二人の尋問
マルクが騎士に案内されて尋問室に着いた時は、レオルドは全て証言した後だった。
「あいつに騙されたんだ・・」
椅子に座って背中を丸め、ブツブツ言っているのはレオルドである。
鞭打たれた背中に血が滲んでいるが、拷問という程の事はされていない。
あっけなく、全て白状したらしい。
根性のない男だ。
それが、マルクのレオルドに対する評価だ。
こんな男が、ユーラニア伯爵家に婿として入り込んでいたのか。
こんな男が、ロクサーヌとエシェルを殺したのか。
こんな男のせいで、9年間もシェルは苦しんだのか。
聖獣の加護のあるユーラニア伯爵家では、領地経営も投資も失敗することはない。それを自分の力と過信して、愛人を囲い、正妻が邪魔になって殺した。
愛人は自分に気持ちいい言葉を言うだろう、領地から出て来ない病弱な妻は面白くなかったろう。
だからこそ、マルクが仕掛けた罠の投資に、損失を取り戻せると簡単に乗ってきたのだろう。
マルクが横を見ると、ギルモンドも呆れている。
ギルモンドも9年間苦しんだのだ。こんな終わりになるとは、思ってもいなかった。
ギルモンドの側近のグイントがいないことから、グイントはユーラニア伯爵夫人の取り調べに行っているらしい。
「ランボルグ侯爵、他の部屋でグイントが尋問に付き添っている。そちらに行かないか?」
ギルモンドが立ちあがると、マルクも立ち上がる。ギルモンドは騎士達に目配せをして、後のことを任せる。
薄暗い軍部の廊下を、騎士に警護されてギルモンドとマルクが歩く。
女性騎士がいる部屋で、夫人の尋問が行われていた。
扉を少し開けて、密室にならないようにして尋問をするので、廊下に部屋の灯りがもれている。
扉に手をかける前に、扉が開かれた。
ギルモンドは当然のように、それを受け中に入る。グイントが椅子をひくと、ギルモンドが座る。
王太子の姿そのものである。その顔は冷徹で、感情を消した表情である。
きっと、ギルモンドはこの顔でエシェル・ユーラニアに接していたのだろう、とマルクに思わせた。
グイントは、ギルモンドとマルクに、夫人は黙秘を通して事情聴取は進んでいないと告げる。
夫人の様子は、冷静で貴婦人らしく姿勢を正していた。
元は平民だというが、レオルドよりずっと貴族らしい。
だが、長期戦になると、誰もが思っていた。
邪教の信徒である夫人からは、ロクサーヌとエシェル殺害以外にも、聞く必要がある。多少の拷問も必要になるだろうが、処刑は公開でなければならない。
シェルの名前を取り戻すために。
長い夜が、始まる。
他の信徒達への尋問も他の部屋で行われ、それぞれの情報がギルモンドの元に集まってくる。
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