フランクの逃走
治療を終えたギルモンドの前に立つのは、グイントだ。
「避けられたはずだ。わざと斬られにいったのか?」
王宮からの急使で呼び出されたグイントは不機嫌である。
「アイリスが熱を出しているんだ。傷が痛むだろうに、側についていてやりたいんだ」
王太子に対して、こんなことで呼び出すな、とまで言っている。
「悪かったな。僕もケガをしているんだぞ、アイリスへの半分ぐらい心配しろよ」
ギルモンドは使用人達を下げると、グイントと二人になる。
「フランクが邪教に関与しているかは定かでないが、エシェル・ユーラニアに同情的だ」
グイントは包帯が巻かれたギルモンドの腕を見る。
「その傷は、フランク王子に挑発するような事を言ったからだろう?
クラスにシェルを迎えに行った時、シェルを見ているフランク王子に気がついていたろう?
今回の犯人は1年生だ。フランク王子がエシェル嬢に精神関与された場合、シェルが狙われるのは命だけではないだろう。
お前はフランク王子を挑発して、自分に刃をむけるようにしむけたな。そしてフランク王子を排除する為に、大げさに倒れたのだろう?」
まるで見ていたようにグイントが言うのを、ギルモンドは否定をしない。
「フランクは僕を刺して、逃げた。それが現実だ」
ギルモンドがソファに深くもたれる。
フランク王子は、王族からの排除を免れない。逃げ出したフランクが頼るのは、王妃しかいない。
王妃に匿われているに、違いない。
その夜、王宮は慌ただしかった。
王も王太子も、フランクの行方を探す事をしなかった。
軍の騎士や兵士達は、日が昇ると共に、邪教の教会、信徒達、いくつものグループに分かれ、一斉検挙に動く。
明日は、音楽祭の当日でもある。
フランクは王妃を頼らずに、ユーラニア伯爵邸に来ていた。
兄に何か言われたとしても、耐えるべきだった。
兄は、エシェルを貶したのだ。
『つまらない女』
自分はエシェルと関わろうとしなかったのに、王太子の婚約者であろうと努力すらエシェルを否定する。思わず、懐に入れていた懐剣を取り出していた。
兄を斬ったのに、追手がないのも気になるが、おかげでスムーズにユーラニア伯爵邸に来られた。
屋敷の敷地内に入るとピアノの音が聴こえる。
フランクも明日演奏するのに、それどころではなかった。
ピアノの音をたどって行くと、窓からエシェルがピアノを弾く姿が見える。
優しいピアノの音を窓の下に座って聞いている。
メロディに合わせて指が、壁を打つ。
どれぐらい経っただろうか、ピアノの音が止まって、頭の上からエシェルの声がした。
「フランク殿下?」
窓からエシェルが、身を乗り出して下を見ていた。
声のする方向に見上げたフランクと、エシェルの視線が交わる。
「ダメ」
エシェルは、フランクの意識を操作したくない。
優しいフランクの言葉が、操られたものになってほしくないのだ。
すぐに視線を外したが、フランクがどうなったか分からない。
「どうして、ここに?」
「どうしてたろうな、きてしまったんだ」
偽らざるフランクの本音に聞こえた。
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