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一日目『転校生』

 ─────この世界は、平和を正当化しすぎて退屈だ。


 とある青年は、電車に揺られながら学校に行き、学校生活を何気なく送って、部活もせずに家に帰り、適当に飯を食べて風呂に入り、最後はベッドで朝を迎える。そんな平凡で達成感もない当たり前の日常とやらを謳歌する毎日。


 彼はそんな"当たり前"な日常に飽き飽きしていた。


 かれこれ17年もこうして同じ事の繰り返しをしているんだ、彼だって飽きて当然だろう。

 だが彼は人以上に、こんな飽き飽きとした退屈な生活にうんざりしていた。


 これは、そんな当たり前な生活を送っていた青年が、突如出会った少女によって、当たり前に過ごせる事の大切さを実感するまでの物語──────




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「────ふわぁ…もう朝か。…よっしょ、もうこんな時間だし、学校の支度しねぇとな……はぁ。めんどくせえけど。」


 朝の日差しが差し掛かり、部屋が明るく照らされた。

 俺は目を覚まし、学校の怠さにため息をつく毎日。


 だが、やるべき事はしっかりとしなければならない。

 幼少期。親からそう教わってきた俺は、それが染み付いてしまった為、サボったりした事は一回もなかった。


 皆勤賞は当たり前、その功績と成績の良さから、中学校の時は生徒会長に抜擢されそうになったが、即座に断った。

 生徒会長なんかになった所で、俺の生活は変わらない。ただ用意された文章を読み、用意された文言を皆に伝えるだけ、そんなの、人間版伝書鳩と対して変わらないと思っているから。


「……毎回思うけど、うちの学校の制服ってやっぱりダサいよな。頼みの綱だった女子も全滅だったし、はぁ。つまんねえの。こんなのがずっと続くのかよ。」


 朝になってため息を何回したか分からないくらい吐き、服を着替え、着替え終わるくらいの時に、いつも一階から母さんの怒鳴り声が聞こえてくる。


『─────雄介〜!!もうご飯の時間過ぎてるよ〜!!早く食べないと遅刻するからねぇ〜!!!』


 母さんの怒鳴り声に怒鳴り声で返事を返し、学校のカバンを持ち一階へ行く。


 一階に行くと親父が毎回新聞を読みながら味噌汁を飲み、母さんがテキパキと動いて俺に飯を置いてくれる。

 これも、いつもの日常だ、変わることの無い日常。


『あんたねぇ、もっと早く起きてこないと、こうやってバタバタして学校行くの治さないと、社会人になってやっていけないわよ。』


 いつもの説教だ。鬱陶しい。

 母さんの言葉は棘があり言い終わるまでが長い。

 俺はそんな母さんの言葉を聞き流す才能があるのかもしれない。今では何も感じずに聞き流せてしまう。


 俺は母さんの説教を聞きたくないため、爆速で飯を食べて走って学校に行く。

 玄関で靴を履き外に出る時も、『行ってきます』はかかさない。挨拶というのは、コミュニュケーションの中で最も大事だと俺は思うからだ。これを怠るやつは人間の理から外れたも同じ。だから挨拶は絶対にする。どんなことがあろうと。


