シェルが見つけたもの
アイリスが一人で行動してもグイントが付いているように、シェルにはギルモンドが付いていた。
「もう付いてこないで」
堂々とシェルの後ろを歩いているギルモンドに、シェルは手を振り払って離れようとするが、離れてくれるはずがない。
シェルは、しっかりした足取りで野営している場所から離れて森に入ろうとしている。
まるで道を知っているように、迷いのない足取りである。
「どこに行くんだ?」
ギルモンドの問いかけに、シェルは首を横に振って応える。
「分からない。けど、あっちが気持ち悪いの」
気持ちが悪い方に向かうのも変な話だが、これが無理やり付いて来た理由の一つか、とギルモンドも納得する。
森の中でシェルが足を止めたのは、木しかないありふれた森の景色。
木に手を添えようとして、シェルが口元を手で押さえて後ずさった。
「シェル」
ギルモンドが両手でシェルを受け止め、身体を支える。
「吐きそう・・」
ギルモンドの行動は速かった。シェルを抱き上げると、手を添えようとした木から距離をおき、木陰にシェルを休ませる。
「殿下、あの木の根元に何かあると思う」
顔色が悪いシェルが、木を指さして掘ってくれと言う。
「誰かいるか」
ギルモンドが隠れて護衛をしている騎士を呼べば、数人が姿を現した。状況を理解しているので、一人を護衛に残して馬車に器具を取りに行った。
騎士は掘り手を何名か連れて戻って来たが、ハサン王子達も一緒だった。
アイリスは、顔色の悪いシェルに駆け寄るとハンカチを額にあてる。
「冷や汗をかいている、そんなに気持ちが悪いなら、馬車にもどろう?」
「戻ったら、この気持ち悪い原因がわからない」
シェルはここに居ると言い張り、騎士達が木の根元を掘るのを見守る。
50センチほど掘ったところで、ガシャッと器具が何かに当たる音がして、そこを中心に掘り続けた。
出て来たのは、多数の人骨と壺や布切れ。
「昔は、ここに住居があったのだろうか? 墓地かも知れないな」
掘っている騎士の一人が言う。
「気持ち悪い、聖水をお願い」
離れた場所にいるシェルが身体を丸めて震えると、アイリスが大声で叫ぶ。
「聖水だ!」
アイリスにシェルを預けて、穴を覗き込んでいたギルモンドが駆け戻って来る。聖水を取りに行った騎士もいるから、すぐに戻ってくるだろう。
穴を見ていたハサンが顔を上げて、シェルの方に振り返る。
「これは、ウーラが儀式をした後だ。この壺にウーラの文様が描かれている。儀式で生け贄となった人間の贓物をいれる壺だ。
遺跡というほど古くはない。数十年前といったところだろう。
我が国で弾圧を受け、迫害から逃れてブルーゲルス王国に逃げるウーラ賊がここで儀式をしたのかもしれない」
どうして、彼女はここにこれがあるのを知っているのだ? ハサンはシェルの存在に疑問を持つ。
『北の地に不穏な気配』
聖獣が言っていたのは、アジレランド王国ではなく、ウーラと呼ばれる邪教のことではないか?
とギルモンドは思う。
ユーラニア伯爵家の調査から分かった邪教の存在。
聖獣は全てを知っていたのではないか?
シェルが、邪教の儀式の痕跡に不快を感じているのは、聖獣も不快に思っているという事かもしれない。
聖水を持ってきた騎士が、ギルモンドの指示で穴に聖水をかける。
その様子を見ていたハサンが、身体が軽くなったと感じた。気がつかないうちに影響を受けていたのかもしれない、それを聖水が打ち消したのだ。
騎士達も同じことを感じているようで、目を見張っている。
グイントは聖水を持って、アイリスとシェルの元に向かう。
「アイリス、シェル嬢、摂取できるか?」
頷いてアイリスは聖水の入った容器を受け取ると、シェルの口元にあてた。
シェルが聖水を飲むのを確認して、アイリスも飲む。
シェルは手を組み、鎮魂の歌を歌い始めた。
それは、心に染み入るようで、その場にいる誰もが胸に手を当て、静かに聞き入った。
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