アジレランド王国のウーラ族
アルドラ・エグス・エルドラは、馬車の中で顔色を悪くしているシェルに護衛を付けて引き返すように提案していた。
フランツ王子を逃がすという失態をしており、さらに客人が体調不良になるなど、エルドラには想定外のことが続いている。
シェルは顔を上げると、エルドラの後ろに立っている護衛騎士を指さした。
「彼に聖水を飲ませてください」
エルドラが慌てて振り返ると、その騎士は剣を抜いてシェルに斬りかかってきた。
カキーン!
エルドラの剣がその騎士が振り降ろした剣を受けとめ、他の騎士達がその騎士を斬った。
ギルモンドは剣を抜いてシェルの前に立ちはだかったが、アジレランド王国の騎士がシェルを守った。
グイントが斬られて苦しむ騎士に聖水をかけると、ジュウと音がして煙がたち、騎士がのたうち転げ、苦し気に言葉を伝える。
「申し訳ありません。彼らが逃げるのを見ていました。どうして、あんな・・」
エルドラは、その言葉で彼が精神感応を受けて、フランク王子とエシェル・ユーラニアが逃げるのを阻止しなかったのだと理解した。逃げられるはずがない包囲網を彼らが抜けた原因だと。
そして、シェルがそれを察知したのだということも。
「シェルが苦しみだしたのは、彼が護衛として馬車の伴走を始めた時だったのだね?
彼は、伴走をしながら僕達が乗る馬車を襲うタイミングを見計らっていた?」
ギルモンドがシェルに問いかけると、シェルは頷いた。
「悪意? たぶんそう言うのが近いかも。それを感じて気持ちが悪くなった」
エルドラは、シェルをマジマジと見つめた。
ハサンの言葉を思い出す。
『ブルーゲルス王国の使者は、天啓だと思え。必ず守るのだ』
ハサンの言うブルーゲルス王国の使者は、王太子ではない、彼女だ。
ウーラに誘拐され生け贄とされたなかに、幼い頃のエルドラの姉がいた。腹を切り裂かれ、無残な遺体となった姿で姉が発見されたが、犯人のウーラ族は捕まっていない。
エルドラはシェルの足元に片膝をついた。
ブルーゲルス王国の王太子が婚約者とはいえ、女連れで来たことに反感があった。自分の浅慮に恥ずかしくなる。ブルーゲルス王国は、本物の使者を送ってくれたのだ。
エルドラの隣には、斬られて血を流しながらシェルを襲おうとした騎士も膝をついている。
「助けてくださり、ありがとうございました」
自分がウーラの感応を受けたと分かったらしい。そして、それから解除されたことも。
アジレランド王国では、ウーラは悪魔信仰として恐れられている。
迫害から逃れるためにウーラ族は儀式をし、儀式は人々の恐怖をさらに煽る。生贄にされた子供の家族の恨みと悲しみが増長していく。
「それより、手当てを受けてください」
手加減されることなく斬られた傷は血を流し続けている。
シェルの言葉を受けて、エルドラがその騎士を手当てするように他の騎士に指示をした。
シェルはギルモンドとエルドラに、先に進もうと提案して、馬車は動きだした。
この先には、間違いなくエシェル・ユーラニアがいるという確信があった。
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