 それに母さんが『行ってらっしゃい、気を付けてね』と返す。この会話も毎日毎日毎日続けている。


 俺は電車通学だ。家から駅まで徒歩、というよりも毎回走って駅まで行き、駅から電車一本で学校の最寄り駅まで到着しそこから歩いて学校まで行く。こんな毎日。


 俺は走って駅に着き、電車を待つその間、ひたすらスマホをいじっている。

 今日はゲームのログインボーナスを受け取ったあと、少しだけゲームをプレイしながら電車に乗る。

 電車はいつもの通り満席、時間帯も時間帯だ。無理もないと受け入れながら、電車の端っこまで移動して寄りかかりながらゲームをして時を過ごす。


 その時、だいたい友達が話しかけてくる。

 ほんのたまに来ない時もあるが、基本的には親友のアイツが同じ時間帯くらいに話しかけてくるのだ。


「─────おっ!いたいた!よっ雄介。相変わらずまたそのゲームかぁ?つかお前!中ボスのうさぎ魔神倒したんだな!羨ましいぜ。」


 この元気な奴が俺の親友。

 毎回俺にだる絡みをしては隣に居る変なやつだ。

 変なやつでも小学校からの腐れ縁ときたもんで、そう簡単に縁も切れるわけもなく、高校二年生までずーっと親友続行中だ。


「……今第二ボスのメロン怪獣だから、あんま話しかけんな、つーか電車内。そもそも大声で話すな。」


「ちぇ、つまんねえやつ。……あ、そうだ。風の噂で聞いたんだけど、今日転校生が来るらしいぜ。」


「……はっ?転校生?」


 聞いてないぞ。と言わんばかりの顔を見せた。

 というのも、転校生の情報など何一つ分からず、そもそも来ることすら知らされていない。なんでこいつは知らされているんだ。理解ができない。


 だが、転校生というのは俺にとって最高のイベントだ。

 なぜなら、この当たり前でずっと毎日こなすイベントに誤差が生じる可能性が大いにあるからだ。

 俺は心の中でワクワクと期待感で胸がいっぱいになった。


 そして親友が止まらず話をしだす────


「…んでさ、その転校生。────女らしいぞ。」


 願ってもない申し出だ。素晴らしい。

 イヤホンでスマホゲームをしていた俺だが、イヤホンを片耳外して親友の話を聞くことにした。

 普段はこんな事しないのに、もう俺の中では転校生で頭がいっぱいだ。


「……それ、本当にうちのクラスなの?高校2年生だぞ?普通一年生の転校生とかが来るんだろ?それに風の噂なんて、にわかに信じ難いぜ。」


「その転校生、色々な事情があるんだとさ。それでPTAの中では既に話が決まっていたらしく、母さん情報で俺が先に知れたって訳。でもどんな事情があるかは俺もわかんねえ。そこは母ちゃんも教えてくんなかったからさ。」


