ユーラニア伯爵家に潜む者
『ランボルグ侯爵も諜報を潜ませており、情報収集の為に協力する必要がある。お互いが認識できるように割符を与える。ランボルグ侯爵家の諜報と合わせれば紋ができる』
王から言われた言葉を思い出しながら、インデラは割符を取り出す。
「これで探し出せ、ということか」
ユーラニア伯爵家に潜り込んで5年になる。怪しい人物は少なからずいるが、諜報員と特定できる人物はいない。
きっと、あっちも指示を受けて王家の隠密をさがしているに違いない。
王家とランボルグ侯爵家以外もいるかもしれないから、慎重に動くべきだろう、と考えながらインデラはユーラニア伯爵夫人の後をつける。
夫人は共を付けずに、月に何度か街に出かける。それは教会に参拝に行くのだ。多額の寄付をしており、熱心な信者らしく礼拝を欠かさない。
その教会を調べる過程で、国教でない可能性がでてきた。
邪教と結論つけたのは、枢機卿を含めた教会関係者の調査の結果だ。教会に残る古い文献から、大聖堂の湧き水で作る聖水に効力があるのを発見した。
インデラの他に2名がユーラニア伯爵家で諜報しており、先日、王太子とシェイドラ公子が忍んで来た時に協力した。
インデラは、他にも夫人の後と追跡人物を見つけた。庭師のハンズだ。
ハンズもインデラに気がついたようで、懐から割符を取り出していた。インデラの割符と合わせると紋が出来上がる。本物のようである。
「夫人の侍女のインデラさんとは、思いもしなかったな」
確認の終わった割符を受け取って、ハンズは女性が諜報をしていると思ってなかったのだ。
「私は、貴方と料理人のダックスも怪しいと思っていたわ」
「正解だ、仲間だ。こちらは俺とダックスの二人だ」
「私と他の二人。他の二人は隠密行動だから明かせない。私が連絡係になるわ」
インデラの言葉に、ハンズは頷く。
「わかった。まぁ、目星をつけているのはいるがね」
ゆっくり話している時ではない。
ユーラニア伯爵夫人が教会に入って行く。インデラとハンズは足音を消して、教会に近寄る。
教会の礼拝堂には、ユーラニア伯爵夫人の他に、数人の参拝者がいるようだった。礼拝を終えた教会から出てきた参拝者の後ろをインデラが付いて行く。
その様子をみて、ハンズも後を追う。
夫人の動向より、この参拝者の男性が重要だとインデラが判断したということだ。
ハンズはランボルグ侯爵から届いた文を思い出していた。
『ユーラニア伯爵家に派遣されている王家の諜報員を探り、協力せよ。ユーラニア伯爵家は古の呪い、邪教と関係がある』
邪教を知らないハンズだが、まともな宗教でないことは推測できる。
参拝者の男性は下町に入って行き、浮浪者に何か話しかけているようだ。
参拝者の男がいなくなってから、ハンズは浮浪者に近づいて、1銅貨を握らせた。
「さっき、何の話をしてたんだ?」
浮浪者は銅貨に機嫌が良くなったのか、抵抗なく話をする。
「仕事を紹介してくれるというから、夜になったら3人程連れてあの人の店に行くんだ」
ハンズはインデラに、夜になったら参拝者の男の店を見張りに行くことを伝える。
「これを必ず持っていて、気持ちがおかしくなったら飲んでください」
インデラが渡したのは聖水である。
ハンズは男の店の屋根裏に潜んで様子を見ていると、4人の浮浪者が男を訪ねて来て、奥の部屋に連れていかれた。
そこで行われていたのは、邪教の儀式であった。
浮浪者の一人が生け贄にされるのを屋根裏から見ていた。あまりのことに、聖水を飲んで意識を保つのが精一杯であった。
「夫人が二人所望だから、残りはいつもの所に監禁しておくように」
男が仲間の一人に言うのを、ハンズは聞いた。
屋根裏には他の気配もあったから、王の間者も潜んでいるのだろう。
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