ギルモンドとフランクの争い
暴走しそうなギルモンドだが、冷静に判断できるようだ。
「シェルにクラスメイトが馬車の中に隠れて襲い掛かってきて、アイリスが負傷、馭者が死亡して騎士達が検分をしている。今は、優先すべきことがたくさんあると分かっている。
ただ、ロクサーヌ夫人に会える機会が他にはないだろうから、挨拶をさせてもらった」
ギルモンドがシェルの指先にそっと触れてくる。シェルが握り返すと、ギルモンドの頬が少し紅潮したような気がした。
ランボルグ侯爵邸を辞して、ギルモンドは軍部に寄り捜査状況を確認して王宮に戻って来たのは日にちも変わろうとする頃だ。
軍部に連行された学生二人は大人しいものだった、聖水を飲まされ意識が戻ると、自分達のしたことに恐怖しだしたのだった。どうしてあんなことをしたのかわからない、と泣くばかりの二人だ。
部屋の前に人影があるのに警護が気がつくが、それがフランク王子であると分かると態勢を緩める。
「こんな時間にどうした?」
エシェル・ユーラニアと親交があると報告を受けているフランクだ、用心するべきだとギルモンドは思っている。
精神感応を受けている可能性がある。
「兄上、お聞きしたいことがあります」
「こんな時間にか?」
ギルモンドも、フランクがこれぐらいで引き下がるとは思ってない。
警護に聞かれる訳にいかないから、フランクを私室に招き入れる。
「父上も兄上も、僕に隠していることがありますね。軍も動いている。
エシェルと婚約した時に、本物ではないと気がついていたのに、何故そのままにしたのですか?」
対面でソファーに座った途端、フランクは口早に話し出した。
「本物の夫人と令嬢が監禁されていた場合、婚約を続けて探る方が安全だと言ってましたけど、それで兄上は何をしたか分かっているのですか?」
バン、とフランクがセンターテーブルに手をつく。
「彼女を縛り付けて、放置して、今更本物が現われたから見せつける!?
どこまで彼女を苦しめるんですか! 婚約者になった彼女は悪くなかっただろう! 兄上が彼女を追いつめたから薬を使う事になったんだ!」
ギルモンドは口端をあげて、フランクを見る。
「悪くない? 存在自体が悪いんだよ。婚約者と呼ばれるたびに、僕がどれほど我慢したか、お前には分からない」
17歳のギルモンドは、ずっと大人びた表情をする。シェルを探した9年がそうさせた。
「一番悪いのは、レオルド・ユーラニアだ、それは間違いない。それと夫人。
だが、エシェルと名乗る女に罪がないだと? 偽物が本物を騙るのに罪がないだと?
あの女が生まれたから、犯行に及んだのだ。それが罪がないだと?」
「ユーラニア伯爵邸に連れてこられた時は、3歳だったのだろう。そこで呼ばれた名前を自分の名前だと思うじゃないか。6歳で兄上と婚約して、9年間も婚約者として生活してきたんだ」
フランクは兄が婚約者に対する扱いを、ずっと可哀想だと思っていたのだ。
「僕も父上も、あの女を婚約者として扱ったことはない。母上だけだ」
ギルモンドは、決してエシェルと呼ばない。
ガン!! ガッチャン!
大きな音がして、護衛が室内に飛びこんで見たのは、床に血を流して倒れるギルモンドだった。
窓ガラスが割れていて、フランクはそこから逃げたらしい。
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