「なるほど、お前の母さんPTA会長だもんな。」


 どうやら色々と話は既にまとまっていて、流石に生徒で知ってる人といえば親友くらいだと、そう思った。


 そんな事を話しているうちに、最寄り駅に着いた。

 俺はドキドキする気持ちを押し殺しながら、電車のドアが開くのを待ち、改札を出て学校へ。

 ズラズラと並んだ人の波に飲まれながら必死に移動する。


 親友は、人の多さには慣れていて、人の波を掻い潜るように避けて避けて先に学校まで着いてしまった。


 そして時刻は8時25分。授業開始が8時45分。

 ギリギリ遅刻は免れた。遅刻しないように急いで教室まで走り、ドアをバン!と空けた。


「…セーフ…!だよな、そうだよな!」


 周りの生徒がガヤガヤとしていたのと、担任が不在だったという2つの情報で、俺の勝ちが確信してしまった。


 そして俺を置いていった張本人が話しかけてきた。


「おつかれ、我が親友。よくここまで────グホッ!」


 なんで置いていったんだ?の腹パン。

 当然、軽く殴っている。


「おいおい、悪ぃな翔陽。俺の殴りがちょーどテメェの腹に当たっちまったわ。次は周り気をつけるから今は悶絶しといてくれよ。」


「…ふふっ、やっぱり強いよなお前。」


 軽くとはいえ、普通に背中が曲がりお腹を抱える威力。

 加減を知らない所は完全に母親譲り。親父は比較的真面目な方だったから、俺は母さんの血を濃く受け継いでるみたいだ。


 席に着くと、俺の隣に机と椅子が置いてあった。

 確か俺は一番後ろで、隣は何も無く一人だったはずなのに。一晩たって来てみたら、椅子と机。

 これは…と期待を募らせながらも朝のホームルームが始まる。


「────はいはーい、みんな元気?今日のホームルームを始める前に、皆さんに転校生を紹介します。」


 担任がいつものテンションで転校生紹介。

 もちろんクラスのみんなは大盛り上がり、誰が来るのだろう、どんな子なんだろうと胸をいっぱいにしながら、呼ばれる子のことを全員で待ち続けた。


「じゃあ玲崎さーん!入ってきていいわよ。」


「はい。失礼します。」


 その声は非常に可愛らしく、少し高めの声。

 ガラガラガラとドアが空くと、真っ白な髪に長さはショート、皮膚が綺麗で目の眼光の中に青が混じっていて、外国人の目かと思うほどに綺麗な目をしていた。

 一言で言えば、『美少女』だった。

 その容姿を見た男子は全員こう思った。『可愛すぎる』と。


 そしてそんな彼女が黒板の前に立ち、自己紹介。


「────初めまして…その、玲崎綾乃(れいざきあやの)と言います…短い間ですけど、よろしくお願い致します。」


 と言い終わった時、クラス中が拍手喝采。

 彼女を迎え入れるかのように、拍手が鳴った。

 俺は拍手を送る中、彼女の言葉の違和感に気付いた。


「────さぁ、これから仲良くしてねみんな。じゃあ玲崎さんは、有馬くんの隣で。」


「はい、分かりました。」


 彼女が笑顔で返事をする。そして俺の隣の席まで歩いてくるのだが、その姿はパリコレを思い出させるかのように綺麗な歩き方だった。

 容姿端麗な女の子が横に座り、少し動揺する。

 そんな動揺している俺に気を使ってくれたのか、彼女が俺に向かって目を合わせ─────


「よろしくね、有馬…君?でいいのかな?」


「お、おう…よろしく。俺は…玲崎さん…でいいかな。」


「…私、みんなと早く友達になりたいから…下の名前の綾乃って、読んでくれたら嬉しいな。なんて、」


 少し恥ずかしそうにそういう彼女にドキッと来てしまう。

 思春期男子の通称反応だ。彼女からそう言われたら断る訳にもいかず────


「…じゃあ、あ、綾乃って呼ばせてもらうぜ。」


 彼女が名前を呼ばれた時、頬を赤く染めて嬉しそうに笑った。

 それを見て俺は、胸が熱くなった。体温が上がった。

 熱が出てるわけでもなく、彼女を見たらこうなってしまう。

 これが、所謂─────



「──────おい、もう休み時間だぞ。次、移動教室。」


 なんて考え事をしていたら一時間目が終わっていたようで、眠りから覚まされるようにビクッと反応し、見ると親友がいた。


「…あ、嗚呼。悪ぃ、少し考え事…」


「ぁ?もしかして授業中にお眠か?お前らしくねえな、あ、そうだ。担任の先生が、玲崎さんをお前に任せるとか言ってたぞ。」


「えぇっ…!?俺かよ…なんで、」


「隣の席だし、最初に喋ったのがお前だからだろ。……待てよ、もしかして俺邪魔か!?邪魔だよな!?ごめんなごめんな!俺先に行ってるからさ!!ゆーーっくりでもいいからしっかり来いよ〜!!!!」


「あ、ちょ!おい!!余計なお世話だぁぁ!!」


 ドタドタと走り揶揄いながら親友が教室を飛び出した。

 揶揄いに素直に反応してしまう俺は、顔を真っ赤に染めて親友を静止させようとしたが、時すでに遅し。

 彼女と二人きりになり、少し気まずいながらも話しかけた。


「────それじゃあ、行きましょうか。理科室。」


「そ、そうですねっ!行きましょう!」


 彼女が両手をぐっと握って見せた。可愛い。

 子供っぽいような、大人っぽいような彼女のミステリアスさがまた俺の心を擽ってくる。

 幸い、まだ授業開始まで時間があった。彼女の緊張を紛らわせるために、色々話をしてみることにした。


「────ねえ、綾乃って何処から来たの?」


「…私は、隣町の西高校から。ちょっと諸事情があって転校したって所。あ、虐められたとか、そんなんじゃないからね…!………実は、ここに来たい理由があった、って言った方がいいかな…。」


