兄と弟の戦い
どれぐらい歩いたか。
フランクとエシェルは、草をかきわけ歩いていた。少し進むのも体力をつかう。
ここを逃げ切っても、ずっと追われる生活になると分かっている。
「ごめんなさい、殿下一人ならもっと早く逃げられるのに」
泣きながら、エシェルがフランクに謝る。
フランクはエシェルと繋いだ手に力を込めて、引っ張るように進む。
「一人なら、逃げるのを諦めていたかもしれない。エシェルと一緒だから・・」
アジレランド王国の王都に長くいたのは、エシェルが弱っているからだった。伯爵令嬢として育ったエシェルには、逃亡生活は厳しいものだった。
フランクが捕まえた小鳥を生け贄にして儀式をしたが、それさえエシェルの体力を奪うようだった。
「こっちだ!」
後ろから声が聞こえて、近くまで追いつかれていることを知る。草木の揺れる音で、それが少ない人数でないことがわかる。
それをエシェルも思ったようで、フランクに縋りついたが、フランクの剣を抜き取ると切っ先を自分の腹に当てて、フランクに止められる。
「何をするんだ!」
「私を生け贄にしてフランクが逃げれ切れるようにするから」
逃げて欲しいと、エシェルはフランクに訴える。
「バカなことを言うな! それなら、僕を生け贄にして、エシェルが逃げてくれ」
フランクは剣を取り上げると、鞘に納める。
「追手を斬れば、それが生け贄とできるか?」
フランクの問いかけに、エシェルは頷く。
「剣に呪文をかけておけば、できるかもしれない」
フランクが差し出した剣に、エシェルが呪文を唱える。
「こんなことさせたくないのに・・・」
生け贄を必要とする儀式がいけないことと分かっているが、エシェルにはもうこれしかない。この場を乗り切るためには、力が必要なのだ。
ガサガサッ! ダダダッ!
草をかき分けて、視界の中に追手が入って来る。
その先頭へ、フランクは剣を振り上げた。
僅かでも触れたら、呪いが発動して致命傷になっていく。
フランクに斬られて倒れていく兵士に、エシェルが呪文を唱えると、フランクに力がわいてくる。
「フランク!」
アジレランド王国の騎士を掻き分けて、ギルモンドが姿を現した。
「こんなとこまで逃げて、恥を知れ!」
ブルーゲルス王族として、国を脅かすようなフランクの行いを許すわけにはいかない。
フランクが斬り込んでくるのを、避けてギルモンドが剣を振るう。
ギルモンドの動きは、まだ癒えぬ傷が痛みで一瞬動きが遅れた。
ザン!
フランクの剣がギルモンドの頬をかすめる。
一歩遅れたが、ギルモンドがフランクの身体を突き刺す。 二人がそれぞれ後退して座り込む。
「殿下!!」
盾となっているフランクが倒れたことで、アジレランド王国の騎士達がエシェルを抑え込むが、エシェルはフランクしか見てなくて、フランクの名を叫び続ける。
「殿下! 殿下! フランク!」
フランクはよろりと動いたが、「エシェル」と名を呼ぶと、口から血が噴き出した。
「いやあぁあ!」
エシェルの絶叫が響く。
かすり傷を負ったものの、フランクを討ったギルモンドが座り込み動かない。
シェルが駆け寄り、ギルモンドの身体に触れると冷たい。エシェルの呪文が発動したのだ。
「殿下! ギルモンド殿下!」
シェルが抱きしめるのと、グイント、アイリスが異変に駆け寄るのが同時だった。
「そんなヤツ、死んでしまえ! 私を無視し続けるなら、どうして婚約者としたのよ!」
エシェルにとって、苦しい年月だった。エシェルは、自分の言葉に力を込める。




