復讐する者の負担
シェルをベッドに寝かせて、アイリスとギルモンド、グイントはサロンで待機していた。
王太子であるギルモンドは王宮に執務を残しているが、とても帰る気にはならない。それをわかっているから、側近であるグイントは何も言わない。
「アイリス様」
シェルに付けている侍女がサロンに飛び込んできてアイリスを呼んだ時には、ギルモンドは飛び出していた。
その後を、グイント、アイリスが追う。
部屋から出ようとするシェルの足元はふらついている。
「シェル、もっと寝ていないと」
ギルモンドはシェルの腰を抱いて支えながら、ベッドに戻そうとする。
「分かっているの、でも、行かなくっちゃ」
シェルは抵抗して、部屋から出ようとする。
「お母様の仇を取らないといけないの。そんなにあの子がいいの!
どうして、同じ娘なのに、お父様はあの子を選んで私を殺したの?」
「君しかいらない!」
ギルモンドがシェルの髪に指を絡めると、シェルの視線がギルモンドに合う。
「ずっと、君だけを探していた。婚約を解消しなかったのは、あの子じゃない、君がエシェル・ユーラニアだからだ」
「あ、あああ!」
喉をかきむしるようにして、シェルが叫ぶ。
「傷をつくってしまう」
シェルの手をギルモンドが優しくほどくと、シェルの涙が止まらない。
その様子を、アイリスが後ろで見ていた。
「昔は、寝るとうなされていて、いつも添い寝をしてた。
お母様ごめんなさい、私だけ生きていてごめんなさい、って泣くんだ」
両手を広げて子供を抱くように曲げる。
グイントは、ただアイリスの言葉を聞いている。
「最近は、そんなことなかったのに、父親と会って心の傷が開いてしまったのかな?
それにシェルを慰めるのは、僕の役目だったのに、寂しいな」
肩を引寄せられて、アイリスはグイントの体温を知る。温かい。
シェルは、まだ15歳。
父親への憎しみが大きすぎて、不安定になっているのかもしれない。
「シェルは優しい娘だから、母親の想いを受けちゃうんだよ」
アイリスの表情は、妹思いの兄だ。
あまりに美しくて、グイントは魔が差した。
ちゅぅ。
それは一瞬で、アイリスは自分の唇に起こったことが認識できなかった。
ガン!
グイントの頬が殴られた。
アイリスではなく、シェルにだ。
さっきまで弱り切っていたシェルなのに、アイリスがグイントにキスされるのを見て、シェルが飛び込んできてグイントを殴ったのだ。
「なんて手の早い男! お兄様になんてことするの!」
一気にアイリスの顔が真っ赤になって、シェルはグイントを睨む。
「こんなの犬に噛まれたと思って、ファーストキスにカウントしちゃだめよ」
シェルがアイリスのファーストキスだとばらして、アイリスは耳まで真っ赤だ。
「ちょっと、シェル、それ以上いわないで」
「へぇ、ファーストキスか。もう運命だね」
グイントは飄々としてシェルに対峙する。
「グイント、僕とシェルがいい感じだったのに、ぶち壊してくれたな」
ギルモンドまで、グイントに文句を言いだしたら、シェルに一喝される。
「そんな事はどうでもいいから!」
シェルの心の傷は、上書きされたかもしれない。
代わりに、ギルモンドが落ち込んだ。
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