内に落ちて弾む。


 さすがに6回分の試合もしたから、サーブはもう安定に入れるようになった。


 だが――


 僕は少し足に力を入って、前へジャンプしているように地面を蹴った。


 ボールが落ちる前に、その落下点の近くに近づき、ワンバウンドしてから即座にボールを撃ち返す!


 パン!しっかりスイートポイントで打った声、ほぼ無に等しい重量感の手応え。


 ……今の感じ、悪くない!


 ボールを返し、しっかりとライン内に入る。


 パン、ドン!


「ひぃ!」


「……15-0」


 ――僕はもう容赦しないと決めたんだ。


 ごめんね。佐藤姉ちゃん。


 ****


 2セット・1ゲーム目。


 15-0(鈴木翔太-佐藤ジョシ)


「……もーう!こんなの全然“ラブ”じゃないよ!」


「いや、得点の読み方について文句言われても……」


「うぅー」佐藤ジョシはぷくっと頬を膨らむ。無意識にやっていることだから、この様子を見た鈴木翔太はクスッと笑っていた。心底に嬉しいと感じている。


「笑わないで!」


「あ、はい。」


 これからの3ポイントは――


「やぁ!」パン! 二人の実力差はまるで天と地と、


「へい!」ドン! 雲泥のように、


「は、はああー!」パン! スッ!


 あまり過大すぎて、佐藤ジョシのサービス局はいとも簡単にブレイクされてしまった。


「うぅ……」


 1ゲーム目は、鈴木翔太の勝ちで終わった。


 2セット・2ゲーム目。1-0。


 チェンジ


 0-0


 二人は交互に歩く時、佐藤ジョシが話しかけた。少し悪ふざけに聞こえる話だったが……


「ねぇ。サービス局って、本当はブレイクしやすいじゃないの?」


「いや、これはただの実力の問題です。」鈴木翔太の言葉は直接心にぶっ刺さるようなものだった。


「うぅ……」だが、佐藤ジョシはぶっ刺されてもめげない。むしろ、今はあえて同情を誘っている反応をしているのがこの佐藤ジョシである。彼女は自分でクソガキルールを使っているせいで、心もクソガキ状態になっているのだ。


 例えば無邪気ゆえの怖さがあるように、これはポジティブだからこその陰湿なシンキング!


 今、彼女の心にある考えはこうである。


 へっへっへっ……こうして落ち込み続ければ、少しくらい同情するだろう!


 同情して……私を同情して!


 そして、手加減して――!



 なお、この陰湿な手段をされている当の本人――鈴木翔太は、手加減するつもりはない。ずっと最初の宣言通りにやるつもりだ。


 もちろん少し言い過ぎて、ちょっと同情くらいの反応をしたが、鈴木翔太はやはり手加減しないつもりだ。


 なぜなら、彼にはちゃんと手加減しない理由がある。


 僕のサービス局……一番気をつけないといけない。


 佐藤姉ちゃんは、少しずつだが、試合の中で強くなったのだ。


 このルール上で、僕のサービス局だったら、佐藤姉ちゃんでも勝ち筋がある。


 そう……たった一点だけなら、佐藤姉ちゃんはもう取れる。問題は、姉ちゃんは気付いたかどうか――


 パン!ドン!


「ひぃ!!!」


「……」


 あぁ……まだダメみたい。


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