シェルの家族
シェルが強固にアジレランド王国に同行するのを一旦保留とし、ギルモンドとグイントは王宮の会議に出席するためにランボルグ侯爵邸を出た。
それと入れ替わるように、ダミーが部屋に駆けこんで来た。
「姉上、兄上」
明るい声が部屋に響くと張り詰めた空気が緩み、アイリスとシェルはソファーに座り直すと、ダミーはアイリスの足をよじ登って、膝の上に座る。
アイリスはダミーの頭をなでながら、シェルに問いただした。
「アジレランド王国は開戦の可能性のある危険な国だ。ましてや、明日出立予定というほど急ぐのは、何か問題があるのだろう。
シェルや僕は、はっきり言って足手まといにしかならない。
それを分かっているはずのシェルが、どうしてそんなにこだわるの?」
シェルの表情も硬さが取れて、ソファーにもたれかかる。
「うーん、言葉にするのは難しいのだけど、行かなくちゃいけないと思ったというか、強迫観念みたいな?」
アイリスもソファーに深くもたれると、ダミーもアイリスのお腹に転がった。
「そっか。シェルが行くなら、僕も行くからね。父上と母上に許可をもらいに行こう」
訳をわからず聞いていたダミーが顔を上げる。
「どこか行くの?」
キュッ、とアイリスの服を握りしめて、半分涙目になっているダミー。
「ちょっと出かけて来る、ダミーは待っていてね」
アイリスがダミーを抱き上げると、すでにダミーが泣いている。
「ダミーも行く。ダミーも行く」
泣いてごねて、ダミーはアイリスにひっついて、片手はシェルに伸ばす。
領地でずっと一緒だったのが、王都に来てからはアイリスとシェルは学院に行って、ダミーは留守番だ。
不満が溜まっているのだろう、ダミーの涙は止まらない。
ダミーの小さな手をシェルが握ると、ダミーの身体がピクンとはねる。
「ダミーも行く」
「ごめんね、ダミーは連れていけないの。
早く帰ってくるようにするから、きっと、ダミーの元に帰ってくるから」
ダミーの小さな手を握りしめると、シェルの心の中が温かくなるようだ。
「やだ、ダミーも姉上や兄上と一緒に行く」
ダミーの泣き顔が、シェルを好き、アイリスを好き、と訴えていて幸せをくれる。
何があっても、絶対にここに帰ってこようと思う。
泣き止んだダミーの手を繫いで、アイリスとシェルはランボルグ侯爵夫妻がいるサロンに向かう。
王太子が来たことを知っているから、報告を待っているはずだ。
困惑するマルクとは対照的に、ルミナスは味方だった。
「すごく危険だし、15歳の学生なんて役に立たたないし迷惑をかけるわ。それでも行きたいの?」
「はい、行かないといけない気がするの」
わかったわ、と答えたルミナスがマルクを説き伏せ、学院に休学届けを書いてくれた。
マルクが王宮に登城して、会議に出席するのと王への説得をすることになった。
王宮でマルク達は、ハサン・リアド・アジレランド王太子と対面することになり、ギルモンド王太子の訪問の意味を知る。
そして、エシェル・ランボルグは、王太子ギルモンドの婚約者エシェル・ユーラニアとして同行することになった。
アイリスはシェルの侍女として随伴する。
「どうして、僕が侍女なの! 絶対にグイントが絡んでいる!」
アイリスがどんなに否定しようが、アジレランドに行くには侍女としてシェルに付いて行くしかないのだ。
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