シェルの怒り
シェルは怒りに燃えていた。
「貧民街の住人は殺されてもいい、というの!?
邪教の信徒を捕縛するのが遅れる間に、生け贄にされる人間が増えるのよ!
一網打尽!?
そんな手配している間に、信徒が増えればドンドン後延ばしになっちゃうっての!」
ガッチャンっ!
大きな音を立てて椅子が倒れる。シェルが机を叩いた振動で椅子が倒れたのだ。
「シェル!」
声を荒げたのはアイリスで、ギルモンドとグイントは目を見開いて見ている。
フェイラー先生の準備室でランチをしながら、ギルモンドが邪教への対応を伝えたら、シェルが怒りだして、淑女としてありえない行動をしたのだ。
「シェル、ここは借りている部屋で、遺物や貴重な資料がたくさんある。
ここで乱暴な行動をするのは許されない」
アイリスの言葉に、さらにギルモンドとグイントが息を飲む。貴重な品々があると注意しても、シェルが令嬢らしくするようには注意しないからだ。
アイリスは二人を見て、溜息をついた。
「僕もシェルと同意見だ」
アイリスは立ちあがり、シェルと部屋を出て行こうとするのを、グイントが腕を掴む。
「どこに行く!?」
焦っているグイントの声は荒れている。
「悠長なことをしていられない。ユーラニア伯爵を追い詰めに行くわ」
答えたのはシェルである。だが、そのシェルの前にギルモンドが立ちはだかる。
「まだ、午後の授業がある」
ギルモンドからは怒りではなく冷静さを感じて、アイリスとシェルも一息をつく。
「生徒会の主催ではないが、もうすぐ音楽祭がある。エシェル・ユーラニアはピアノが得意だ。音楽祭に出場して家族が見に来るだろう。学生の家族が多数来場する。
その場を報復の場としてはどうだろうか?」
レオルド・ユーラニアには、密かに聖水を含ませた水を飲取させている。意識が長期にわたって夫人の支配下であっても、多少の自我の解放ができているだろう。
「そうね、私を取り戻すためには、大勢の目撃者が必要だわ。 伯爵は投資の損失で、焦って逼迫しているはず」
シェルは、ユーラニア伯爵を追い詰める計画を前倒しにするシュミレーションを考える。
その姿にギルモンドは見惚れる。
行方不明の9年間、いろんなシェルを想像していた。だが、実際のシェルはそれより何倍も輝いていて眩しい。
「確かに、殿下のいうとおりだ。邪教の生け贄という言葉に過敏に反応してしまった」
アイリスも落ち着いて返事する。
「邪教の方は、陛下やシェイドラ公爵にお任せします。元々、それは考慮になかったことだから。
せっかくのお膳立てだから、僕らは音楽祭をつかわせてもらううよ。
必ず、ユーラニア伯爵を出席させてよね。
じゃ、午後の授業に出席する、シェルを送ってくるよ」
「二人じゃ危険だから、送って行くよ」
グイントが二人を追いかけるように、ギルモンドを部屋に残して出て行く。
部屋の外では、アイリスがグイントを邪険にあしらっている声が聞こえた。
「僕は父上に報告して、邪教弾圧の準備にはいるか。
その前に母上を、どうするのかな」
父上は、という言葉はギルモンドからはでてこない。もう結果が想定できているからだ。
ギルモンドが呼ぶと、影の護衛が現われる。
「王宮に戻る」
その言葉に影が動いた。
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