放課後
読んでいただき、ありがとうございました。
生徒会室では、ギルモンド生徒会長を中心とした生徒会メンバーが揃っていた。
生徒会主催ではないが音楽祭には多くの来賓があり、成績優秀者の集まりである生徒会も対応が必要である。ましてや、王族、高位貴族が役員に名を連ねているのなら、来賓者が挨拶に来ないように手配が必要だ。
部外者が学院内に入り込むのは、警備の問題が重要課題である。王太子であるギルモンドの安全が最重要だ。
生徒会で遅れたがシェルとアイリスは、ギルモンドとグイントと別れてランボルグ侯爵家の馬車に乗り込む。生徒会室に長くいたから、周りも暗くなり始めていた。
ガタタ!
先に馬車に乗り込んだシェルが、身体を屈めたので大きな音がした。
馬車の座席の暗闇に、学生が隠れていたのだ。
だが、その手にはナイフが光っている。振り降ろされるそれを避けて、シェルが身体を屈めたのとアイリスが馬車に飛び込んだのは同意だった。
アイリスだけでなく、シェルも武術を習っていたおかげで、最初の一撃を避ける事ができたのだ。
狭い馬車の中で、ナイフを振り回す学生とその腕を掴んで止めようとするアイリスの身体が接触する。
シェルが馬車から飛び降りるのと入れ替わるように、異常に気づいた護衛の騎士が駆け込む。
「お前に天誅をくだす! これ見よがしな言葉がエシェル様を苦しめる、お前など殺してやる!」
大きな声が聞こえて、ランボルグ侯爵家の馬車が揺れる。
ギルモンドとグイントは狭い馬車の中に乗り込こむこともできず、飛び降りて来たシェルを庇いながら見守るしかなかった。
ほどなくして、護衛に拘束された学生と護衛の騎士が降りて来た。他の騎士が周りをかこみ、その後ろからアイリスが降りて来る。
「ぎゃああ!」
声をあげて、駆け寄ったのはグイントだ。
騎士に手を取られて馬車から降りて来たアイリスの左腕が斬られて血が流れているのだ。
「医者だ!」
騎士からアイリスを奪い取ったグイントが叫ぶ。それどころか、アイリスを抱き上げてシェラドール公爵家の馬車に乗り込む。
「ギルモンド、アイリスを医者に連れて行く。あとは頼む」
ギルモンドにもシェルにも言葉を発する隙をあたえずに、シェラドール公爵家の馬車は走り出した。
一番驚いているのは、ケガをしているアイリスかもしれない。
「これぐらい、すぐに治る」
ナイフで斬られたが、服の上からで傷も深くない。
「あいつ、シェルを狙っていた」
「ああ、よく守ったな」
グイントもアイリスの気持ちはわかるが、アイリスの傷は痕が残るだろうと思うと、自分が守れなかった不甲斐なさに後悔が押し寄せる。
馬車を確認してから、別れればよかった。
残されたギルモンドは、犯人の学生を騎士に預け、まずシェルをランボルグ侯爵家に送って行くことにする。そして、アイリスがシェラドール公爵邸で治療を受けると告げねばならない。
また、シェルが狙われた。
犯人はエシェルの取り巻きの一人だ。エシェルの指示か、犯人が一人でしたことかは分からないが、エシェルに思考を支配されているのだろう。
「シェルはケガしていないか?怖かったな?」
「大丈夫、お兄様が庇ってくれたから」
「殿下」
周りを調査していた護衛が声をかけると、ギルモンドは王太子の顔をする。
「馭者には学生が扮していて、馬車の待機場からこの馬車寄せまで馬車を動かしたようです。ランボルグ侯爵家の馭者は、待機場の隅で遺体で見つかりました」
横で聞いていたシェルはショックを隠し切れない。
私の復讐に巻き込まれて、ランボルグ侯爵家の使用人が殺された。