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君と誓いの月夜  作者: violet
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隠された扉

家の中には、人がいた形跡があったものの、フランクとエシェルの姿はなかった。馬は外に繋いであり、遠くまで逃げられまいと捜索を開始したが、見つける事が出来なかった。


アルドラ・エグス・エルドラは、家の造りに違和感を感じていた。

ウーラ族は隠密行動が多く、資料も少ない。遺跡に痕跡があることから、かなり古い民族であることは確かである。

隠された一族で、残っている資料も少ない。

それでもアルドラは、アジレランド王国の高位貴族という有利さを使い、ウーラ族を調べ資料を集めた。

ウーラ族の家にはあるはずの祭壇が、この家にはないことに気がついた。

祈りを捧げるために、小さな箱のような祭壇を(まつ)るのが、ウーラ族の家だ。


「こちらに来てくれ」

アルドラは騎士達を連れて、台所の床を調べ始めた。


「閣下、ここに穴があります!」

しばらくして、騎士が床の下が空洞になっている所を発見して床を壊すと、小さな箱が隠されていた。

「聖水を持って来るんだ!」

アルドラは叫びながら、箱に手をかけた。これがウーラの祭壇だとしたら、中には生け贄の一部が入っている可能性がある。


聖水が届けられると共に、ギルモンドとグイントも集まって来た。

アイリスとシェルは馬車で待機していて、護衛が厳重についている。ここの空気はシェルにとって、大きな負担となっていた。


アルドラが聖水を箱にかけ、(ふた)を開けると、小鳥の遺体が入っていた。その小鳥にも聖水をかける。

その場に居る者すべてが、視界が鮮明になったような気がした。そして、台所に扉があるのに気がついた。

家中を何度も探し、台所も探した時には見つけられなかった扉が、そこにあるのだ。


「ウーラの力というのは、僕達全員に扉が無いと思わせることもできるのか。恐ろしいな」

感嘆したようにギルモンドが言うのを、グイントは黙って聞いている。

これほどの力が手に入るから、儀式を止めないのだろう。そして、ウーラの脅威はさらに大きくなる。


「フランク王子が王都から逃げられた時も不思議でしたが、シェルを襲った騎士は大きく影響を受けただけで、包囲していた騎士の多くに今回と同じことが起こっていたということですね」

グイントがアルドラに考えを伝えると、アルドラも同意する。

「ウーラには不明のことが多く定かではありませんが、その可能性が大きいと言わざるを得ません。

今、我々が体験したのですから」

生贄を誘拐する時も、こうやって周りに暗示をかけて連れ去るから、目撃者がなく捜索が困難になるのかと、アルドラが苦々しく思った。

姉が誘拐された時も、自分は側にいたのに、どうすることもできなかった。


コトン、と音がして皆が振り返れば、護衛に守られてアイリスに支えられてシェルが来ていた。

「シェルの調子が悪いんだけど、どうしても行くって言い張るんだ」


シェルは箱の前まで進むと、歌い始めた。

鎮魂歌である。

心に染み込むような歌だ、ギルモンド達は以前も聞いたが、初めて聞くアルドラやアジレランド王国の騎士達は感動で動けないでいる。

アルドラは、無念の死を遂げた姉にもこの歌が届けばいい、と願った。


シェルは、ウーラの痕跡全部を浄化することはできないけど、一つ一つ進んで行けばいいと思う。

「ずいぶん、気持ちが楽になりました」

歌い終わったシェルが言えば、アルドラが礼を言う。

「ランボルグ侯爵令嬢に感謝いたします。多くの魂が救われたことでしょう」

アルドラは扉に手をかけ、ノブを回す。

廃屋の台所の扉は、軋んだ音を立てて開いた。


アルドラを先頭に、アジレランド王国の騎士、それに護衛に守られてギルモンド、グイント、シェル、アイリスが進む。

森の中へと進む道は、昼なお暗い。

読んでいただき、ありがとうございました。

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