佐藤ジョシの日記帳⑨2020年14月13日~2020年14月5日
2020年、14月13日。
何で今日は試合することになったというと、少し振り返ってみなければいけない。
時が遡って――
――2020年、14月12日。
まさか間もなく一週間が経ち、すぐ休みの日になるとは!
時間が経つのは意外に早いもんだな……って、私、結構感慨深いことを言ってない?うふふ( *´艸`)
さて、ついに翔太くんとの約束を果たす時が来た。
明日、私は翔太くんと勝負する!
正直、なんで突然試合がしたいと申し込んでくるかはわからないけど、私はその気合いに負けたくないから、素直に応じた!
なので、明日の休みではまだダラダラと過ごせない。せめて、明日の試合が終わるまでに!
やるなら、ちゃんとやりたい!
真剣勝負だ!
そのため、今日も練習しに行く!
子どもとはいえ、手加減しないぞ!
勝たせてもらうぜー!
……
……へへへ。やはりボールを変えたら、かなり打ちやすい!
私、強くなった気がする!
これなら絶対勝てる気がする!
ふはははっ!
更に時が遡って――
――2020年、14月11日。
今日はちょっと残業の時間が増えて、ちょっと日記が書きたくないくらいに少し疲れている。
でももっとあの子と親睦を深めたいから、今日も練習しに行くぞ――でもまあ、たぶんこの時間にはいないと思うけど。
……
やっぱりいなかったわ。
さすがに夜では外に練習しないだろう。親が許せるわけがないもん。
……ふふふ。でも、これで差がついたな!
そうーだ。翔太くん!これが大人だ!
大人は違うぜ!大人は、夜でも外に出かけられるのよ!
子どものあなたと違って!練習する時間は、制限がない!
ふははは!今日も一段と強くなった気がする!
へへ……待てろよ!翔太くん!絶対あなたに負けないぞー!
更にさらに時間を遡って――
――2020年、14月10日。
この日のページでは、主に練習の成果とテニスの知識が書かれていた。
――2020年、14月9日。
この日のページでは、よく鈴木翔太とじゃれ合っている(?)ことが書かれていた。
――2020年、14月8日……14月7日……14月6日……
これらのページもほぼ鈴木翔太と一緒に練習していたことを書いていた。
そして……
――2020年、14月5日。
昨日のことがあって、今日もあの子と一緒に壁打ちをした!
あの子は、鈴木翔太という名前だったらしい(昨日、一応お互いに自己紹介したから、たぶん名前はこう書いてる)。
それで、翔太くんはあまり私に深く教えられないと言ったけど、壁打ちのコツは軽く教えてくれた。
そして、なんと驚愕の事実!
壁打ちは……ただ長く続ければいいってもんじゃない!
これは驚いた。
どうやら、壁打ちの大事なところは、姿勢の矯正とか、技能の慣れとか、それらのほうが大事なんだって。特にボールに対しての感覚に慣れることが肝心だと。
だから、壁打ちをする時、無理やり打ち続かなくてもいいって。
いやぁーこれはこれは……勉強になったわ。
そして、ちょっとホッとした。
そっか……だから、私は別にコツを掴んでいないわけじゃない。ただ単純に勘違いをしていたということか!
だったら、下手なのも納得だ!
何せ、私はやはり運動神経がいいほうだろう!
つまり、これで証明できる!
私は運動神経が悪くない!
……ちなみに、以上の独り言をうっかり言っちゃった時、翔太くんが少し微妙な顔になった。
まあ、聞かれてもいいけど、気付いた時、ちょっと恥ずかしいな……
あと、翔太くんはもう一つアドバイスをしてくれた。主に私の装備について。
何やら「このボールはノンプレッシャーボールだから」って、初心者には向いてないんだって。
こういうボールは簡単に飛び回って、狙いの難易度や力の出し方、また反応速度も違うということらしい。そもそも壁打ちは反応速度が試合の倍以上が必要だって。
まあ、相手は壁だからねー
それで、彼は最初、やはりプレッシャーボール50%減のやつ……なんなら私の場合、直接75%減のプレッシャーボールのほうが適切かと、このアドバイスをくれた。
本当、色々お世話になったわ!
有識者がいるだけで、全然違うな!
でも……なんで翔太くんは突然、私と試合したかったんだろう?
一応「はい」と約束したんだけど、少し気になるな……
なんでだろう?
****
これは14月5日の午後の時間。
週一の小学校は半日だけだから、昼ごはんの後、小学生たちは下校の時間になる。
なので、鈴木翔太は放課後、食後の運動がてら、徒歩で井奈香公園のテニスコートに行ってきた。
そして、いつも通りのウォーミングアップで、簡単なステップ練習や空振りの後、もう一人が来た。
その人は佐藤ジョシ。成人の女性で、少しお調子者である。
二人は一緒に練習して、何となくほっこりとして、少し楽しい時間を過ごした。
「……うん。たぶん、こんな感じ……ですかね。」
「ありがとう!翔太くん。本当色々お世話になりました……あと、敬語やめてもいいですよ。堅苦しいのも面倒ですよね?」
「え、あ、じゃあ……そうする。」
「うん!そうして!」
そして、もう少し会話と練習の時間が続いて――
「いやぁー、でもやはり有識者がいると、全然違うね。ちょっと詰まったところは今になって、もう簡単にできちゃう!やはり私……才能があるかも?!」
「そう……かもね。」ちょっと苦笑いをしている鈴木翔太。
だが、佐藤ジョシのこういうところも含めて、なぜか憎めないと感じている。
むしろ、こういう大人がめったに見られないから、もう少し観察してみたいという気分。
だから、彼女に性格を直してほしいというわけじゃない。
――あれもきっと……悪意で言っているわけじゃない。
「ふふふ……才能がありすぎて、もしかしたら今になって、プロでもなれるという感じ――( *´艸`)」
――そう……きっと、少し前にうっかり言っちゃった独り言と同じことだけだ。
妄想が漏れて、本気で思っているわけじゃない。
だけど……
「……佐藤姐さんって、よくテンションが上がりすぎちゃう人だって言われない?」
「えΣ(・ω・ノ)ノ?!
なんで翔太くんはそんなことがわかるの?!」
「……まあ、なんとなく。」……自覚なし。
「そっか……私って、結構わかりやすい人なのかな?」
「そう……だと思う。」
「そうか。なら仕方ないか。」
鈴木翔太は少し気分転換のために、もう一度壁打ちの練習をし始めた。そして、鈴木翔太の練習の様子を見て、佐藤ジョシが言っちゃった……禁忌の句を。
「いやぁ……でもやっぱ……テニスって……簡単だなー!」
簡単だなー 簡単だなー 簡単だなー……この言葉は三回でもエコーが響いているくらいに、鈴木翔太の耳に届いていた。
今までの言動と言葉が、たとえ悪意がないと知ってても、すべてこの“簡単”な一句、一気に鮮明な感じで鈴木翔太の脳内から蘇った。
そして、
「佐藤姉ちゃん!」彼の心に火をついてしまった。
****
2020年、14月5日。
(前略)
翔太くんは急にこう言った。
私:「はい?」
翔:「週末の時・休みの一日目に……僕と、試合してみない?」
私:「え?いいの?!」
翔:「……うん。本当は良くないと思うけど、でも……ずっと一人で練習しても、つまらないよね?」
私:「じゃあ!やるやる!」
……
時を戻って――
うーん……
やっぱ、試合する理由がわからないなー!
……
佐藤ジョシが完膚なきまでのボロ負けになるには、残り1時間。




