ユーラニア伯爵家の義姉妹
クラスメイトとして、エシェル・ユーラニアを知っていた。
自分の名を騙る人間。
自分を殺した父とその愛人の最後はあっけなかった。抵抗する父と、静かな愛人、処刑で全てが終わったはずだった。
「シェル?」
馬車の窓の外を見るシェルに、ギルモンドが声をかける。
「どうした?」
「殿下は、弟のフランク殿下をどう思っているのですか?」
シェルは、ギルモンドが弟を拘束をする為に来たことを言っているのだ。
そして、シェルにとって、エシェル・ユーラニアは異母姉妹になる。
「王族として自覚が足りない、行動に一貫性がなく、その場その場で流される人間」
それは兄としての感情は感じられない。それを聞いて、安心したようにシェルは笑った。
「私の兄弟は、アイリスとダミーだけ。私の家族環境は特殊だから、殿下の兄弟感情はどうなんだろう、って思ったの」
「王家も特殊だよ。いろんな家族の形があって、血が繋がっていても家族である必要はないし、血が繋がってなくとも家族でいいんじゃないかな? 僕はシェルと家族になりたい」
ギルモンドの何度目かのプロポーズに、シェルは目を伏せる。
「全部終わったら、答えを出せると思う」
シェルだって分かっている。ギルモンド以上に、自分を大事にしてくれる人はいない。
でも、今は、家族がわからない。
愛人と娘と家族になるために、妻と娘を殺した父。その父と愛人を処刑という形で、復讐した自分。
ポン、とアイリスが横に座るシェルの肩を抱いた。
「僕はシェルと、ずっと家族だからね」
追いかけているエシェルの存在は、犯罪者だ。
アジレランド王国の騎士に精神感応をしたということは、この国でも儀式をしたのだろう。
誰かの命か、何かの生物の命を奪ったのだ。
それを庇い、逃亡を助けるフランク自身も王太子を刺した犯罪者である。
シェルは、何か覚悟をしたのだろう。
もう、気持ちが悪いとは言わなくなった。
馬車が停まり、エルドラが報告に来た。
「先行隊が、フランク王子の居場所を見つけました。
この先の廃屋しかない集落にいるようです」
その集落が、ウーラ族の集落だろうと、エルドラは暗に伝えている。
「ここからの道は狭く、馬車は通れません。馬になります」
馬車から馬に乗り換えて、木がうっそうと生い茂った道を進むと、ほどなくして数軒の家屋が見えて来た。
屋根も壁も朽ちている。
その一軒の家の前に、馬が停められていた。フランクとエシェルが乗って来た馬だろう。
すでにアジレランド王国の騎士が、その家を取り囲み突入の合図を待っている。
エルドラはギルモンドと頷きあうと、片手を上に挙げる。音をたてずに騎士達が家の中に突入する。
父への復讐をしても、エシェルの存在で終わりになりません。シェルの葛藤です。
読んでいただき、ありがとうございました。