エシェルとフランク
学院の一角にエシェルは来ていた。ここは一人になりたい時に来る、校庭の片隅である。取り巻き達を置いて、一人で来たはずなのに、フランクが追ってきたようだ。
「なぜ、泣いているんだ?」
フランクはエシェルが木の陰で泣いているのを見て、驚いていた。
エシェルは何も言わずに顔を隠すように、下を向く。
「フランク殿下には、関係のないことです。どうか、ほっておいてください」
フランクはエシェルが持っているだろう薬を狙ってのことだったが、エシェルが泣いていて興が覚めた。
ドスン、とエシェルの足元に座り込んだフランクは、エシェルと目を合わせない。
「お前って、今まで兄上が無関心にしていても、平気なように見えてた」
泣いているのを見られたからか、エシェルが反論する。
「平気なはずない。すごく、辛いわ。でも、お父様もお母様も期待してるから、嫌だなんて言えない。
どうして、王太子殿下は私を邪険に扱うの? なら、どうして婚約を解消しないの?」
いつも、大人しく笑っているだけと思っていたエシェルが反論するから、フランクは驚きを隠せない。
だからといって、父から聞いた内容を話すほどの愚か者ではない。
「そんなに、兄上がいいわけ?」
フランクは、エシェルがギルモンドを好いているから、あんな対応をされても我慢しているのだと思っている。
「素晴らしい王太子殿下だわ。私以外には!
声もかけてもらえない、他の令嬢への好意を隠さない人を、好きでいられる?
でも、私は王太子妃になるしかないの。その為に・・」
子供を殺めた、とは口に出せない。
いつか振り向いてくれる、と思っていたこともあった。振り向いてもらえないなら、振り向かせるしかない。
あんな冷たい人は嫌い、なのに好きだった思いが残っている。
「それが、お前の本音?」
優しい声が聞こえるから、エシャルはフランクを見る。
フランクはエシェルを見ないで、手元に視線をおいたまま照れくさそうにしている。
王太子の婚約者として、エシェルとフランクには交流があったが、それは表面的なものでしかなかった。
「王妃陛下のお茶会や、季節の行事でお会いしたたけど、フランク殿下がこんな人なんて知らなかったわ」
泣き止んだエシェルが、クスリと笑う。
「なんだ、笑えるじゃないか。いつも、笑顔の仮面つけて大人しくしてるから、暗い奴だと思ってた」
フランクは王族として教育を受けているが、泣いている女の子を放置することはできない。
以前から、兄が婚約者に対する態度に不快感を持っていたから、事情を聞いても同感することはなかった。
それが、父から言われた要注意人物だとしても、エシェルは王太子の婚約者として懸命に努力していたことを知っているのだ
フランクがエシェルと接触したことは、すぐにギルモンドに報告された。
フランクがシェルに興味を持っているのを苦慮していたが、エシェルに興味を持つのは、兄弟対決にちかい。
母親は処断の対象だが、弟王子もとなると、王家の心象は悪くなるに違いない、とギルモンドは思う。
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