「へぇ、来たい理由ねぇ。高校かえてまでこっちに来るって、相当な理由があったんじゃねえか?」


「……まぁ、そうだね…。相当な理由だよ、ふふっ、」


 彼女がほんのり頬を赤く染めて呟いた。

 それを見て、あまり詮索しない方がいいかなと。別の話題を


「そうか、じゃあ綾乃は別の学校とかでなんかしてた事とか無いのか?部活とか、趣味とかでもいいけど。」


「部活はやってなかった。前の高校だと吹奏楽とか運動部は全部県大会とか出れるレベルだったから、私足でまといになっちゃうしね。…それに、運動あまり得意じゃないんだ。」


「そ、そうなのか。なんか気を悪くしたなら…」


「ううん、大丈夫。あ、趣味ならあるよ!お菓子作り!最近こーいうイチゴのスイーツ作ってみたんだ!」


 彼女がスマホを取り出して写真を見せてきた。

 それを見ると、プロでも違和感がないほどの仕上がりで、普通に驚いてしまう。


「……え!これ本当に綾乃が作ったの…?すげぇ美味そうじゃん。お店出せるレベルだよ…これ、」


「ふふっ、でしょ?自信作だったんだ!ママとかも美味しい美味しいって食べてくれてたし!」


 笑顔で趣味の話をする彼女を見ると、本当に子供っぽい。

 そういう所が、いちいち俺の心を掻き乱してくる。

 大人しそうな子だと思っていたが、こうやって話してくれる時は話してくれる子だということが分かり嬉しくなった。


 そんな他愛もない話をしていると、あっという間に理科室前。

 実験道具を準備するみんながいて、二人で一緒に中に入り実験準備を一緒にした。


「────さあ、頑張ろう二人共!…とはいっても、正直お前に任せれば全部出来るよな。雄介。」


 実験の班は俺と綾乃と翔陽だった。

 これは完全に先生が綾乃を配慮しての配置だろう。


「───俺を万能扱いするなよな…えぇっと、今回の実験はカエルの解剖だったよな。じゃあまず、麻酔ビン、脱脂綿、エーテル、解剖皿、解剖バサミ、ピンセットと電気ピンセット、当然だけど顕微鏡、スライドガラス、カバーガラス、虫ピン、あとギムザ液、70%メタノール、0.65%生理食塩水、ものさし、台ばかり、シャーレを準備してくれ。」


「……正解だ有馬。やっぱり流石だな。」


「ほーら、やっぱお前がいれば簡単じゃん。教科書を見ることなく、まだ先生が何も言ってねえのにスラスラと用意するもの言えるなんて、それに濃度まで完璧になんて、天才の域だろ?どう思うよ、玲崎ちゃん。」


「す、凄いですね…正直ここまでとは思わなかったです。」


「だろぉ?アイツ昔からこうなんだ。小学校の時なんて誰よりも早く分数とか覚えてたし、しかもそれをずっと忘れることは無かった。… アイツは勉強面では、天才だな。生活面ではポンコツな部分が目立つが。」


