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佐藤ジョシの日記帳⑩2020年14月13日

 いやぁ、ちょっと試合のことに期待しすぎてて、早めに来ちゃった。


 ワクワク♡……こんなことより、


 翔太くんはまだ来てないようだな。


 仕方ない。


 軽く準備運動でもしようか。



 1、2、3、4、5、6、7、8……2、2、3、4――


 ……


 ふぃー準備し終わった。


 でも……まだ来てないな。


 うーん……


 なら、少し壁打ちをしよう。


 えーと、あの子の真似なんだけど、まず壁打ちの前に、50回の空振りして、それから軽くぴょんぴょんして――


 よーし!


 さー!壁打ちすっ――私が壁打ちしようとそう決めた瞬間、「――すみません!」と、後ろから翔太くんの声が聞こえた。


「あ、翔太くん。」


「はぁ……はぁ……朝、ちょっと部屋の掃除をしてて、遅刻してしまった……ごめんなさい。」


 あらー、もしかして部屋結構散らかしてたのかな?今の私の部屋みたいに……って、自慢げに言うことじゃないよな。


「いいのよ。ただの練習試合だし、少しくらい別に気にしてないよ。」


「……ごめんなさい。」


「いや、だから気にしてないっ――」


「違うの!」彼は真面目な顔をして、強く否定したけど、俯いている。


 また何か言いたそうだ。


「もしかして、他に言いたいことがあるの?」


 翔太は私の話に頷き、ゆっくりと話した。


「実はその……僕は、間違えちゃったの。」


「間違えちゃったって、何を?」


「ボールを……」


 シーン


 ……


 漫画で例えるなら、今は突然何も言わなくなる、二人が見つめ合う状態だった。


 うーん。


 困ったな。


 今、彼は恥ずかしがっているだろうが、言うことが簡略すぎて、何が言いたいかわからない。


「ええと、もう少し詳しく話してくれないかな?」私は優しく話かけて、なるべく気まずく感じないほどの微笑みをしてみた。


 そして、たぶん私の魅力な(?)笑顔が効いたのだろう。翔太くんは少しずつ説明してくれた。


 ……


 ……


「えー……要するに、私が持っているボールは“ノンプレッシャーボール”ではなく、“プレッシャーボール”のほうだね?」


 彼はふんふんという空気の音でも出したかのように強く頷いた。


「で、間違っちゃったところは、この“ボールの名前”。つまり、よく飛び回るボールは、実は“プレッシャーボール”で、“ノンプレッシャーボール”はむしろあまり飛ばないほう。あなたが持っているその“練習球”がそういうものだね?」


「はい……そうです。」


 敬語……


「そうか。じゃあ、練習のやり方とかは?間違えたり――」


「それは間違っていません!僕はずっとそうしてきたのだから!たぶん……(間違ってないと思います)」


 なんで後半突然に自信なさげ……(苦笑い中)


「ふむ……」でも、それはつまり、本当にただのボールの名前を間違っちゃって、謝ってきたということだろう?


 これ……ちょっと真面目過ぎない?


 私、別に気にしてないし。なんならテニスのこと知らなさ過ぎて、何を言っているのか全然わかんない!


 でも……この自分がとんでもない過ちをしていたかのように落ち込みっぷり、彼にとって大事なことなんだろう。


 真面目にやってる分、自分への否定も強くなる。こういうタイプの子は大体そう。経験あるもん。


 きっと、私が「大丈夫だよ」って、「気にしてないよ」って言っても、この子はたぶん、さらに自分を追い込むだろう。



 ふむ……どうしようかなー


 正直、私は今、対応が困るというより、別のことに悩んでいる。


 もっと正確に言うと、自分の気持ちを抑えているの!


 そう。


 実は私……この子をからかいたい!!


 だって、こんな真面目で純粋な子、もうめったに見られないよ!ほぼ絶滅種じゃない?


 そして、こういう子にはああいうあわあわの反応が見せてほしいじゃん!


 だってそういう反応が、とてもかわいいじゃん!


 ……しかし、世の中はそうそううまくいかないもんだ。あの時の後輩ちゃんもそうだった。


 ちょっとからかってみたら、私の言葉を真に受けて、ショックのあまりに泣いていた。あれは本当にびっくりした……


 もし私はいまからかったら、この子もきっとそうなる――いや、泣くことはさすがにないかな?


 でも、「ふーん、本当にやり方が間違ってないかなー♡」って少しからかってみ?この子は絶対、自己懐疑と自己否定し始める。


 だから今、からかうのはやめよう。


 うーん……でも、本当にどうしよう?


 あまり考えすぎると、変な空気になっちゃう(というか今、もうなりかけている)。


 うーん……よし!


 決めた!


「翔太くん。」


「……はい。」


「あなたが言いたいことがわかった。」


「うん。」


「だから、こうしよう。」


「……はい?」


 ふんふんふん。気になるだろう。ちゃんと私の目的を考えてね~


 なんなら、深読みして!深読みしすぎて、頭がぐちゃぐちゃになって♡


「このあと、私たち試合するじゃん?」


「まあ……はい。そうだね。僕が申し込んだやつ……」


 少し自然体になったか?よし、ならもう少し!


「そこで決めようじゃないか!」


「……?決める?」


「そう!あなたが正しいか、それとも、私の願いを聞いてくれるか……ってね!」


「?」「??」「???」翔太くんは固まっていた。


 頭上がずっとはてなでもあったかのように、わけがわからない様子だった。


 ははは!わけがわからないだろう!


 実は私も、わけがわからない!!


 でも、わけがわからないほうがいい。何せ、こういう“わけがわからない”言動のほうこそが私の目的。


 私は自分のラケットを持ち上げて、ラケットの先端で彼を指す。


「なーに。大人の私に、ビビっているのか?」


「……」翔太くんはまだ固まっている。だが、ビビっているのかって聞いて、少しビクッと動いた。


 この子はやっぱり……


「それとも、負けてるのが……怖い?」


「……っ!」目付きが変わった。


 ははーん!引っかかったな!


 私はこの一週間の交流を通して、この子の性格についてちょっとわかったことがある。


 それは、翔太くんが大人しい見た目をしているけど、意外と勝負心が強い。


 この勝負心をうまく利用して、私は私の目的を果たしてもらうぜ!


「……わかった。何を言っているのかよくわからないけど、とりあえず、早速やろう。」


 ふんふんふん。引っかかったな。翔太くん。


 あなたのことだから、私の話にわけがわからないと感じているだろう。


 でも、それを考えても無駄だ。むしろ、あなたにこう考えさせてるのが私の目的だ。


 あなたはこうやって無駄なことを考えている時点で、すでに私の手のひらに踊っているさー


 そう……例えるなら、これはディベートで俗に言う――論点ずらし――いや、ここは名付けて、”焦点ずらし”!


 あなたのその余計な悩みを、今このテニスの勝負で、フッ飛ばしてやるわ!


 ……


 ……


 ……


 ぼっこぼこにされちゃった。(勝ち負けでの意味)


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