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君と誓いの月夜  作者: violet
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音楽祭の幕開け

学院では音楽祭が始まり、多くの賓客が訪れていた。出演する学生の家族だけではなく、卒業生や来賓が招かれていて、華やかな中で厳かな演奏が始まった。


ユーラニア伯爵夫妻も娘の演奏を聴きに来校していた。

演奏会場は満席であったが、演奏者の家族ということで指定された席に着く。薄暗い会場は舞台にスポットライトをあて、次々と演奏が続く。


エシェル・ユーラニアの名が呼ばれ、この日の為に新調したピンクのドレスでエシェルが壇上に上がる。

拍手で迎えられ、エシェルが優雅にカーテシーを披露する。

エシェルがピアノの前に座ると、会場が静まり返る。

最初の音を奏でようとした時に、声が響いた。

「どうして、私を殺したの?」

スポットライトは、舞台ではなく、ユーラニア夫妻の席を照らす。

会場が(ざわ)めく中、レオルド・ユーラニアの隣に座っていた女性が立ちあがり、レオルドの方に倒れ込む。

会場の全ての人が注目して、レオルドの動きを目で追う。

レオルドは倒れ込んで来た女性をどかそうとして、女性の顔を見た。

「ロクサーヌ」

それは、忘れたと思っていた妻の顔。

銀の髪も、肌も瞳も、在りし日を思い出させる。


「違う! お前は死んだはずだ!」


「そう、9年前に死んだ。どうして、私を殺したの?」

椅子の影に隠れて、シェルが母親の声をまねる。


レオルドは、女性の身体を投げるように突き放す。それは、ロクサーヌの遺体である。このために、領地から運んで来たのだ。

「どうして、私を殺したの?」

シェルは、同じ言葉を繰り返す。会場は静まり返って、事の成り行きを見ている。

スポットライトから外れた暗闇の中から、アイリスとマルクが棒で突いて、ロクサーヌの遺体を動かす。

アイリスは熱が下がったものの、顔色は悪い。

ロクサーヌの顔をレオルドに向かすと、ガタガタと音がしてレオルドが椅子からずり落ちる。


「あなた、しっかりして。ロクサーヌは私よ」

レオルドの隣に座っているユーラニア夫人が、レオルドの肩に手をかける。


パン、とレオルドがユーラニア夫人の手を振り払う。

「触るな! 貧乏神が!

お前がロクサーヌと名乗りだしてから、私は損害続きだ!」

聖水の効果で、レオルドの精神感応は解除されていた。 もっと早くに気づくべきことに、ユーラニア夫人に感応されていて、疑問に思う事もなかったのだ。


ふわりとロクサーヌの銀の髪が、揺れる。


「ひいい! お前は死んだはずだ!」

レオルドの声は、演奏会場に響き渡る。周りの人間が固唾を飲んで、ユーラニア夫妻を見ているからだ。


「あなた、何を言っているの、私がロクサーヌ・ユーラニアよ!」

ユーラニア夫人がレオルドの口を止めようとするが、レオルドに振り払われる。


投資の失敗で多額の借財を背負って追い詰められ、毎晩のようにロクサーヌの幻影に悩まされて不眠になっていたレオルドは、ロクサーヌの遺体に我を失くしていた。ここがどこかも忘却してしまっていた。

「ユーラニア伯爵家は、代々、銀の髪だ! 町民のお前がユーラニアのはずがなかろう!」


エシェルは舞台に立ったまま、両親の姿を茫然(ぼうぜん)と見ていた。

ユーラニア伯爵家が代々銀の髪?

母親は? 私は?


「ロクサーヌとエシェルを殺して、お前達は成り代わったんだ! お前のせいで、私はロクサーヌに呪われている! 事業も投資も失敗ばかりだ!」


ひぃ!

会場から悲鳴があがる。

あまりの内容に、失神する夫人まで現れた。


「あなた、しっかりして!

皆さま、夫は妄想を言っているのです!」

ユーラニア夫人が、場を治めようとして大声を出すが、会場の人々は半信半疑だ。


座席の暗闇から、王太子ギルモンドが姿を現した。

「そこに横たわっているのは、ロクサーヌ・ユーラニア本人の遺体だ」

ギルモンドの後ろにはグイントと近衛の騎士が控えている。

「9年前に、毒で殺されたままの姿だ。これを奇跡といわずに何と言うのだ?」


ギルモンドの後ろから、キーサンス司教が前に出て来る。

彼はロクサーヌの遺体に駆け寄ると、祈りを捧げた。

「私は、9年前葬儀を執り行ったのです。その時から、ご遺体は変わっておりません」


ギルモンド王太子とキーサンス司教の登場で、会場の人々にも緊張がはしる。

「王家とロクサーヌ伯爵家は交流があった。9年前までは。

ロクサーヌ夫人とエシェル嬢の生死が確認できないうちは、二人の安全の為に公にできなかったが、ロクサーヌ夫人の遺体を見つけることが出来た。

そこにいるレオルド・ユーラニアが愛人と共謀して夫人と娘を殺し、愛人とその娘をロクサーヌとエシェルと名乗らせたのだ。

教会も、ユーラニア伯爵家を継ぐ条件が血統で銀の髪であることだと証明するだろう」


「王家と交流? 教会が証明? そんなこと知らない。

王家は最初から二人が偽物だと知っていたのか!?」

レオルド・ユーラニアが、(ほう)けたようにギルモンドに問いかけて、ギルモンドは首を縦に振って返答した。

「そうだ」


「違う! 私がロクサーヌよ!」

愛人と言われたユーラニア夫人が叫んだ。


読んでいただき、ありがとうございました。

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