第40話 割り切り
廃虚に戻って話し合うことにした。どういう結論になるにせよ、もう今日中にコーバーに到着するのは諦める。
住居跡の石積みにトーマたちと、ディオ。それと【鞭士】の女、6人で座る。むこうで共通語を話せるのはこの二人だけらしい。ディオの紹介によると女の名はペンディーだそうだ。
他の異民族の者はウマに草を食べさせたり、遠くでウマを走らせたりしている。
まず聞かなければならないのは、共闘を持ちかけるならなぜ獣を狩るようなやりかたでトーマたちを包囲したか、である。
「オマエたち、石の民はオクビョウだ! オクビョウ者が逃げるのが悪い!」
ペンディーがトーマを指さして金切り声でわめく。ディオが「話がそれている」と窘めた。
「われわれはオマエたちのことヲ『石の民』と呼んでいる。石の壁の中に住んでいるからだな。われわれと石の民はあまり友好的な関係に無い。姿を見せたトタンに逃げられてハ話ができない。無礼に感じたのならすまない」
「無礼に感じたとも。六つ足オオカミを退治したければコーバーでもプラムーシでも訪ねて協力を頼めばよかったんだ。友好の始まりになるかもしれないぞ?」
「チャベニは石の民の下にはツかない! われわれの力で六つ足オオカミを倒す! オマエたちここを通るんだったら、キョウリョクしろ!」
ペンディーがわめき、話が混乱した。ディオに事情を話してもらう。
ディオたちはここから南方、大湖海西岸地域に暮らす異民族のうち、チャベニと名乗る700人ほどの部族だという。
8年前六つ足オオカミに集落を滅ぼされ南方に撤退していたが、数年前からニストリー草原地帯の『石の民』の行き来が活発化。
六つ足オオカミの脅威を排除できるなら、元々自分たちの支配地であったここを交易中継点として復興したいという考えらしい。あくまでも「チャベニ族の支配地」としてだ。
今ここにいるチャベニ族の戦力は『器持ち』が7名。階梯もそこそこで、『軍団』相手では勝ち目がない。
「なぜ俺たちなんだ? ここを通る者は他にもたくさんいるんだろ」
「商人たちはここに勝手に泊まってゆく。泊まるのはまぁいいが、住み着くのは困る。だから時々チャベニの者が監視していた」
「6日前、俺たちを見たんだな」
「そうだ。驚いたことにオマエたちは昼に休憩してそのまま東に向かったという。ウマもなしに西の街から東の街まで一日で走りきるのは、強い戦士の証明だ」
「それで俺たちを待ち伏せしたと?」
「そういうわけでは無い。泊まらずに移動を続けラレる強い戦士なら誰でもよかった。つまり半分は偶然だ」
トーマより階梯の高い者でも、魔法特化型だったり『マナ操作』を軽視する不器用戦士だったり、そうでなくても年齢的な理由など、長距離移動が得意でない者は多い。
アンドレイ達はその点、かなりの上級者だ。一段落ちるユリーですらトーマが同じ階梯だったころと比べ、遜色は無い。
「アンドレイ。この廃虚が元はチャベニ族の物だったことは知っていたか?」
「知らないが、何かあるとは思っていた。この2、3年で六つ足にやられたと分かっているのが5人。消えちまった商隊が4組以上いるって聞いた。普通はとっくに大規模な討伐隊が組まれる被害だろう。たぶんチャベニと六つ足と『石の民』で三竦みのようになってたんだろうな」
アンドレイは『石の民』の部分をおどけた調子で言った。
顔を見ると、どうもやる気のようだ。来年もここを通って商いをする予定のアンドレイにとっては、六つ足オオカミをここで排除することは有意義だろう。
アンドレイがディオに出した条件は2つ。六つ足オオカミの魔石と死体は平等に分けること。そして集落を復興した場合もアンドレイ達は通行税を免除されることだ。
「50頭だぞ。ここにいる人数で対処できると思うか?」
「トーマにとっても都合が良いだろ? もともと階梯上げが目的だと言ってたじゃないか」
「7人も常人が居る。魔物退治は器持ちのすべきことだ」
「じゃあトーマが魂起こししてあげたらいいじゃない?」
「ユリー。階梯1じゃ常人とたいして変わらないだろ」
トーマの不満の表明にペンディーが「『魂の器』が無くても戦士だ。チャベニの誇りを舐めるな」という主旨で噛みついたが、ディオが窘めた。
アンドレイが提案した。
「ディオ、つまり街の警備兵みたいな連中に主導権を取られたくない訳だろ? だっらた今晩一晩ここで待って、泊まりに来た『器持ち』を誘ってもいいか? 集落の復活って話に反対の奴は抜きにする。そいつらにも魔石や死体の権利、無税通行権を与えてほしい」
「いいだろう。別に魔石や金が欲しいわけでは無い」
「弱い奴はヒツヨウナイ!」とペンディーが文句を言ったが、「ペンディーも一日では草原ヲ渡りきれないだろう」とディオに言われて黙った。
そんな風に話がまとまり、廃虚で一晩野営することが決まった。
ペンディーが一旦、南の方にあるというチャベニの移動集落に帰ることになった。『器持ち』3名を連れていき、明日午前中には食料など追加の物資を持ってくるという。
残った10名のチャベニ族はウマに羊革製の大きな幕を積んでいて、それでごく小さな幕屋を建てている。幕屋の支柱は一般的には木を使うものだが、チャベニ族は細い鉄の棒を使っていた。彼らにとっては鉄より材木が貴重なのかもしれない。
周り中魔境の森だらけという環境が当たり前だったトーマには、不思議な価値観だ。
普通の六つ足オオカミは30階梯相当の魔物なので、アンドレイには足しにならない。ユリーならまあまあ成長素が摂れる。個体差によるブレもあるが、34階梯のイヴァンだと階梯相当格魔石の半分前後と言ったところか。
水を汲んだり、遠くに生えていた細い木を切って来て薪にしておく。作業の合間に話してみると、イヴァンもユリーも六つ足狩りに乗り気のようだった。
「トーマはどうしても嫌なの? 変異したやつはトーマでも食べられるんでしょ?」
「軍団を統率する六つ足オオカミなら確かに俺やアンドレイの階梯相当格ってことになる。けどそれは、その分脅威度が高いってことを意味する。他に40階梯に近いやつはこの中に居ないし、常人を守りながら戦える自信が無い」
「守らなくてもいいんでしょ? ペンディーだってそう言ってたじゃん。ボクはアンドレイとイヴァンと、それとトーマが死ななきゃいいと思ってるけど」
イヴァンも頷いている。子供っぽいと思っていたユリーの意外な「割り切り」。確かに共闘するだけの相手の命に責任などないのだが。
放っておくと煙ばかりで消えてしまいそうになる生木の薪を、火魔法で苦労して燃やしながら、トーマは麦粥を炊いている。
夕暮れも間近になって、廃虚を訪れたのは2組。両方とも大きな荷物を背負った旅商隊であったが、西から来た5人組は討伐への参加を断った。
階梯も低く、魔法使いでもなさそうなのに武器は短剣しか持っていない。常人よりマシとは言えトーマも無理に誘いたい相手ではなかった。
もう一組、東からやって来た4人組が参加を承諾した。グロロウからはるばる東方の産物を運んできたという。全員が前衛肉体派、30階梯超えである。
そのほかに廃虚に訪れた者はいなかった。見慣れないウマと異民族の姿に驚いて来た道を引き返したか、草原を遠回りしたのかもしれない。
戦力増強は捗らなかったが、明日、出発することに決まった。




