『Phase.0 - 深淵より』
深い闇に包まれた世界の何処かで、巨大な歯車が廻り始めていた。
日本、富士山の麓に佇む古社。『月帝』の御前に神器が静かに鳴動していた。神々の血脈を直く受け継ぐ御方の前で、数千年の歴史を持つ神器が新たな力の胎動を告げている。幾重にも重なる帳が風もなく揺れ、清浄な月光が御座所を満たしていた。
バチカンの地下深くに広がる祭壇。『夜の神殿』の大司教・ノクターンは漆黒の炎の中で原初神の声を聞いていた。混沌は新たな領域へと広がろうとしている。
シリコンバレーの地下研究所。『無限機構』の代表・クロムの量子演算神経が、未知なる変数の存在を示し始めていた。理の極限が、新たな段階へと進もうとしている。
世界の裏側では、巨大な秘密結社がそれぞれの思惑の下で蠢いていた。彼らは人知れず世界の命運を動かし、歴史を操り、そして新たな力を求め続けている。
だが今、その世界の片隅で——。
東京のとある場所。下校時の教室に一人の少年が残っていた。窓から差し込む夕陽に照らされ、焔城楔は一冊の手帳を開いていた。
「よし、これで準備は整った」
少年は満足げに微笑む。彼の瞳には純粋な憧れと、誰にも見抜けない深い光が宿っていた。
「僕の秘密結社を作る時が来たんだ」
世界の歯車は、誰も予期せぬ方向へと回り始めようとしていた——。