アジレランド王国の使者
王太子であるギルモンドが使者に立つのは、もう一つの理由がある。
それは、アジレランドからの使者が、アジレランド王国の王太子だからだ。ギルモンドがアジレランドに行くより、アジレランドから王太子が、招待もなくブルーゲルス王国に来る危険の方がはるかに大きい。それを、アジレランド王国の王太子ハサンはやってきたのだ。
「こちらで邪教と呼ばれているのは、我が国の一地方の土着民ウーラなのです。
ご存知のように、彼らは人間を生け贄として儀式をおこないます。国家として生け贄は許せるものではないし、人を魅了して操る危険すぎる集団と認識してますが鎮圧ができてません。彼らは魅了で多くの協力者を作り逃げ延びるのです」
王太子ハサン・リアド・アジレランドが、アジレランドでも危険集団として邪教を制圧していると言う。
ブルーゲルス王国もアジレランド王国と同じ考えで、使徒の動向を探り制圧を行なったのだ。
国として、存在を許せるものではない。
多くの諜報員をアジレランド王国に潜入させているが、ウーラと呼ばれる土着民の存在を初めて知った。
アジレランド王国が、いかに秘密裡に動いていたかがわかる。
ブルーゲルス王国でも邪教の教会と使徒を見張っていたが、極秘に動いていた。
今回の制圧も、放火や誘拐などの罪状で連行していて、生け贄をする邪教を連想しないように配慮してある。生け贄をしていたと知られると、王都や国内に大きな混乱を招くからだ。
アジレランドではウーラと呼んでいるのに、ハサンが邪教と言うのは、アレジランドもブルーゲルス王国に諜報員を忍ばせていて、邪教の使徒達も観察していたということだ。
諜報はどこの国でもしているが、アジレランドの諜報員はずいぶん優秀らしいと、ギルモンドはハサンの言葉から読み取る。
「僕がブルーゲルス王国に赴いたのは、ブルーゲルス王国の協力を得るためであります。
現在、国交がない両国でありますが、ウーラに関しては両国で協力せねば殲滅できないと考えております」
ハサンが持って来たアジレランド王の書状には、協力を願う言葉があった。
戦になったことはなくとも、国交がなく、国境線では砦を作り、睨み合っている両国である。
その相手国に、僅かな随行員を連れた王太子を送るのは、よほどの決断だったと誰でも思う。
だからこそ、ハサン自身が間者や戦闘員の可能性があるが、ブルーゲルス王国はハサンを王宮に受け入れた。
「こちらで弾圧すると、そちらの国に逃げる。今回、ブルーゲルス王国の大規模な弾圧で、こちらの国に逃げ込んできた中に、ウーラの女性を連れたフランク・ブルーゲルス王子がいます。
魅了の力を出すのは、ウーラの血族だけです。それは何が起因となっているかは、解明できていません。
ウーラは儀式によって自身の力を一時的に高め、魅了と言うべき精神支配をします。
魅了された協力者が、魅了を使うようになることはありません」
ハサンが言うウーラの女性とは。エシェル・ユーラニアのことなのだろう。
レオルド・ユーラニアは、ブルーゲルスの貴族の生まれであるから、母親のユーラニア夫人がウーラの血族であるということだ。
邪教の教会に通っていたのも、母親であった。
「僕がここに来たのは、フランク王子のことだけではありません。
我が国では、ウーラを殺すしか対処がなかった。魅了された者は、最後に精神崩壊するか死ぬしかなかった。
だが、この国には聖水で魅了を解くことが出来ている。古い文献にある聖水が、このブルーゲルス王国にはある。
我が国の教会では、成しえないのです。その聖水が必要なんです」
ハサン王太子は、駆け引きなどせずに真意を告げた。
フランク王子の情報ということで、邪教の存在を知る限られた者だけでの謁見である。王と王太子、重臣がハサン王太子一同と対面している。
アジレランド王国の精鋭であろう随行員たちは、ハサンが話している間は側に控えている。
ハサン王太子は、最初からフランク王子を取引材料に考えていたのだろう。
アジレランド軍が進軍してきてブルーゲルス王国の教会から奪い取るという道もあったろうが、アジレランドはそれをしない証に王太子を使者として送って来たのだ。
読んでいただき、ありがとうございました。