罪の暴露
シェルは暗闇から出て、レオルド・ユーラニアと夫人の前に立つ。
銀の髪が揺れ、会場にいる観衆が全てを理解する。
『ユーラニア伯爵家は血統の銀髪の人間が継ぐ』
レオルド・ユーラニアがゆっくりとシェルを見て、眼を大きく見開いた。
入学式の時、馬車寄せで会っているが、それさえ忘れていて、初めて見るかのように唖然としている。
「生きていたのか・・・・・・」
「ユーラニア伯爵家の長女として生まれ、エシェルと名付けられた。
母と私は、父と愛人に毒を飲まされ、森に捨てられた。それを助けてくれたのがランボルグ侯爵家で、今は、エシェル・ランボルグと名乗っているわ」
怒りで震えるシェルの肩を抱いたのは、ギルモンドだ。昨夜ケガをしたとは、気付かせない動きである。
「9年前、僕はエシェルに求婚して、ユーラニア伯爵が婚約者として連れて来たのは、全くの別人だった。
ユーラニア伯爵は、僕とエシェルが面識があるなどとは、思いもしなかったのだろう。僕の婚約者は、ずっとこのエシェルだ。
ロクサーヌ・ユーラニアが伯爵で、レオルド・ユーラニアは入り婿の伯爵代理に過ぎない。今のユーラニア伯爵邸にいるのは、誰もユーラニア伯爵家の血統ではない」
ギルモンドの言葉が終わらないうちに、人々が立ちあがり、レオルド・ユーラニアと夫人への罵声が会場中に響く。
レオルド・ユーラニアは膝をつき床に力なく座り込み、夫人は叫んでいるが、二人とも騎士に拘束されて抵抗を封じられている。
「名を取り戻すために、正式な罪で裁く必要があった。伯爵家乗っ取りと、伯爵と嫡子を殺した罪はどれほどのものか。
母が社交をしないせいで姿を知られてなかったとしても、貴方の実家は知らないとは言わせない」
シェルは、レオルドの実家も処断を免れないと告げる。
何が起こっているのか、舞台のエシェルは理解を拒否していた。
お父様とお母様が、ユーラニア伯爵家を乗っ取った?
私は愛人の子供で、偽物のエシェル? 違う!
私はエシェル・ユーラニアで、ギルモンド王太子の婚約者よ。
勝ち誇ったエシェル・ランボルグの顔が見えて、エシェルの耳に観客席から両親を詰る怒声が飛び込んできた。膝が震え、立っているのがやっとである。
「こっちだ」
後ろから声をかけられ、手を引かれる。驚いたエシェルが身体全部で振り返ると、フランクがいた。
「今なら逃げられる。こっちだ」
フランクはエシェルの手を引いて舞台から降りるが、騒乱状態となっている会場では、演奏者に向ける注意は少ない。
控室の扉から外に出ようとした時、フランクが椅子に掛けてある上着を取ってエシェルにかける。
「そのドレスじゃ、外は寒いかもしれない」
「・・・ありがとう」
フランクの言葉が心に染み込む。
フランクに手を引かれ、エシェルは走った。
会場の騒動が外に知られる前に、出来るだけ遠くに逃げたい。
昨夜、ギルモンドを負傷させたフランクは、王家の馬車に乗ると捕まってしまうから、待機場所の馬を奪って、エシェルと二人で乗って駆け出した。
学院の外に出ると、騎士や兵士の姿が目に付く。
邪教を取りしまる為に、多くの兵士達が投入されているのだ。
フランクとエシェルは、兵士の居る場所を避けて、馬を走らせる。
エシェル・ランボルグが私の居場所を奪った。
エシェルの心の中に黒い想いが渦巻いていく。エシェル・ユーラニアは私よ。
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