北の国アジレランド王国
信徒達は秘密裡に処刑されたが、ユーラニア伯爵夫妻はそうは出来なかった。
王宮前の広場で、罪を公開されて処刑になる。シェルがユーラニア伯爵を名乗る正当性を証明するためでもある。
夫人は、とうとう口を割らなかった。それに反して、レオルドは後悔や懺悔をしているらしく言葉を口にしていた。
シェルは、家族とともに見ていた。
処刑から逃れようと、わめき暴れるのが父親だった人。
長かった。
今すぐに殺したいと、何度も思った。
だが、刑に処さないと奪われた名前を取り戻せないのだ。
処刑が実行されても、感じることは何もなかった。あまりにも長い間、復讐を願ってきたのに、こんなものか、と思うだけだった。
シェルとアイリスは、ランボルグ侯爵邸で、アイリスの傷が癒えるまで引きこもった。
学院は音楽祭の騒動で、休校となっていたからだ。
だが、ギルモンドとグイントは、邪教の後始末で忙しい日々であり、エシェル・ユーラニアの捜索も難航していた。
そんな中、エシェル・ユーラニアの存在を北の国からの書簡で知らされた。
それは、王に届いたアジレランド王国からの書簡だ。
アジレランド王国でも、邪教を弾圧しているが壊滅はできないでいた。
フランクとエシェルが、アジレランドの邪教の教会にいるという。
だが、ブルーゲルス王国の王子をアジレランドが処断すると、戦争につながる。
そのむねを、アジレランドから通達してきたのだった。
フランクが敵対するアジレランド王国にいるのは、諜報行為と取られても仕方ないことで、ましてや邪教の教会にいるというのは、アジレランド王国へと挑発行為でもある。
フランクを捕らえ、ブルーゲルス王国の蛮行として開戦宣誓をされることもありえるのを、通達してきたアジレランド王国の真意がわからない。
王をはじめ重臣達の間で、アジレランド王国への対応が検討される。
開戦するぞという脅しか、開戦を避けたいためか。
王太子ギルモンドが、アジレランド王国を訪問することになった。
ギルモンドが何度か視察をした砦を挟んで、敵対している国への訪問だ。
生命の保証はない。
だが、フランク・ブルーゲルスがアジレランド王国にいるのは、許されることではないのだ。
できるなら戦争は避けたい。
その為には、この書簡がアジレランド王国の誠意ならば、ブルーゲルス王国としても誠意を見せねばならない。
ブルーゲルス王国の使者として、王の返信を持ちアジレランド王国に向かう。
そして、ブルーゲルス王国の邪教の状態の確認と、フランクとエシェルの送還という使命だ。
そして王太子ならば、王族のフランクをその場でブルーゲルス王国の英断に任せる権限を持つからだ。
読んでいただき、ありがとうございました。