「聞こえてるぞ翔陽。つか俺だけ解剖してどうすんだよ。翔陽もやれ。」


「へーいへい。んじゃ玲崎ちゃんも一緒にやろうぜ!」


「あ、はい!」


 と、実験をひと通り終え、それからも授業は続いていく。


 そして、放課後になった時、皆が部活や帰りに急ぐ中、俺は綾乃と話していた。とはいっても、学校に慣れるために、学校見学をしないかという提案だ。


「───は、はいっ!是非したいですっ…!」


 彼女が綺麗な白髪を靡かせながら頷き、嬉しそうにしている。

 ただの学校見学だぞ、と思いながらも口には出さず。


「…じゃあ、行くか。早く行って早く終わらせようぜ。」


 と、椅子から立ち上がり、彼女の横に立ちながら学校内を歩き始めた。俺達がいる教室2-1は3階にある。

 上から屋上、4階、3階、2階、1階があり、別棟には武道場があり、まずは4階から行くことにした。


「─────4階は3年生の教室と音楽室、それからコンピューター室がある。コンピューター室は結構使うから、覚えておいた方がいいよ。」


「コンピューター室は、何に使うんですか?」


「授業というよりうちの学校、学期やその年が終わるとその振り返りをパソコンで打ち込んで作らなきゃいけないんだ。それがまぁめんどくせえのよ。」


「へぇ…それは確かに、面倒くさそうですね…。」


 彼女は微笑みながらそう呟く。

 そして音楽室、ここは吹奏楽部が演奏していたため、中には入らずに素通りし、次は2階へ。


「────2階は職員室とか図書室とか、あと化学室とか美術室。基本的にここに教室は無いから、覚えておいてね。」


「う、うん!分かった!覚えるっ!」


 職員室は素通りし、図書室に入った。


「ここが図書室、うちの図書室は自由に持っていっていい代わりに、本があった場所に図書カードを置いて誰が持っていったか分かるようにしてるんだ。」


「へぇ…確かにそうすれば、図書委員さんが居なくても管理ができますよね…!」


「そうそう、まぁ上手くやったよな。ほんと。」


 一通りの本を見終わったらこの部屋もおしまい。

 美術室と化学室は部活のため素通りしなければならない。

 1階は特に何も無いため省略。武道場は剣道部と柔道部が練習してるためここも素通り。簡単な説明だけを彼女にして、彼女は納得してくれた様子だった。


「…まぁこんなもんかな。ひと通り終わったけど、何か分からない事とかあった?」


「いえ、特に無いですっ、ありがとうございました。」


 彼女が深々と礼をする。

 それに対して俺も礼を返す。


 教室に戻ってきたら、誰もおらずに2人きり。

 少しだけ期待感が出てしまっていてドキドキしていたが、直ぐに帰ろうと荷物を取り。


「─────じ、じゃあ、帰ろっか…。あ、そうだ、綾乃この学校で部活とか興味無いの?結構部活多いから、なんか興味あるやつあったら、紹介とかするけど。」


「ぶ、部活…ですか、… 私、体が弱いし、力も無いから…どの部活に行っても、きっと足手まといになっちゃう。…だから、特にないかな…。」


 彼女の蒼が混じった目がふと寂しく光った。

 俺は、そんな彼女を見てられなかった。

 何故だかは分からない、だが、俺は悲しい顔をしてる彼女を見ると、胸が痛く苦しかった。


「───足手まといとか、気にしなくていいと思うけど。」


 俺はそう彼女に言った。

 彼女はそれを聞いた瞬間、驚いたように目を開けてこっちを見た。可愛くて綺麗な、蒼色の目だ。


「そ、その…ほら。足手まといとか、思い込みなだけかもしれないし、それに、自分の出来る時に、自分の一番したいことをやっておかねえと、後悔する気がするんだ。」


 俺は彼女の事をまだ何も知らないけど、下を向いてる彼女は、何処か寂しそうで、何処か悲しげで、そんな彼女はやっぱり見てられなかった。


 彼女は俺の言葉を聞いた瞬間、涙を一滴流した────

 それに俺は動揺する…


「…えっ、あ!ごめん!言い過ぎた!?ごめんね!?別にそんな深い意味はなくて…そのなんつうか、ごめん!ほんとごめんね!!」


「─────ううん!違うの…違くて…。……その、…嬉しかったの。… 有馬くんが、そうやって優しい言葉を掛けてくれるのが…嬉しくて…。…… ありがとう。 」


 彼女は、花のように美しい顔で笑ってくれた。

 涙を流しながら笑う彼女は、本当に世界で一番綺麗だった。

 俺はその顔を見て、ほんのり頬が赤く染ってしまった。


 俺は…彼女のこの笑顔に、既視感を覚えていた。

 とはいえ、思い出せるものでは無いが、とにかく、彼女はものすごく可愛くて、ものすごく綺麗だった。


「────そ、そうか、悲しかったわけじゃないなら、いいんだ。…… まぁ、部活は後でも決められるから、なんかあったらまた相談してきてくれ……じゃ、俺は……」


 と、早口で捲し立てて荷物を持ち帰ろうとする。

 すると、彼女が少し早足で────


『待ってッ…!』


 俺の腕を掴み、俺の帰りを阻止してきた。

 それに動揺する俺だが、悪い気はしていなかった。

 彼女は腕を掴んで止めたのが恥ずかしかったのか、すぐに手を離して事情説明


「────そ、その。… VINEとか、交換出来ない…?ほ、ほら!別に深い意味でとかじゃなくて!その、学校でなんかあったときとか、休んだ時とか、心配じゃん…?だからその、あの…だからっ…。」


