二人の王太子
人骨は少し離れた場所に移して、丁寧に埋葬した。
古い時代の遺跡とは明らかに年代が違う。
アジレランド王国で迫害され、ブルーゲルス王国に逃げて潜んでいたのだろう。逃げた先に溶け込む為に、力を要したのは間違いない。
ユーラニア伯爵家を調べる過程で、邪教の存在が明らかになった。
もし、ユーラニア伯爵家が特別な家系で王家と教会の調査が入らなければ、乗っ取られたことさえ気がつかないでいたかもしれない。
ユーラニア伯爵夫妻を拘束した後に、ユーラニア伯爵邸を捜査した。真実の相続人であるシェルが、建物を破壊することを許可したので、一部の壁や床を壊すことが出来た。
以前、ギルモンドとグイントが潜入した時には発見できなかった隠し部屋を見つける事ができた。
そこでは儀式の形跡が残っており、動物や人間の骨が埋められていた。
腐敗途中の子供の遺体もあり、訓練を受けている騎士達も目を背ける惨状であった。
ギルモンドは学院での事件を考えても、エシェル・ユーラニアが儀式をしていたのは間違いないと思っている。
ギルモンドの知るエシェル・ユーラニアは大人しい令嬢だった。ギルモンドが冷酷に接しようが、無視しようが、反論するわけでも、婚約者からおりたい、と言うこともなく、王妃に従順であった。
その王妃は、ユーラニア伯爵夫妻が捕縛されて、王宮の中にある貴人用の牢に監禁されている。
それでも、フランクがエシェルを連れて逃げるのを、王妃が手助けしたのかも知れない。最低でも資金提供をしているだろう。
ハサンはシェルの情報が欲しくって、アイリスに接触しようとしたが、グイントに邪魔をされていた。
今なら、婚約者として無理に付いて来たのは、ギルモンド王太子と一緒にいたいからではない、とわかる。
明日には、アジレランド王国領に入るだろう。すでに連絡を受けて砦の向こうには、出迎えが来ているかもしれない。
野営も今夜で最後。
明日からは、動きにくくなるのは明白である。
ハサンは、騎士達に指示をしているギルモンドに声をかけた。
「少し、時間をいただきたい」
ギルモンドが騎士に目配せをすると、騎士はその場を後にする。その代わりに現れたのがグイントである。
さっきまでアイリスにかまっていたのに、その有能さに苦笑いが込み上げてくる。
「どうされましたか?」
ギルモンドはハサンの様子を不信に思ったのだろう。
「ブルーゲルス王太子の側近殿は、実に優秀だ。どれほどのアンテナを張っているのかと感心する」
大袈裟に両手を広げれば、ああ、とギルモンドも納得をする。
「僕の方がずっと年下なので、どうかギルモンドとお呼び下さい。こちらは、グイントです」
二人とも王太子なので、地位で呼ぶには区別がつかない。ギルモンドがグイントも呼称を紹介する。
「そうさせてもらうよ。私はハサンだ」
ハサンが許可しても、年下のギルモンドが呼べないのは分かり切っている。
「では、ハサン殿と呼ばせていただきます」
どちらも駆け引きなのは分かっている。
仮想敵国、実戦こそないがブルーゲルス王国が建設した砦を挟んで、お互いに軍が常駐している状態なのだ。
ハサンは、来るときは砦をさけ第三国を経由してブルーゲルス王国に入国した。
帰りは、堂々と砦を通過すると、感慨がある。
そして、ハサンはギルモンドを見た。
ブルーゲルス王国のことは最優先で情報が来ていた。王太子がこまめに各地を視察している報告も受けていたが、ユーラニア伯爵家の事件を知ると行方不明の婚約者を探していたのだと推測できる。
生きているかもわからない婚約者を探すのは、彼を年相応ではいさせてくれなかったのだろう。見かけは18歳でも、中身は狡猾な為政者だ。
だがハサンも、少年の頃から戦場に立ち、命のやり取りをしてきたのだ。
「明日はアジレランド王国に入る。少し、情報を共有した方がいいと思ってね。
アイリスが心配していることが、すでに今夜おこった」
ハサンは、アイリスの名前を出した時のグイントの反応を楽しみにしていたが、グイントが表情を崩すことはなかった。
シェルが森に入り邪教の痕跡を見つけたのは驚くべきことだが、それをアジレランド王国内ですると驚くだけでは済まない。
排除されるか、取り込むために監禁されるか。
3人の話し合いは、夜が明ける時間まで続いた。
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