儀式の対価
ドン!
エシェルを押さえていた騎士達が弾けるように飛ばされた。よろりと、エシェルが起き上がる。
「よくも、フランク殿下を」
騎士達がもう一度取り押さえようとしても、何かに守られるようにエシェルに誰も触れることが出来ない。
エシェルは横たわるフランク王子に近寄り、跪いてその額に手を添える。
「ウーラ族の力です。呪いのかけられた剣で斬られると、生け贄となってしまう。
その生け贄の命と、呪文を唱える事によって儀式としたのでしょう。
第二王子殿下は、我が国の騎士二人とギルモンド王太子殿下を斬り、3人とも倒れている」
言いながら、アルドラは転がっているフランクの剣に聖水をかける。
アルドラは、ウーラ族研究の第一人者でもある。
儀式で得られる力は、生け贄の命の強さに寄る。生命力あふれる子供が好まれるのも、そのせいである。
そして、ウーラの力は精神感応だけではない。
シェルは腕の中のギルモンドに聖水を飲ませようとしても、息をしていないギルモンドが嚥下するはずもない。
シェルとエシェルの視線が交わり、エシェルは睨みながら立ち上がる。
「全部、お前のせいだ。お前が現われてから、おかしくなった」
ブツブツとエシェルが呟くのは、呪文の言葉。
「その女が呪術者だ! 呪術を解くためにも、その女を斬るのだ!」
アルドラがエシェルを指さし、騎士達に指示をするが、エシェルに振り降ろした剣は弾き飛ばされる。
「人の命を奪う事は間違いで、許される事ではない」
シェルが前に出ようとするのをアイリスが止めるが、シェルの意志は強い。
「偽物のエシェル・ユーラニア。フランク王子も操ったの?」
シェルの言葉は、エシェルの迷いを突き刺したようだった。
フランク王子がエシェルを助けてくれたのは、フランク王子の本心からか、それとも知らぬうちにフランク王子に精神感応をしたのではないだろうか?
「違う! 私がエシェル・ユーラニアよ! お前が全てを奪ったのよ!
お父様の娘は私だけよ!」
フランク王子を操ったりしていない、フランク王子だけには、そんなことしたくない。
シェルは倒れているギルモンドの手から、フランク王子の血で汚れた剣を奪い取ると、聖水をかけた。
血の赤い色が、どす黒く変色していき、誰もがそこに呪いを見る。
「違う! フランク殿下は、王太子殿下に虐げられる私に好意をよせてくれたのよ!」
興奮してエシェルが声を荒げるが、それは不安を表すようにしか聞こえない。
エシェルは近寄るシェルに向けて叫ぶ。
「お前なんて、いなくなってしまえ!」
その言葉は、巨大な波のようにシェルに襲い掛かるが、シェルの前に飛びだしたアイリスが剣で薙ぎ払った。
「どうして、お前ごときが・・」
茫然とエシェルが言うが、それはアイリス本人にも分からない。
もしかしたら、アイリスも聖獣の加護を得ているのかもしれない、と思うだけだ。
シェルの母親の葬儀の時に、アイリスは聖獣の姿を見た。
あの葬儀の時に、聖獣の姿を見れたのは、シェルと、アイリス、マルク、ルミナスだけだ。