 彼女がテンパる姿も可愛く、頬を赤く染めてるカノジョ。

 彼女が言葉を一旦止めて、顔を上げてこういった。


「────有馬くんと交換したいの…ダメ…かな?」


 俺はその言葉を聞いて胸がキュンと熱くなった。

 もちろん返答は決まっているが、スマホを持ち、口の前に持ってきて恥ずかしそうにそういう彼女がただただ可愛かった。


「────お、おう…全然いいぜ。なんかあったらすぐ、すぐ俺に連絡してきてくれよ。綾乃の頼みなら…何でも受けたいから。」


 高校生のカッコつけというのはこんなものだ。

 出来ないくせに、"何でも"なんて言葉を使う。

 だが彼女にとってその言葉こそが、絶対的な安心感だったと思う。


「────あ、ありがとう。じゃあ、また連絡するね…、」


 VINEを交換し、彼女が恥ずかしそうに小刻みで走り、ドアの前まで行くと、振り返って。


「────また明日ね、有馬くん。」


 と、俺の目を見て微笑みながらそう言い、教室を出た。

 俺はしばらくの間そこでぼーっとしてしまい、ふとスマホを見ると、新規友達欄に『綾乃』と書かれていた。

 俺はそれを見る度に心が踊るくらい嬉しくなってしまう。


『────やっと、有馬くんと交換できた…。嬉しいなぁ…。本当に…嬉しいよっ…。』


 帰り道を歩きながら、心の中でこう呟いた少女がいた事を、俺は知る由もなかった。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 ひと通り夜のやる事が終わり、寝るまでの自由時間を満喫していた俺は、VINEを開いた。

 あれから、彼女とはスタンプを送りあっている。

 特に話すこともないが、会話を途切れさせるのは一番嫌だから、何かは返すようにしている。


 もはやそれは"会話"と呼べるのか怪しいが、俺は意地でもVINEを返し続けた。

 彼女も同じように返してくれるので、俺は変な想像をしながらも、何気ない会話、何気ないスタンプを送り続けた。


 そうして寝る前になり、電気を消した時、一件のメッセージが入った。綾乃からだった。


「あれ、綾乃から…?スタンプじゃねえな。」


 VINEを開くと、そこにはこう書かれていた。


『────有馬くん、もう寝ちゃった?』


 この一言だけで、彼女が自分で送ってきてくれるものだと認識すると滅茶苦茶可愛く見えてしまう、

 俺はそれに返信を続ける。


『これから寝ようとした所、どうした?なんかあった?』


『あのさ……明日の朝、一緒に登校しない…?』


 願っても無い申し出にスマホを投げそうになるも、必死に止めて彼女のVINEに返事をする。


『全然いいけど、どうしたの急に。』


『今日は、ママが送ってくれたんだけど、明日は送れないって言われちゃって、それで、電車一人で乗るの怖くてさ、だから。有馬くんがもし良かったら、一緒に乗って欲しいなって。』


『分かった、綾乃最寄り一緒だから駅集合にしよう。』


『助かるよ、ありがとう有馬くん。じゃあ、明日楽しみにしてるね…おやすみ!』


『うん、おやすみ!』


 とVINEを返し、俺は動画配信サービスの動画を見て寝落ちしてしまっていた。



 ──────ッ〜〜〜!!


 私は枕に顔を埋めて、スマホを横に置く。


「…私何言ってんの…楽しみにしてるなんて送ったら…なんか私が登校するの楽しみに待ってるみたいな感じになっちゃうじゃん……!私のばかっ…!」


 顔を埋めながら足をじたばた動かして、一人反省会。


「────楽しみなのは本当なんだけど…わざわざ伝えなくてよかった…、あぁ…消したい…。本当に…ばかっ…。」


 顔は赤く染まり、今度はぬいぐるみを抱き締めてそっとベッドに横になり、明日を迎えるのだった─────

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沢山の人に俺の小説を届かせたいです!

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